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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
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邂逅



「そんな馬鹿な!! バハムートは女神たちに討伐された筈だ!!」


「ああ、その通りじゃ。此処に居る妾は記憶の残滓から作り上げられた疑似人格じゃ。」


「残滓から? そんなこと出来るのかよ。」


「本来なら無理じゃの。じゃが、竜の力が強化されたことでこうして話すことができるようになったのじゃ。」


「竜の力が強化された? もしかして……」


照には1つ思い当たることがあった。


ブレード・コマンダーが所有していた壊しても勝手に再生する不思議な剣。

今はカリオンの手によって槍へと鍛え直されたが、何故かその武器には照の力を増幅する力があった。そして、照の源にあるのはかつて【深淵の暴竜】と謳われたドラゴンの力であり、アスカロンが増幅していたのはこのドラゴンの力だと言うのは想像に難くない。


「ふむ……恐らく、その武器が原因なのは間違いないじゃろうな。どういう原理かは不明じゃが。」


「なるほど。―――って、それよりも早く元の世界に戻らないと!!」


「戻ってどうするつもりじゃ? また甚振られて終わりじゃぞ?」


「そ、それは……」


バハムートの言葉に照は何も言い返せなかった。

ティアマトに会うためにはまず、目下の脅威であるミュルグレスを倒さなければならない。

しかし、自身以上に竜人族の力を理解している彼女に勝つ術なぞまったく思いつかない。


「言っておくが、エテルナと協力して倒すと言うのも不可能じゃぞ。全盛期のアヤツなら容易いだろうがな。」


「??? バハムート、もしかして記憶を失う前のエテルナを知ってるのか?」


「ああ、知っておるよ。少なくともお主よりも、な。」


そう呟くバハムートは何処か悲しそうな表情を浮かべていた。


「それよりも、今はあの竜人族に対抗する術を考えるべきではないのか?」


「そうなんだが……何一つ思いつかない。魔法も通用しないし、そもそも相手の速さに対応できない。」


「何を言っておる。お主はアヤツに対抗するヒントを得ている筈じゃぞ?」


「何だって?」


「今一度思い返してみるが良い。幸いにも、此処での時間は現実の世界において1分にも満たないのじゃからな。」


挑発的な笑みを浮かべるバハムートに従い、照はミュルグレスとの闘いを思い返す。

とは言っても記憶にあるのは一方的に追い詰められていた光景だけで、打破できそうなヒントなど何処にもない。それを彼女に伝えても、返ってくるのは「知っている筈じゃ。」という一言のみ。


(あんなのは戦いとも呼べない代物だし、そこからヒントって言われてもなぁ)


「そうじゃの。あんなの闘いではなく、一方的な虐待じゃな。じゃが、アヤツは重要な情報を漏らしておる。逆転の目になりそうな言葉を、な。」


「重要な情報……逆転の目になりゆる言葉……言葉?」


バハムートからさらにヒントを出されて、ようやく照は答えを導き出すことができた。


竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオン……」


「ようやく気付きおったか。目には目を、力には力をぶつければ良いのじゃ。」


「というか、竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオンって一体……」


「強力なモンスターは固有の魔法を使えることが多い。その固有の魔法を司る根源を魔晶石と呼ぶのじゃが、ドラゴンの魔晶石は特に“竜ノ心臓”と呼ばれておる。」


「じゃあ、ミュルグレスの強さの秘密も!!」


「恐らく固有魔法によるモノじゃろう。あの素早さ、魔法を弾く不可視の鎧のどちらかが固有魔法と考えるの妥当じゃな。」


そこまで言って、バハムートは口元を隠していた扇を閉じた。

そして、次の瞬間には照の目と鼻の先まで移動した彼女は閉じた扇でトンッと突いた。


「最初は妾が手助けしてやろう。現実に戻ったら、妾の方で“竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオン”を起動させる。その一回で感覚を掴むのじゃ。」


