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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
33/37

襲撃を終えて



グロアス魔国の幹部、【征服姫】ティアマトによる襲撃事件から数日後。

まだ襲撃の爪痕を残すヴェーレスの街では復興作業が急ピッチで進められていた。

市街地の家屋にも小さくない被害が出たが、それらは後回しにされて多くの人員が防壁の修理部隊に振り分けられていた。

何せ、此度の襲撃で防壁が一部とは完全に破壊されてしまったためにいつでも郊外に居る魔物(モンスター)が入って来れるような状態。これをいつまでも放置しておく訳にはいかない。


「オーライ、オーライ!! そのままゆっくり下ろしてくれ!!」


クリスタが跨るグリフォンのグレイヴがゆっくりと降下する。

その胴体には防壁の材料となる石材が吊り下げられており、指定の場所にはめ込まれる。


「良し、オッケーだ!! クリスタ、グレイヴはまだ大丈夫そうか?」


「まだまだ大丈夫そうだよ。あの子が手伝ってくれるおかげで、負担も少ないし。」


「ああ。本当に助かる。」


クリスタとカリオンが見つめる先には、グレイヴと同じように石材を運ぶ少女の姿。

10代前半ぐらいの子供にしか見えない身長に対して、持ち上げているのは何倍も大きな石材。

竜翼を力強く羽ばたかせながら大人たちの指示に従って動くのは、先の襲撃事件の立役者であるアテラスだった。


襲撃事件前は白いヴェールに隠されていた角や翼は惜しげもなく、衆目に晒されている。

しかし、それを奇異な視線で見つめる者は誰も居ない。それどころか、あっちへこっちへ動き回る彼女に対して暖かい視線が向けられている。


「アテラスちゃん、ホント凄いわね。あんなに小さいのに。」


「最上位種モンスター、アポリュオン・ボアの討伐に復興支援。あの子が居なかったら、この工事もどれほど掛かっただろうな。」


「ホントにね~。石材のカットから運搬までやってくれてるんだもん。」


2人の視線の先には、今度は石材のカットに取り掛かるアテラスの姿。

ジャンプからの宙返りで勢いよくテイルブレードを未加工の石材に叩きつけて一刀両断。強力な切れ味を誇るソレは石材程度なら容易く切り裂くことができる。自分から手伝いを申し出た時は工事現場の人たちは遠慮したが、練習にちょうど良いから」という理由で無理に参加している。


