ヴェーレス防衛戦(後編1)
ヴェーレス防衛戦が終了してから投稿しようと思ったけど、いくら何でも時間が空きすぎなので投稿。後々の話で矛盾が生じたらひっそりと修正するかも……
8月3日、修正しました。
魔国の幹部ティアマトによって引き起こされたヴェーレスの襲撃。
多くの魔物による侵攻は平和な街並みを戦場へと変え、今もなお侵略は続いている。その中でも、一番の難敵であるアポリュオン・ボアとアテラスの戦闘が今まさに始まろうとしていた。
「……お前さん、何て恰好してるんだ!!」
「今気にすることじゃないでしょ!!」
「スルーできる訳が無いだろ!! 何、真っ裸になってるんだよ!!」
「仕方ないでしょ!! ちょっとした手違いで服が燃えちゃったんだから!!」
一応、長いマントを羽織っているため、完全な全裸という訳ではない。
しかしながら、魔法使いのような後衛ではなく、前線で飛んだり跳ねたりする彼女の幼い肢体を隠すにはヒラヒラするマントでは力不足だ。マントに開けた穴から通した翼と尻尾が留め具の代わりになっているが、それでも十分ではない。
(あ~もう!! あんまり気にしないようにしてたのに!!)
心の中で毒づいて顔を背けるアテラスの顔は少し赤くなっていた。
気持ちを入れ替えるために見据えるアポリュオン・ボアは態勢を立て直し、鼻息を荒くしている。
「それよりもカリオンさん、状況は?」
「小人の嬢ちゃんが魔力の使い過ぎで戦線離脱した!! それ以外に被害はないが、下の魔法使いの奴らもあんまり魔力は残っていない。防壁を強化できるのも後少しだけだ。」
「そう……なら、下の魔法使いは離れさせて。街中にも魔物の手が伸びてるから、そっちに人手を回した方が良いわ。」
「良いのか? 強化すれば多少なりとも防げるはずだが……」
「構わないわ。だって、もう防壁には触れることすらできないもの。」
アテラスは自信たっぷりな笑みを浮かべながら言う。
それに反論しようと口を開きかけたカリオンだが、目の前の少女が竜人族であることを思い出し、言葉を呑み込む。そして、しばし考えた後、「頼んだ。」と言い残して防壁の下へと降りて行った。
これで防壁にはアテラスのみが残された。
普段ならその肩には頼りになる相棒が居るのだが、今回は1人で戦わなければならない。
(そういえば、1人で戦うのは久しぶりだな。ずっとエテルナと一緒に居たし)
そんなことを考えつつ、アテラスは防壁から飛び降りて魔槍アスカロンを構える。
小さく華奢な体格のアテラスと山のような巨体を誇るアポリュオン・ボア。
もはや鼻息1つで吹き飛ばされそうな体格差あるが、彼女は恐れない。
むしろ、口角を上げてこの現状を喜んでいるようにも見える。
本人は恐らく気付いていないようだが……
「ふっ!!」
防壁の上から飛び降りて、虚空を蹴る。
衝撃波と共に鉄砲玉と化した彼女は勢いのまま魔槍アスカロンをその頭部に突き立てた。
しかし、返ってきたのはとんでもなく硬い物に当たった感触。
不思議な大剣を元に鍛え直された槍はアポリュオン・ボアの甲殻に少し刺さっただけ。
到底、その下の急所までダメージを与えられているように見えない。
(硬いな……ゴーレムの時みたいに刺さってる感触がしない。それなら!!)