「そんなことできるのか?」


「妾を誰だと思っておる? 妾はかつて神々とも争ったドラゴンじゃぞ?」


「……分かった。頼む、バハムート。」


「うむ。時間がないから、固有魔法の使い道は実戦で会得するのじゃ。」


「無茶言うなぁ。でも、それで彼女を倒せるならやってみせるよ。」


「その意気じゃ。頑張るんじゃぞ、少年。」


「ああ。それとバハムート、これだけは聞かせてくれないか?」


「ん? なんじゃ?」


「バハムートの固有魔法って一体何なんだ?」


「妾の固有魔法。それは―――――」






◇    ◇     ◇     ◇     ◇     ◇






「はっ!!」


気が付くと、アテラスは現実世界に帰還していた。

未だにエテルナが作り上げた風の檻は健在で、槍を受け取った瞬間からほんの刹那の時間した経っていないようだ。


(さっきのは夢? いや、夢という割にはリアルだったし……)


バハムートとの会話が夢ではないのかという疑惑が沸きあがる。

しかし、その疑いを払拭するかのようにアテラスの心臓がドクンッと大きく脈動した。

身体を巡る魔力が活性化し、全身を暖かな熱が包み込むような感覚を覚える。



(心臓の辺りから熱を感じる。これが魔晶石――竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオン!!)


アテラスは本能的に理解した。


心臓近くにその存在を感じるドラゴンの魔晶石――【竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオン】。

今初めて活性化させたにも関わらず、まるで活性化している方が当たり前のように足りていなかった何かがスッポリと嵌るような感覚を覚えた。


それもその筈。ドラゴンのように強力な固有魔法を備えた魔物(モンスター)にとって、ソレを制御する魔晶石は生存競争を生き抜くために必要不可欠なモノ。つまり、稼働していないことの方が異常なのだ。今回の騒動で稼働した事でアテラスの肉体はあるべき姿を取り戻したような形なのである。