今となっては、イヤな顔一つせずに手伝う彼女は同僚ととても馴染んでいるが。


「でも、あの嬢ちゃん。今はとんでもない重役なんだよな……」


「そうなんだよねぇ……世の中何があるか分からないものね。」


そう呟いて、2人はヴェーレス防衛戦の翌日に起こったイベントを思い出した。


幼い見掛けに反してアリサ商会の長を務め、更には《魔弾》の異名を持つクレス・パナシーアからヴェーレスの住民に向けに行われた緊急会見。

有事の際の自衛を領主から委託されている彼女が召集した会見だったので、昨日の襲撃事件についてだろうと多くの住人が判断した。

そして、会見に集まった住人に対してクレスはこう告げた。


「この子、私の妹(・・・)になったアテラス・パナシーアって言うの。みんな、よろしく♪」


その言葉を聞いた瞬間、会場に集まった人の眼が点になったのは言うまでもない。

さらには彼女の正体が伝説の存在である竜人族であること、先の襲撃事件を終結させた立役者が彼女であること。すべてを洗いざらい話した。

そして、最後にまるで見えない敵を脅すかのようにクレスは宣言した。


「私の妹に手を出したら、容赦なく叩きつぶすから覚悟しなさいよ?」


殺気を交えた宣告に多くの人が震えあがった。

こうして、アテラスはアテラス・パナシーアと名前を変えて、アリサ商会の庇護下に入ることとなった。



閑話休題



「そういえば、クリスタ。防具の製作依頼が来てたが、順調なのか?」


「う~ん何とも言えない。構想は決まってるんだけど……どうやって実現するか考え中。」


「あんまり複雑な機構はオススメしないぞ? 材料に限りはあるんだからな。」


「分かってるよ。」


「なら良し。作業に戻るか。」


「りょーかい。それじゃあ、グレイヴ。もう少し頑張ってね。」


「キュアアアアアアアアッ!!」





・・・




・・・・・・




・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・



その日の夜。

アテラスはつい最近、自宅となったアリサ商会に戻ってきた。

帰るなり宛がわれた自室のベッドに飛び込んで、一日の疲れを癒す。


「あ~……疲れた。」


「おいおい、あんまり羽目を外すと教育担当からお説教だぞ?」


「対外的にはちゃんとした口調で喋ってるから大丈夫だよ。自室ぐらいは許してくれ。」


アテラスはベッドに突っ伏したままぐいーっと身体を伸ばす。

その首には今まで存在していた奴隷の証である首輪はない。クレスの妹になったことで奴隷契約は解除され、市民権を得られた彼女にもう首輪は必要ないのだ。


「はぁ……まさか、こんなに厳しいと思わなかった。」


「そりゃ、厳しくもするだろう。何せ、今のお前はクレスの妹なんだから、立ち振る舞いはそれ相応にしておかないと。」


「それはそうだけど……」


襲撃事件が明けてから、目覚めるとアテラスを取り巻く状況は大きく変わっていた。

何せ、領主の奴隷という立場からヴェーレスのトップ2と称されるクレスの妹へ。コイが竜になるような変貌っぷりである。

しかし、それに伴ってアテラスにはそれ相応の立ち居振る舞いが求められる訳で、ついさっきまで教育担当に扱きに扱かれた所だ。


「というか、エテルナは何で免除されるのさ?」


「おいおい、忘れてないか? アタシは領主であり、女神シンモラ様の御付だったんだぜ? 公式の場での振る舞い位心得ているさ。」


「ああ、そっか。クレスに会ったのも、その伝手なんだっけ?」


「そうだよ。シンモラ様の御付で社交界に出てた時に会ったんだけど……プッ!!」


当時のことを思い出したのか、エテルナは思わず噴き出した。


「ど、どうしたのさ?」


「わ、悪い悪い。社交界で初めて会った時のクレスを思い出してな。」


「どういうこと?」


「意外かもしれないけど、クレスって昔は男勝りな喋り方だったんだ。しかも、髪は短いし、服装も男物だから男に間違われていたんだよ。」


「え、えええ!?」


エテルナから告げられた意外過ぎる姉の一面に面食らうアテラス。

その反応に気を良くしたのか、エテルナは当時の様子を饒舌に話し始めた。


「もう知ってるかもしれないが、クレスは元々は冒険者。だから、他の奴に嘗められないように男っぽい服装とか喋り方をしてたんだ。」


「ああ、納得。――――ん? それじゃあ、何がきっかけで今みたいなったのさ?」


「アタシがクレスと初めて会った社交界だよ。その場に居合わせたシンモラ様がクレスを見るなり、“女の子がそんな恰好と喋り方じゃあダメです!!”って暴走してな。」


「つまり、俺と同じような目にあったって訳か……」


「正解。まあ、教育担当がシンモラ様って違うはあるけどな。」


「うわ、羨ましい。俺なんて、怖ーい教官なのに。」


アテラスの教育担当はツリ目の怖そうな女性である。

教育は非常に苛烈で、アテラスが少しでも相応しくない立ち振る舞いをすればハリセンでスパーンと叩かれる。昔の漫画のようにムチで叩かれないだけ優しいのかもしれないが……


