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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
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ヴェーレス防衛線(前編)




ティアマトこと、時羽が撤退してから数刻の後。

アテラスは深紫の翼を広げて、ヴェーレスの街へと急いでいた。

魔法の自爆によって素っ裸になってしまった彼女はアイテムポーチに入っていたマントだけを羽織り、冷たい風に裾を揺らしながら飛翔する。

陸路で行けば、そこそこ距離が離れているヴェーレスの街と【ブルゼンの森】だが、空を自由自在に飛べるアテラスの手に掛かれば、それほど時間が掛からない。


「邪魔よ!!」


ヴェーレス付近の上空には鳥型の魔物(モンスター)がうじゃうじゃと飛んでいる。

それらはアテラスの姿を視界に捉えると一斉に襲い掛かってくるが、魔槍アスカロンの一閃の下に切り捨てられる。それでも、敵は撤退することはなく、アテラスに向かってくる。


「もうっ……“クリムゾン・サーペント”!!」


右手に浮かび上がった赤い魔法陣から炎の蛇が生み出される。

巨大な炎蛇は威嚇するかのように大きく口を開けたかと思うと、魔物(モンスター)の群れを食い破る。

紅蓮の焔にその身を焼かれながら墜ちていく敵を尻目にアテラスはさらに飛行速度を上げて、群れの中を強引に突破。すると、無残な姿になったヴェーレスの街並みが飛び込んできた。


「見えた!! やっぱり、もう襲撃が始まっているわね。」


ヴェーレスの街にはすでに所々から黒い煙が上がっていた。

街を守護する頑丈な防壁は一部が無残に崩れ落ち、そこから次々に魔物(モンスター)が街中へと入っていく。

一番多いのはチャージ・ボアだが、それ以外にも狼型の個体も居ればゴブリンにスライムも紛れ込んでいる。それを自警団のような人たちが何とか押し留めているものの、今回のように大群で襲い掛かってくることがない敵の相手に苦労している様子だった。


そして、一際大きな煙が上がっているのは鉱山側の方角だった。

学術都市ミミルや農業都市ヘルカへと続く線路が伸びる方には遠目でもはっきりと姿を視認できる程の巨体が街に襲い掛かっていた。アテラスも見たことがない敵であったが、その正体は簡単に予想できる。


「あれが……アポリュオン・ボア。」


その巨体はヴェーレスの防壁よりも大きく、全身を覆うのは堅牢な漆黒の甲殻。

突き出た牙はその本数を4本へと増やし、今もなお防壁を突き立てられている。さらに、頭部を守る防具からは鋭い棘のようなモノがいくつも突き出ており、より攻撃性を増した成長を遂げているのは間違いない。


「早く援護に行きたい所だけど、こっちを放置しておく訳にいかないわね。」


そう呟いて、アテラスは深紫の両翼を力強く羽ばたかせて一気に効果する。

風を切り裂き、砲弾のように急降下。地面に着地する寸前に魔槍アスカロンで数体切り捨て、そのまま地面を擦りながら着地する。


「はぁぁぁっ!! “覇竜ノ咆哮(ドラグニティ・ロア)”!!」


アテラスの小さな口蓋から放たれるのはドラゴンの咆哮。

その口から発せられているとは思えない大音量の肉声は衝撃波となって、周囲を吹き飛ばす。

思わず味方である自警団の面々も反射的に耳を塞いでしまう。


「“覇竜ノ吐息(フレア・ノヴァ)”!!」


彼らが正気に戻った時にはアテラスはすでに次の行動へ移っていた。


掲げた両手を向かい合わせて、その中心に極小サイズの球体を作り出す。そのまま両手を振り下ろすと、ソレは崩れ落ちた防壁から近くに居た敵の大群の方へ飛んでいく。

普通の魔法よりも強い熱波を放つソレはボールのような速さで地に着くと同時に肥大化。まるで地上に小型の太陽が生まれたかのように強力な熱波とオレンジ色の炎で周囲を飲み込む。太陽が消え去った後には草も燃やし尽くされ、焦げた土がむき出しになった地面だけが残った。


(良し!! 今度はうまくいった!!)


アテラスは心の中でガッツポーズ。

今使った魔法はミュルグレスとの闘いで自爆してしまい、自分にも相手にも大きなダメージを与えた現状で彼女が使える最高威力の広域殲滅魔法である。その威力は目の前に広がる光景が物語っている。


これから「さぁ暴れるぞ」と意気揚々と近づいていた魔物(モンスター)は中心部に近かった個体は骨すらも焼き尽くされ、直撃を免れたモノも強烈な熱波で体表の一部が焼かれている。動物的本能が強い魔物(モンスター)たちが委縮するのは当然のことだった。