そのまま力を入れてもビクともしないと判断したアテラスはすぐさま戦術を切り替える。
とてつもない防御力を誇り、物理攻撃が効かないなら物理以外の方法で攻撃すれば良い。
「はぁぁぁぁぁ!! フレイムバレット!!」
右手を翳して、炎の弾丸をいくつも発射する。
それなりの魔力を籠めているのは岩石ゴーレムなら一撃で粉砕する威力を誇る。
しかし、アポリュオン・ボアの甲殻の前に魔法は無力だった。
金属質の光沢を放つ甲殻に触れた瞬間、アテラスの炎弾は解けて虚空に消え失せた。
効かなかった、というレベルではない。
攻撃が当たる寸前に魔法そのものがかき消された、いや無効化されたのだ。
見た事はないが、そういう技術が存在することはアテラスも知っていた。
(エテルナの言ってた、魔法無効処理? 確か、武具に使われる技術のはずだけど……)
防具や武具に対魔法用に施される処理――魔法無効処理。
その名の通り、触れた魔法を分解することで魔法に対する防御を可能とする技術である。
但し、魔法によって引き起こされた現象は無効化できない、無効化できる限度が存在するなどの欠点も存在する。
最上位の魔物の中には生まれながらに持っていたりするが、アポリュオン・ボアはその能力を持っていたという記述はこの世界の歴史に残っていない。
「これも時羽の仕業……と考えるのが妥当ね。」
防壁の上に降り立ったアテラスはアポリュオン・ボアをじっくりと観察する。
物理攻撃は頭部全体を覆い隠す甲殻によって防がれ、魔法も甲殻に施された魔法無効処理で生半可な威力では無力化されてしまう。まさに非の打ち所がない鉄壁の防御だ。
(さて、自信満々で出てきたけど、どうしようか……)
魔法も効かない、物理も効かない。
その鉄壁の防御を突き崩す方法がアテラスには思いつかなかった。
知恵袋・参謀であるエテルナであれば、何か有効な手段を思いついたかもしれないが、それに頼ることはできない。よって、アテラス1人でこの場を突破するしかない。
(どれくらいの威力で突破できるか分からないが、高威力の魔法で突破するのが最善か)
「ブモモォォォォォォ!!!!」
アテラスが脳内で策を講じている間にアポリュオン・ボアは次の行動に移った。
巨木のような四肢を強く踏みしめ、飛び出したアンカーによってその巨体を大地に固定する。
次の瞬間、頭部の甲殻に生えた突起が一斉に射出された。
「不味い……!! “覇竜ノ吐息”!!」
無数に飛来する剣のような突起物。
アテラスの手に掛かれば回避するのは容易いが、避けてしまえば街に被害が出る。
故に、彼女に出来るのはその場で迎撃することだった。
圧縮した小さな炎球が急激に膨張し、その際の衝撃波で飛来する突起を吹き飛ばす。
そのまま同様の魔法をアポリュオン・ボアに向かって放つ。
広範囲を薙ぎ払うことができる【覇竜ノ吐息】は容易く命中する。
しかし、威力よりも範囲に特化しているため、体表の毛が少し焦げる程度しか効果が無い。
「広範囲を薙ぎ払うなら便利だけど、威力が足りない……なら!!」
アテラスは敵の前だと言うのに、目を閉じて頭の中でイメージを練り上げる。
しかし、そんな絶好のチャンスを見逃すほど、アポリュオン・ボアは馬鹿ではない。
真っすぐ突き出した牙で狙いを定めて、一直線に向かっていく。
まだアテラスはイメージを練り上げている段階。
魔法の発動は絶対に間に合わない。そのまま防壁は崩される運命かと思いきや――――
「キュアアアアアアアアッ!!!!!」
甲高い鳴き声と共に空から落下してきた。
それは強靭な四肢で敵の頭部を踏みつけて、威嚇するように再び鳴く。
白い鷲のような上半身と翼、ライオンのような下半身を持つ魔物。
高い知能と高潔な精神を持つ故に時としてヒトに付き従うこともある変わり者――グリフォンがその背に主である女性を乗せて、アポリュオン・ボアと相対していた。
「グレイヴ、フォールダウン!!」
「キュアアアアアアアアッ!!!」
主の命令に従い、グリフォンのグレイヴは大地に大穴を開ける。
四肢がある場所にピンポイントで穴を開け、その身動きを封じる。
風の魔法と土の魔法を得意とする最上種のグリフォンからすれば容易いことだ。
「グレイヴ、どう?」
「キュアァァァァ……」
主であるクリスタの言葉に対して、グリフォン――個体名グレイヴは右前脚を見せる。
強靭で生半可な金属なら容易く切り裂いてしまう爪は先端が欠けてしまっており、甲殻の硬さを物語っている。
「貴方の爪でも切り裂けないなんて、とんでもない硬さね。これじゃあ、役に立てそうにないわ。」
そう呟いて、クリスタは防壁の上を見上げる。
其処には小さな球体を創り出し、魔法の発射準備に入っているアテラスの姿があった。
「任せたよ、竜人族さん?」
「キュアッ!!」
