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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
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錬金術師パラケルスス



「さて、君たちは防具を受け取りに来たんだったね。」


「はい。」


「中々興味深い仕事だったよ。久々に熱中してしまった。」


そう言いながら、パラケルススは実験器具が散乱するテーブルの上にペンダントを置いた。

少し太い紐に括りつけられているのは円形の枠にルビーのように真っ赤な宝玉が嵌め込まれたアクセサリー。枠には複雑な文様な描かれており、相当高価なモノに見える。


「さあ、これがお望みのモノだ。」


「これが? 単なるペンダントにしか見えないけど……」


「ふふん。素人にはそう見えるだろうな。騙されたと思って、掛けてみると良い。」


「大丈夫ですよ。これの製作には私も携わりましたし、期待通りの品になっていますよ。」


「クリスタさんがそう言うなら……」


訝しげに思いながらもペンダントを首に掛けるアテラス。

その刹那、宝玉が鮮やかな光が放出され、彼女の小柄な肢体を包み込む。あまりの眩しさに思わず目を瞑る中でパラケルススとクリスタの合作はその力を顕出する。


クレスから与えられた衣服は分解され、代わりにその身体を黒いインナーが包み込む。

競泳水着のように肌にピッタリと張り付くようなインナーの上に緋色の鎧が形成される。

焔を彷彿される鎧はアテラスの小柄な胴体のみを覆い、膝から下も同じような装甲に覆われて、ようやく閃光が収まる。


「だいせいこーう♪」


「うむ。まあ、当然の結果だな。」


「えぇぇぇっ!! ぺ、ペンダントが一瞬で鎧に……」


「これこそ、わたしとクリスタが開発した新技術だ。君から貰った不思議な槍を材料に錬金術で拵えたこの世にない一品さ。」


ふふん、と自分の成果を誇るように薄い胸板を張るパラケルスス。

ティアマトによる大規模な襲撃な事件の後、魔槍アスカロンを核にして防具を製作するように頼んだのはアテラス本人だが、このような逸品が出来上がるとは思わなかった。


魔槍アスカロンは竜の力を高める不思議な力を持つが、手に持っていないと意味が無い。

パナシーア家で訓練を重ねる内に槍を使って戦うよりも魔法を交えた徒手空拳の方が向いていると判明したために使い所が難しくなってしまった。そこでクレスの発案によって有事の際、常に身に着けるモノ――防具へと鍛え直されることになったのだ


その後はクリスタに任せていたので、アテラスは防具の作成にノータッチ。

このような特殊な防具になっていることなど、今この場で初めて知ったぐらいだ。


「有事の際にすぐに装着できる鎧……量産できれば心強いでしょうね。」


そう言いながら、クレスはパラケルススをチラッと見る。

それに対して、彼女は首を左右に振り、その考えを否定する。


「生憎と、核となるあの槍のように破壊再生の力を持つ物がないと作れない。いくら錬金術師でも無から一を作り上げることはできない。」


「それは残念ね。高位の冒険者に売れると思ったのだけれど……」


「残念だったな。まっ、相当な対価を積まれない限り、二度と作らんが。さて、着心地はどうだ?」


「……うん、最高だわ。余計な部分に鎧がないおかげで、とても動きやすい。」


緋色の鎧が覆い隠すのはアテラスの胴体と膝から下の部分だけ。

関節部は一切保護されいない反面、邪魔になるモノがないので動きやすさをは高い。

特に今のアテラスは両腕をドラゴンの腕に変化させて戦うことが多いので、両腕が露出している方が有り難かった。


「それは上々。では、対価を頂こうか。」


「ええ。」


アテラスが対価として差し出したのは、もちろんお金。

一般人からすれば卒倒するような金額だが、常日頃から魔物(モンスター)退治という危険な仕事を請け負っている彼女からすれば大金ではあるものの、全財産の一部に過ぎない。さらに言えば、女神シンモラからヴェーレス襲撃事件の報酬もたんまり貰っているので、それほど懐にダメージはない。


しかしながら、そんな大金を前にしてもパラケルススは不服そうな表情を浮かべた。

正確な金額を数えることもなく、大金が入った袋をアテラスにつき返す。


「お金は要らない。その代わり、貴女を所望する。」


「……はい?」


「伝承にしか存在しない竜人族。どんなお宝よりも貴重なモノ。だから、報酬として貴女を所望する。」


「いや、それはちょっと……」


「……ダメ?」


「ダメに決まってますわ!! アテラスはわたくしの妹!! 渡す訳にはいきませんわ!!」


「むぅ……独り占めはズルい。」


そう言って、むくれるパラケルスス。

すると、彼女は空間を切り裂くアゾット剣を振るうと、虚空に空間の裂け目を作り上げる。

そこに手を突っ込んで何をするのかと見つめている2人の前で、取り出されたのは一本の杖だった。


深紅の宝玉が先端に取り付けられ、それを取り巻くように自分の尾に噛みつく蛇の彫像が装飾されている。それを演舞にように振り回したかと思うと、その先端をクレスに突きつけた。