そして、晴天の霹靂のような攻撃は敵だけでなく、味方にも衝撃を与えた。

決死の覚悟で敵軍に突撃しようとしていた自警団の面子は突発の事態に足を止める。


「な、何が起こったんだ……」


「お、俺たちは夢でも見てるのか? あれだけ居たモンスターが……」


「あの子がやったのか? あんなに小さい子が。俺の娘とそう変わらない背丈だぞ。」


正気に戻った自警団の人たちはようやく事態を飲み込むことができた。

そして、その中の1人……比較的若い自警団の男性が代表してアテラスに声を掛ける。


「君は一体……」


「ワタシはアテラス。少し前にこの街にやって来た冒険者です。」


「冒険者……それに、その姿は……」


「あ~……」


自警団の男性の視線はマントの下は素っ裸というハレンチは身体……ではなく、頭部と腰の方に向けられていた。


「もう隠せないから言います。ワタシは竜人族、古の伝説にその存在を記される者です。」


アテラスは正体を隠すのを諦めた。

何せ、頭部には生えた角はいつの間にか肥大化してベールで隠すことはできず、急ぐあまり翼を縮めることなく降り立った。どう考えても隠すのは不可能だと判断したのだ。


そして、案の定。

自分が竜人族であるという告白に自警団の間で動揺が生じる。

伝承でしか語られることのない存在を前に敵か味方かの判断に困っているのだろう。


「こら、貴方たち!! 何をボーッとしているのですか!?」


「く、クレス団長!? すみません!!」


動揺する自警団の面々を叱咤したのはアリサ商会の会長――クレス・パナシーアだった。

だが、着ているゴシックドレスは金属パーツが追加されている他、スカートが短くなったり、動きやすいように改良されている。おまけに、その華奢な両腕には武骨な銃が握られていた。


「ほら!! 街に入ってきた魔物(モンスター)はまだ残っていますよ!! ここの防衛は私が担当します。さっさと掃討作業に入りなさい!!」


「りょ、了解ッス!!」


クレスに言われ、自警団の面々は防壁付近の防衛任務から離れて街中の掃討に移る。


「さて、何やら予想外の事態が起きてますわね。」


「……」


クレスはアテラスの身体のつま先から頭頂部まで興味深そうにジッと見つめる。


「竜人族をこの目で見ることになると思いませんでした、わっ!!」


突然、視線を外したかと思うとクレスは銃口を向けて、引き金を引いた。

硝煙と共に放たれた弾丸はアテラスを掠め、その背後に居た鳥型の魔物(モンスター)を撃ち抜いた。

一連の動作は流れるように行われ、彼女も反応が一瞬遅れる程の早撃ちであった。単なる商会の会長が持っているようなスキルではない。


「色々聞きたいことはあるけど、それは後にしましょう。此処は私が防衛します。貴女はあちらの大物をお願いします。」


そう言って、クレスが指さしたのは最大の敵―アポリュオン・ボアから街を守護している防壁の方角。


「あちらはエテルナが陣頭に立ち、魔法使いによる防壁強化で何とか持ち堪えていますわ。ですが、それもそう長くは持たないでしょう。」


「それは構いませんが……良いのですか?」


近づいてくる敵を魔槍アスカロンで振り払いながら、アテラスは尋ねる。

名もなき魔法で大群を一角を殲滅したとは言え、まだまだ敵の数は多い上に上空には鳥型の魔物(モンスター)が我が物顔で飛んでいる。到底、1人で相手できるような量ではない。


クレスは見た目も幼ければ商会の代表という文官タイプ。アテラスが心配するのも当然だ。

すると、クレスは見かけに似合わない不敵な笑みを浮かべながら、またしても流れるような早撃ちで敵を屠っていく。


「構いませんよ。それに、私は1人の方が戦いやすいので。」


「1人で? クレスさん、本当に何者なんですか?」


「アリサ商会の会長ですよ? もっとも、それ以外の肩書も持ってますが。」


そう言って、クレスが取り出したのは冒険者の証であるギルドカード。

但し、その色はアテラスのモノと違って、金色に近い色だった。


ギルドカードの色はその冒険者のランクを表しており、金属の価値と対応している。

そして、金色のカードが意味するのはプロキシマ神国に数人しか居ない最高位の冒険者であること。


「ランクExの冒険者、“魔弾のクレス”。それが私のもう1つの肩書ですわ。」


「ふぇ!?」


「向こうはエテルナが指揮を執っています。そっちの手助けを。」


衝撃の事実に呆然としているとクレスは敵軍に突撃する。

慌てて追いかけようとするアテラスだったが、次の瞬間に繰り広げられた光景に息を呑んだ。


クレスの両手にある2丁の銃から放たれる弾丸は的確に敵の急所を撃ち抜く。

それらの弾丸は常人では視認することができない速度で放たれ、最早「不可視の弾丸」と言っても過言ではない。まさに「魔弾」の名に相応しい所作だ。


「これが、ランクEx冒険者の実力……」


一騎当千の活躍ぶりを見せるクレスに思わず見惚れてしまうアテラス。

まるで背中に目があるかのように背後からの奇襲にも対応し、防壁の穴を突破しようとすれば、何処からともなく不可視の弾丸が急所を射抜く。自身の持てる技術(スキル)を敵軍を蹂躙していくその姿はランクExに相応しいモノだった。


プロキシマ神国に数多居る冒険者の中でも数える程しか居ない最高ランク。

彼らは単騎で都市1つを防衛できるために神国の4都市に必ず一人は居るような体制になっている。

アテラスも会うのは初めてだが、その実力は確かなモノであることを実感した。


「これは確かに、1人で任せても大丈夫そうですね。」


そして、クレスの「1人の方が戦いやすい」という言葉も理解できた。

アテラスは深紫の翼を大きくを広げて、翠風の壁が聳え立つ方角に向かって飛び立つのだった。

先週、更新できなかったので今回はもう1話投稿します。

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