「おい、嬢ちゃん。大丈夫なのか? さっき、ちょっとボーっとしていたみたいだが……」


「ええ、大丈夫よ。エテルナ、そっちは大丈夫?」


「あんまり大丈夫じゃないぞ。この魔法、結構魔力を消耗するからな。」


「それじゃあ、解除して。そして、カリオンさんたちを連れて、街の防衛の方に。」


「おいおい、大丈夫かよ。さっきまで手も足も出なかったんだろ?」


「ええ。でも、今のワタシなら一方的にやられることはないわ。それに、この檻もそろそろ限界でしょ?」


「そうだけど……どうなっても知らないぞ!!」


そう言って、エテルナは風の檻を解除する。

すぐさまカリオンとクリスタの2人に合流して、グリフォンと共に大空へ飛び上がる。


「アテラス!! ちゃんと合流しろよ!! ここで倒されるなんてアタシが許さないからな!!」


グリフォンに乗って放たれていく3人を見送ったアテラスは改めて、ミュルグレスと向き合う。

一方、竜巻の中に閉じ込められたミュルグレスは平然としていた。それどころか、大剣を地面に突き刺して、完全に戦闘態勢を解いていた。


「ん? ミュルに倒される準備ができたの?」


「生憎と、ワタシにはやりたいことがあるから倒される訳にはいかないのよ。」


「ふ~ん……せっかく仲間が来たのに、助力を求めないなんて。ミュルの力をまだ侮ってるのかなぁ?」


「それはやってみないと分からない、よっ!!」


アテラスは魔槍アスカロンを構え、脚に力を入れる。

そして、次の瞬間、音を置き去りにしてミュルグレスに肉薄する彼女の姿があった。


「ッ!?」


ミュルグレスは咄嗟に大剣を盾の代わりにして、渾身の一撃を防ぐ。

急激に上がったスピードに目を白黒させる彼女だが、すぐさまその場を離れようとする。

しかし、その前にアテラスは左手を向けた。


「吹き飛びなさい!!」


翳した手のひらから放たれるのは不可視の衝撃波。

吹き飛ばされたミュルグレスは空中で態勢を整えると、鋭い目つきでアテラスを睨む。

そして、次の瞬間にはアテラスの姿はすぐ目の前。しかも、魔槍アスカロンを振り上げた状態だった。


「フッ!!」


「ハァッ!!」


空中で剣と槍がぶつかり合い、甲高い金属音が響き渡る。


「ウィンド・ボム!!」


「弾け飛びなさい!!」


タイミングはほぼ同時。

ミュルグレスの放つ風の爆弾とアテラスの不可視の衝撃波が衝突し、その反動で双方共に吹き飛ばされる。そして、同じように空中で態勢を整えると、再び目にも止まらない速さで互いの武器をぶつけ合う。



そんなやり取りが何回も続き、エテルナたちは完全に蚊帳の外状態だ。

10回を超えるぐらい武器をぶつけ合った所で、ようやく2人は足を止めた。


「……驚いた。いつの間に竜ノ心臓ドラゴニア・カルディオンの起動方法を身に着けたの?」


「へぇ……やっぱり分かるのね。」


「固有魔法の特徴は通常、魔法なら現れる陣が現れないこと。見えない衝撃波を出したり、何もない所で踏ん張ることなんて魔法以外で出来ないのに、陣が出てないもの。」


「それは初耳だわ。それなら、貴女の魔法を弾く不可視の鎧も固有魔法なのね。」


「ご明察。どういう魔法なのかはご想像にお任せするよ。」


そう言いながら、ミュルグレスは何か小瓶を取り出し、その中身を飲み干す。

そして、彼女が大剣を握りしめて構えるのを見るとアテラスもまた魔槍アスカロンを構える。


視線が絡み合うアテラスとミュルグレス。

今まで年上を揶揄うような表情を浮かべていたミュルグレスからも相手を小馬鹿にする雰囲気は消えて、アテラスを完全に“敵”と認識している。


「「――――――っ!!」」


互いに掛け声など無かった。強いて言うなら、一陣の風が再開の合図となった。

固有魔法を行使したアテラスはつま先で地面を蹴り、数メートルの距離を一瞬で移動する。

まっすぐ直進して互いの武器がぶつかる―――と思いきや、魔槍を振りぬいた場所にミュルグレスの姿は無かった。


「!?」


「接近戦が私の得意技だと思ったら大間違いよ!! ヴィント・シュナイダー!!」


ミュルグレスは大空に飛び上がっており、すでに魔法の発射態勢に入っていた。


大地に向かって放たれるのは円盤状の風の刃、言い換えるなら丸鋸。

それが雨のように降り注ぎ、地面を切り裂く。咄嗟に両翼を傘のように広げて自分の身を守るが、彼女の魔法はその堅牢な鱗にも傷を入れる程の威力だった。


(この程度の傷ならすぐに再生できる。魔法が撃ち終わった瞬間に強力な一撃を叩きこむ!!)


翼のシェルターに身を隠しながらアテラスは虎視眈々と反撃に準備を整える。

魔法で炎の球体を作り上げると、それに対して固有魔法を使って可能な限り小さくする。バレーボールぐらいのサイズだった球体はパチンコ玉ぐらいまで収縮し、それを核にして炎で再び覆って大きくする。大きくなった球体を再度小さくする。そんな作業を繰り返している間に、翼から伝わる衝撃が止んだ。