「じゃあ、無理にでも手に入れる。」


「させると思いますの?」


そう言って、クレスもホルスターから2丁の銃を抜く。

両者互いににらみ合い、一触即発な空気が流れる。


どうすればいいのか分からずおろおろするアテラスに対し、クリスタは慣れているのか呆れて肩を竦めるだけ。


「まったく……パラケ!!」


「何だね? この上ない最上の素材が手に入る機会を邪魔するなら、クリスタとて……」


「じゃあ、コレ要らないの?」


クリスタが取り出したのは麻布の袋。

袋の中身に対して怪訝そうに見つめるパラケルススに見せびらかすかのように、その中身をさらけ出す。

そして、袋一杯に入ったものの正体を察した瞬間、目の色が豹変して標的をクレスからクリスタへと変える。


「ほら、これあげるから落ち着きなさい。」


「こ、こんなに一杯……ど、どうやって手に入れたの!?」


「アテラスちゃんから受け取ってたのよ。防具の材料として使って欲しいって。防具製作に結構使ったけど、それでもまだ残ってたのよ。」


「ふ、ふわぁぁぁ……♪ こ、これだけあれば、あんな実験もこんな実験も」


さっきまでの鉄面皮は何処に行ったのか、だらしくなく表情を緩め、涎を垂らす。

その様子に毒気を抜かれたクレスも銃をホルスターに戻して、アテラスに訊ねる。


「ねえ、あの子に一体何を渡したの?」


「ワタシの鱗とか爪を大量に。竜の素材からどんな強力な武器や防具が作れるのかな、と興味本位で……。」


そう、クリスタの袋の中身は以前にアテラスから受け取った鱗や爪。

両腕や両足を自由自在に竜化させることができるようになった彼女は定期的に自分の鱗や爪を素材としてクリスタ、カリオンの両名に渡していたのだ。再生力が高いため、鱗や爪は失ってもすぐに元に戻ることを利用した素材調達である。


それを聞いたクレスはニコニコと笑みを浮かべる。

しかし、アテラスはその笑みに寒気を感じ、ぞわぞわと鳥肌が立つ。


「アテラス、その素材を渡したのはカリオン工房の2人だけ?」


「えっと……薬屋のアスクさんにも少し……」


「ふ~ん、それも自分から渡したのかしら?」


「ど、ドラゴンの素材は薬にもなるって本で読んだから、興味本位で……」


「そっかぁ……そんなことしていたんだねぇ。」


「ひぃ!?」


ニコニコと笑顔を張り付けたまま近づいてくるクレスに、アテラスは思わず後退る。

しかし、パラケルススの工房はそれほど広くないため、あっという間に壁際まで追いつめられる。

ガクガクと膝は笑い、今にも涙が零れ落ちそうになる。


「ねぇ、アテラス。貴女、自分が世間に与える影響って考えたことがある? 竜の素材の有効性が示されたら、どうなるか分かってるの?」


「それは分かってるけど……でも、お世話になってる人だったから大丈夫かなぁって。」


「知ってる? 魔法の中には相手の記憶を覗くモノもあるのよ。つまり、素材の出所なんて簡単に知ることができるの。」


ちなみに、アテラスが提供した素材はすでに薬の材料として使われている。


作成された薬はすでに「竜秘薬」という名称で一般に売り出されている。

効力は一時的な身体能力向上と再生力向上、魔力回復という冒険者なら1つは持っておきたい代物だ。

素材が貴重なため、量産はされていないものの、冒険者の間にはその存在がすでに知られている。


しかし、これがクレスに知られれば更なるお説教が待っているのは確実。

故にアテラスは口を閉じる道を選択した。後から知られれば、更にキツイお説教を食らうことになるのだが、この時の彼女の思考はお説教から逃れることだけに集中していたためにそこまで思考が回らなかった。