「その言葉、聞かれたらお説教だぞ?」


「分かってる。人前では絶対に言わないさ。自室ぐらいは自由に居させてくれ。」


「まあ、アタシは別に構わないけどな。くれぐれもオンオフは切り替えるようにしろよ?」


「ありがと。そういえば、エテルナ、体の方は大丈夫なのか?」


「ああ。こうやって日常生活が送れるくらいには回復した。」


エテルナがアポリュオン・ボアの攻撃を防ぐために使用した魔法の極致。

発動に膨大な魔力を必要とするソレを彼女は自身の寿命を燃やすことで行使した。

妖精は長命種なので、ヒトよりも長い寿命を持つ。そのため、すぐに命の灯火が消えてしまうことはないが、身体には後遺症が残ってしまった。


今のエテルナは翼を動かすことはできず、また身体能力も見た目相応。

本人曰く、後遺症で一時的に魔力を循環されることができなくなっているらしい。

これでもマシになった方で、襲撃事件の翌日は土気色の顔で丸一日眠っていたしする。


「戦闘は……まだ無理だな。というか、戦闘用の魔法どころか日常的に魔法も使えないし。」


「そっか……魔力はあるんだよな?」


「ああ。魔力を身体に循環させる回路みたいなのがズタズタになってることが原因みたいだ。」


「……それって大丈夫なのか?」


「修復不可能なぐらいまでズタズタになってないから、大丈夫だ。ただ……」


「ただ?」


「いや、修復が異常なくらい早いらしい。本当なら、数か月掛けて自然治癒していく筈みたいだな。」


「異常な再生力……」


エテルナの話を聞いて、アテラスはあることを思い出した。


この世界では、異常な再生力を持つ種族が少なからず存在する。

代表的なモノで言えば、吸血鬼(ヴァンパイア)不死鳥(フェニックス)が挙げられる。しかし、もはやインチキ染みた再生力を持たないまでも、他の種族も高い再生力を持つ種族が居る。


それが竜種。ひいては竜の力を持つ竜人族である。


個体差はあるものの、大なり小なり他の種族よりも高い再生力を誇る。

竜種の多くは巨体なのでその力が目立つことは少ないが、その再生力が普通の人間サイズまで凝縮されているなら異常な再生力を持っているように見えるだろう。


(精神世界で会ったバハムート……アイツはエテルナのことを知ってる風な口振りだった。)


バハムートが活動していたのは百年以上前の事だが、妖精族は長命なので生きていても不思議はない。

さらに言えば、エテルナは過去の記憶を全て失っており、思い出せるのは数年前の記憶から。

故に、過去にバハムートと繋がりがあっても矛盾はない。


(何か、繋がりがあるのは確かだな。最も、それを確かめる手段はない訳だが――――って、あんまり他人の心配をしている余裕がある訳じゃないんだよな。)


アテラスは寝ころんだまま、自分の手をニギニギする。

此度の襲撃事件で固有魔法を習得したものの、結局はミュルグレスに勝てなかった。


彼女の最終的な目標は妹である時羽こと、ティアマトを連れ戻すこと。

そのためには力が必要だった。少なくともミュルグレスと真っ向から闘えるほどの実力がないと希望すら見えない。


(はぁ、何か参考になる書物でもあればいいんだけど……)