「今ッ!!」


シェルターを開放し、作り上げた球体を投擲する態勢に入る。

だが、目の前に広がっていたのはアテラスが予想だにしていなかった光景だった。


「この時を待っていたんだよ。」


「―――――!? !?」


目と鼻の先にはすでにミュルグレスが居り、さらに大剣を振り上げていた。


そこからの行動はほとんど無意識だった。

大剣を防ごうと左手を反射的に突き出したのだが、その手のひらには炎の球体。

振り下ろされた剣と魔法が衝突した瞬間、魔法が解除されて2人は共に強い閃光に視界を覆われた。


それはまるで小型の爆弾。

至近距離で爆裂したためにその被害はミュルグレスだけでなく、術者であるアテラスも巻き込んだ。

高温の炎と衝撃波が等しく2人に降り注ぎ、双方共に地面に横たわるような形になっていた。


「うっ……ゲホッ!! ゲホッ!! まさか、自分の魔法に巻き込まれるなんて不甲斐ない限りだわ。」


緩慢な動作で立ち上がるアテラス。

アレクシスから貸してもらっていた衣服も先ほどの爆発によって燃え尽きてしまい、【竜鎧】によって強化されている肉体も左腕全体に火傷を負っており、左手に至っては表面が壊死してしまっている。

絶賛再生中だが、動かせるようになるまでほう少し掛かりそうだ。


「さて、向こうの方は……やっぱり倒すまでに至らなかったわね。」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる彼女の視線の先には、ゆっくりと立ち上がるミュルグレスの姿があった。

しかし、無傷といかなかったらしく、爆発を真っ向から受けた大剣は使い物にならない状態。

先ほどの爆発は不可視の鎧を貫通することに成功したのか、アテラスと同様に衣服が燃え尽きて、おまけに右手は酷い火傷を負っている。利き腕が使えなくなった分、被害はミュルグレスの方が大きいだろう。


「……初めてだよ。私の不可視の鎧を貫通したのは。」


「効果があってよかったわ。これでノーダメージだったら、流石に困るわ。」


そう言って、アテラスは肩をすくめる。

暴発して自身にまで被害が及んでしまった一撃だが、これでダメージが無ければ本当に打つ手がなかった。本心を言えば、今の一撃で戦闘不能になって欲しかったのだが、そこまで甘くはないらしい。


「これで痛み分けね。」


「痛み分け? 残念だけど、ミュルの勝ちが確定したよ。」


「利き手、使えないでしょ? それに、武器となる大剣も使い物にならない。その状態でどうするって言うのよ。」


「アハハハハ♪ 随分とお目出度い思考ね。それじゃあ、見せてあげる。





 貴女が知らない竜人族の力の一端を!!!」


(まだ何か隠し玉があるって言うのか!?)


何かしでかそうとしているミュルグレス。

まだ左腕の再生が終わらないので、利き腕である右腕で魔槍アスカロンを投擲しようと両足に力を籠める。しかし、その前にミュルグレスを止める者が居た。



「ミュルグレス、そこまで。それ以上、情報を与えるのは得策じゃない。」



ミュルグレスを止めたのは、フードを目深く被った少女だった。



「ティアマト様……分かりました。」


少女――ティアマトの命令に従い、ミュルグレスは矛を収めた。

一方、アテラスの方は魔槍アスカロンを構えたまま、【征服姫】の動向を注視する。


「あらら、警戒されてるね。助けてあげたのに、その反応は酷くないかな?」


「その子をけしかけてよく言うわね、征服姫ティアマト。それとも、こう呼んだ方が良いかしら?」


そこで一度言葉を区切り、緊張で高鳴る胸の鼓動を抑え込みながら口を開く。

どうか期待通りの反応が返ってきませんように、と心の片隅で願いつつ……




「今まで何をしていたのよ? バカ妹、天草 時羽(・・ ・・)。」




アテラスがその名前を告げると、ティアマトはクスッと笑みを浮かべてフードを取り払った。


口元以外を隠していたフードの下から現れたのはあどけない雰囲気が少し残る顔。

3年の月日で成長しているが、目元の黒子などの特徴はそのまま。実の兄である彼女がその顔を見間違える筈がなかった。


「やっぱり……貴女だったのね。」


「そうだよ。3年ぶりだね、お兄ちゃん。」


そう言って。ティアマト――いや、天草 時羽は無邪気な笑みを浮かべた。

ちょっと諸々の設定を纏めるため、来週は更新できないかも……

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[一言] 隠し球はドラゴン化や魔神の召喚とかでしょうか
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