「え、えっと……お姉さま、ここではよそ様の御宅ですし、説教はまた今度で……」


「奥に使っている部屋があるから使いたいなら使っても構わない。」


「ちょっ!?」


「へぇ、それはいいことを聞いたわ。じゃあ、アテラス行きましょうか。」


そう言って、クレスは有無を言わさずアテラスを工房奥へと引きずり込む。

クリスタに助けを求めるものの、返ってきたのは「ごめんね」という4文字だけ。

無情にも訴えは切り捨てられ、アテラスはそのまま地獄へと連れ去れるのだった。






◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆





「ひ、酷い目に合った……」


「自業自得だと思うぞ。」


クレスのお説教地獄からようやく解放されたアテラスは、強敵と一戦交えたように疲弊していた。

本当なら今すぐにでもホテルのベッドに飛び込んで夢の国へと旅立ちたい所だが、それは許されなかった。クレスからダンジョンに潜り、上位魔法書を取りに行くように罰を与えられたのだ。


そういう訳で、パラケルススとクリスタの案内を受け、アテラスはミミルの街にあるダンジョン――【レジエル魔導図書館】を訪れていた。


「着きましたよ、此処が“レジエル魔導図書館”です。」


「此処が……ダンジョン?」


2人に案内された先は到底、ダンジョンには見えない施設だった。むしろ、外見はどう見ても学び舎。

違う点があるとすれば、コンクリート製ではなく木造の校舎であることぐらい。

その証拠にカバンを背負った幼子が同級生と挨拶を交わしながら建物の中へと入っていく。


「ミミルのダンジョンはこの学院の地下にある。」


「この学院の生徒はレジエル魔導図書館の第1層を普通の図書館代わりに利用しているんですよ。」


「それ、危なくないの? ダンジョンに間違って生徒が入ったりしそうだけど……」


「結界が張ってあるので、許可がないと普通は魔物(モンスター)が出る区画まで入れません。まあ、例外はありますが……」


「例外?」


「結界をすり抜けて、レジエル魔導図書館に侵入した生徒が居たんですよ。教員が大騒ぎする中、本人は自由気ままに図書館の奥へ降りていき、2年余りをダンジョンの中で過ごしました。」


「2年も!? よく無事だったわね……」


「ええ、本当に。あの時はよく生きて帰れたものです。」


「あの時は楽しかったね。」


そう言って、何処か遠い目をするクリスタに対して、パラケルススは頬を緩めている。

その反応だけで件の問題児が誰なのかがはっきり分かる。


「話を戻しますが、第1層は普通の図書館で本番となるのは第2層からになります。」


「ちなみに、冒険者であれば誰でも入れる。実績がある人なら下層への近道も使える。」


「そんなモノがあるの?」


「ある。こっち。」


アテラスの手を引いて、校舎の入り口は別の方角に案内するパラケルスス。

場所としては校舎の正門とは反対側。正門以外は壁に覆われているため、裏側も高い壁が聳え立っているのだが、そこには地下へと伸びる階段が代わりに設けられていた。しかし、その階段は途中で複雑な文様が刻まれた扉によって遮られている。


間違ってダンジョンに入らないようにするための処置だろう。


「ここが下層への入り口。此処から入れば、上位魔法書がドロップする階層に行ける。」


「へぇ、それは便利ね。帰りも使えるの?」


「もちろん。行き帰り自由だから、危なくなったらすぐに引き返せる。」


「なるほど……教えてくれてありがとう。でも、今のワタシには使えないわね。」


「大丈夫。」


そう言って、パラケルススはポケットから取り出したカードを掲げる。

すると、下層へと続く階段を途中で寸断していた重厚な扉が音を立てて、開いた。


「パーティを組んで入る場合、誰か1人が下層への到達実績があれば扉は開く。」


「下層への到達実績って……パラケルスス、貴女研究者じゃなかったの?」


「本職は研究。でも、下層に行けば行くほど貴重な書物が読めるから頑張った。」


「とんでもない熱意ね……まさか、クリスタも!?」


「残念ながら、中層止まりです。でも、足手纏いにはなりませんので安心してください。」


「大丈夫。この3人ならいきなり下層でも問題ない。」


「ワタシはすごく不安なのだけれど……」


しかし、アテラスの心境は無視された。

迷いことなく【レジエル魔導図書館】下層へと繋がる階段を下りていくパラケルススと臆することなく、親友の後に続くクリスタ。このまま手ぶらで帰る訳にもいかないので、一抹の不安を抱きながらもアテラスは2人の後を追い掛けるのだった。

【悲報】魔槍アスカロン、出番終了。


行き当たりばったりで、ほとんど設定も固めずに突っ走った弊害です。

当初の予定では主人公は槍をメインウェポンにして戦う予定だったのですが、途中で徒手空拳の方が良いな、ってなったのがアスカロンを登場させた後だったのでとても短い出番となりました。

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