クリスタとグレイヴのペアはアポリュオン・ボアの妨害に徹するのだった。
■ ■ ■ ■ ■
(“覇竜ノ吐息”はそのまま圧縮を解放するから威力が弱まる。)
広範囲の敵を薙ぎ払ったりする時に便利な反面、威力が低い。
今回求めらるのはその逆。範囲を狭める代わりに威力を底上げすること。
故にアテラスは【覇竜ノ吐息】をベースに改良を行うことにした。
(だから、一部に穴を開けてそこから解放する。そう、ちょうど風船に穴を開けるみたいに……)
方法は思いついた。後は実行するだけ。
しかしながら、それが少しばかり難しい。
自由なタイミングで固有魔法を解除すれば良い【覇竜ノ吐息】と違い、今回の魔法は圧縮を維持しながらも、一部だけ解除する必要がある。制御に失敗すれば、ミュルグレス戦のように暴発して逆に自分がダメージを負うことになるのは明白。
故に、アテラスは意識を魔法の制御のみに集中し、要らない情報を意識の外に追い出す。
(集中しろ……自分の魔法なんだから、自由自在に操れるはずだ……)
気を抜けば、全体の圧縮が解除されてしまう。
まるで針の孔を通すような作業にアテラスの頬を脂汗が伝う。
「すぅ……はぁ……行くわよ!!」
深呼吸して、精神を落ち着かせると意を決して栓を引き抜く。
栓を抜かれたことで球体の中で圧縮に圧縮を重ねられた炎はその穴から溢れ出す。
溢れ出た紅蓮の炎は一条のビームとなって、空間を駆け抜ける。
「“覇竜ノ気吹”!!」
新魔法――【覇竜ノ気吹】。
圧縮した炎をビームのように撃ち出すアテラスが編み出した新たな魔法。
地球で一世を風靡したゲームの登場キャラが使用したモノをモチーフに生み出した魔法で、アテラスの手札の中でもっとも威力が高いと思われる一撃だ。
空を駆ける一条の閃光は身動きを封じられたアポリュオン・ボアに命中。
しかし、頭部の甲殻に青白い文様が浮かび上がり、魔法を受け止める。ティアマトが施したであろう魔法無力処理を貫けていない証拠だ。
(これでも貫けない!? 魔力が足りていないのか!!)
魔法の威力は使用する魔力の量に依存する。
故に、【覇竜ノ気吹】を維持しながら魔力という名の薪を追加する。
しかし、アテラスの身体はその拒否するように一定量の魔力しか放出しようとしない。
(ああ、そういえば封印が掛かっているんだったか。)
日常生活に必要がないように放出魔力量を制限するアレクシスの封印。
それがアテラスの魔力放出を阻害していた。その管理はエテルナに移譲されているが、今は彼女も封印を解除できるような状態ではない。
(アレクシスさんには悪いけど、今はこの封印が邪魔だ。)
そう心の中で呟き、アテラスは己の内側に眠る力に語り掛ける。
(なあ、俺の中に眠るドラゴンの力。お前はこんな封印に御される存在なのか?)
ドクンッと心臓が大きく鼓動するような音が聞こえる。
(何者に縛られない存在、それがドラゴンなんだろ!?)
今度はピシッと何かにヒビが入る音が響き渡る。
(だったら、俺の中に眠ってないで、その力を使わせやがれ!!)
刹那、空を裂く閃光の音の中にガラスが割れるような音が混じる。
同時に今まで魔力を出し渋っていた炉心から膨大な力を放出され、【覇竜ノ気吹】へと投入される。
「はぁぁぁぁぁぁ!!! “覇竜ノ気吹 最大出力”!!」
オレンジ色の閃光が白い閃光へと色を変える。
膨大な魔力と引き換えに大幅に威力が引き上げられたビームは魔法無効処理のしきい値を超え、アポリュオン・ボアの頭部を貫いた。
誰もが倒したと思った。
近くで白い閃光が頭部を貫く様子を目撃したクリスタも思わず「やった!!」とガッツポーズしたものだ。
「――――――――――ッッ!!!!!」
アポリュオン・ボアの雄叫びがビリビリと轟く。
それは断末魔の叫びではなく、憤怒の咆哮。
その声に応じるかのように大地が隆起して、アポリュオン・ボアの巨体を持ち上げる。
グレイヴの戒めを振りほどいた大猪は攻撃対象をヴェーレスの街から2人と1匹へと切り替えた。
数多の魔物を従えるティアマトからの命令を無視する程に彼は怒りを抱いていた。
「完全に怒らせたみたいね。どうするの、アテラ……ス?」
アテラスの隣に降り立ったクリスタ。
何か案は何か訊ねても、彼女は顔を俯けたままだった。
さらには、グレイヴもアテラスに対して威嚇するように唸っている。
「そう睨まないでよ。敵はワタシではなく、アイツの方でしょ?」
アテラスは両翼を広げてアポリュオン・ボアを見詰める。
それだけなのにクリスタは寒気を感じ、グレイヴの本能は脅威を感じ取った。
「猪風情が粋がっているんじゃないわよ。最上位種だと言っても所詮は井の中の蛙だと言うことを教えて上げるわ♪」
そう言って、アテラスは口元を三日月型に歪めるのだった。
現在、迷走中。
更新にまた時間が掛かるかも……