そんなことを考えながら目を閉じる。

そして、しばらくすると穏やかな寝息が枕のしたから聞こえてくるのだった。







■     ■     ■     ■     ■





その頃、グロアス魔国の方では……


「ただいま戻りました~」「戻りました。」


「ああ、御帰り。」


自国に戻ってきたティアマトとミュルグレスの2人を出迎えたのは、研究者のゲスクード。

清潔感のある白衣を身に纏い、今日も実験器具と睨めっこして時間を過ごしていたらしい。


「遅かったじゃないか。あんまり寄り道は感心しないよ?」


「ごめんなさ~い。ちょっと、ヴェーレスにちょっかい掛けた後、聖国の都市を幾つか潰してたら遅くなちゃった。」


「申し訳ありません。お停めすることができませんでした。」


「まったく……どの道、勝ちは確定している。わざわざ手を出す必要もなかろうに。」


「まあ、念には念を。これで悲願達成まで邪魔される心配はないでしょ。」


「それはそうだが……まあ良い。私はまたしばらく研究室に籠る。」


「ゲスクードさんも無茶はしないでくださいね? これからが本番なんですから。」


「ハハハッ!! そんなヘマはしないさ。優秀な秘書も居るからな。」


ゲスクードは少し視線を逸らすと、その先には幾つもあるカプセルの前で作業する少女の姿があった。

3人の視線に気づいたのか、その少女が作業の手を一時中断させて振り向く。

その顔はミュルグレスと瓜二つで違う点があるとすれば、眼鏡をかけていること、髪を短く切り揃えていることだろう。そして、その背中には一対の竜翼と長い尻尾が生えていた。


「また新しい子がロールアウトしたの?」


「ああ。ミュルグレスの妹、ダモクレスだ。ミュルグレスとは双子になる。」


「それでそっくりなのね。でも、ちょっと人見知り?」


軽く会釈すると、すぐにそっぽを向いて作業に戻った彼女にそんな感想を抱くティアマト。

彼女の指摘は的中していたらしく、ゲスクードは苦笑いを浮かべながら肯定した。


「人見知りだけど、非常に優秀だよ。だから、こうして専属の秘書にしている訳さ。」


「うちのミュルグレスも優秀ですよ? お兄ちゃんも圧倒してましたから。」


「ハハハッ!! 圧倒出来て当然だろう。あんな紛い物ごときに苦戦する筈がない。」


「紛い物、ですか? 彼女はバハムートの力を宿している筈では……」


「ああ、確かにポテンシャルは高いだろう。だが、それを活かせないのなら紛い物同然さ。」


アテラスの生みの親であるアテラスはそんな酷評を下す。

彼女がバハムートの力の半分も使いこなせていないのは事実だが……


「あっ、そうそう。ゲスクードさんに聞きたい事があったんです。」


「ん?」


「お兄ちゃんが今回の戦いで固有魔法を覚醒させたみたいなんですけど、どんな能力か分かりますか?」


「ふむ……さすがに実際に見てみないと判断ができないな。バハムートの固有魔法は資料が遺されていないからな。」


「そういうと思って、用意しておきました♪」


そう言って、ティアマトが指を弾くと鏡のような魔物が現れる。

その魔物にミュルグレスが立ち、その手を当てると魔物の鏡のような部位にミュルグレスとアテラスの闘いの映像が克明に映し出される。


その鏡型の魔物はティアマトが生み出した完全オリジナルなモンスター。

触れた者が脳裏に思い描いた映像をそのまま映し出す映写機のような役割を持っており、情報共有に重宝されている縁の下の力持ちである。


「ふむ……恐らく、固有魔法の正体は“圧縮”だな。」


「圧縮、ですか?」


「ああ。空気を圧縮して足場にすることで、この動きを可能にしているのだろう。瞬間移動もどきは圧縮を開放した時の反動を利用した短距離高速移動という感じかな。」


「おお!! さすがはゲスクードさん。軍師とか教官の経歴は伊達ではないですね!!」


「まあな。しかし、映像を見限り使いこなせておらん。この程度ならやはり紛い物だな。」


そう言って、ゲスクードは見る価値もないと言わんばかりに視線を外す。

そして、思い出したかのように彼は2人にお願い事を持ちかける。


「ああ、イブリスの作業は遅れているらしい。儂の方は順調だから、休んだら手伝ってやってくれないか?」


「了解。少し休んだら、手伝いにいくわ。」


「うむ、頼んだ。」


今日もグロアス魔国の野望は着々進む。

その野望が他の2国に牙を剥くのはもう少し先のお話だ。

これにて第1部、完!!

話はまだまだ続きます。完結まで何年掛かるんだろうか。

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