表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第2章 商業都市ヴェーレス
25/37

もう一人の竜人族



商業都市ヴェーレスに滞在すること、9日目。

日夜依頼をこなしつつ、防具に必要な素材を集め、お金を貯めていたアテラスは武器作成の進捗状況を聞くためにカリオンの工房を訪れていた。


「カリオンさん、武器の方はどうですか?」


「今日中には完成だ。悪いな、待たせちまって。」


「いえ、特に急いでいる訳ではないので大丈夫です。それで、追加の依頼なんですけど……」


「前に言っていた防具の件か?」


「はい。」


そう言って、アテラスは主に【ブルゼンの森】で手に入れた素材をテーブルに並べる。

森の入り口で大量に出てくるハンター・ビーなどの素材から森の奥地に生息する高難易度モンスターの素材まで。この数日間で集めに集めた素材の山にカリオンの表情も緩む。


「これで防具を作ってもらいたいのですが……」


「任せろ!!―――っと言いたい所だが、俺よりも適任者が居るんでな。そっちに任せてもいいか?」


「あっ、はい。その辺りの采配はカリオンさんにお任せします。」


「よっしゃ。おーい、クリスタ!! 」


「はーい、今行きますよ~」


元気な返事と共に工房に顔を出したのは、工房の受付を担当している女性だった。


「どうかしましたか?」


「防具作成の依頼だ。此処にある素材、どれだけ使ってもいいそうだ。」


「本当に!?」


クリスタと呼ばれた受付の女性は目を輝かせた。


「これだけの素材があれば好きな防具が作れるわ♪ デザインに希望とかあるかしら?」


「いえ、特に。身体を動かすのに支障がないデザインであれば。」


「ふむふむ。尻尾もあるから、専用の穴も開けておかないとダメね。」


(本当は翼用の穴も必要なんだけど、種族を明らかにする訳にいかないしな。)


「さぁ、これから忙しくなるわ♪」


そう言って、クリスタは小躍りしながら工房の更に奥へと入っていった。

どうやら彼女の私室が工房の奥に設けられているらしい。


「悪いな、嬢ちゃん。久々の依頼でクリスタも舞い上がってしまってるみたいだ。」


「いえ、大丈夫です。それにしても、クリスタさんも鍛冶師だったんですね。てっきり受付担当かと思っていました。」


「アイツは主に女性用の防具を担当しているんだが、何せ女性冒険者は数が少ないからな。半ば、受付担当になっていたのは事実だ。」


(確かに。、フォドラでも女性の冒険者はほとんど見なかったな)


「ちなみに、クリスタは俺の一番弟子で腕前はグリュックよりも上だ。」


「ええっ!?」


カリオンから告げられた驚愕の情報にアテラスは思わず絶句する。

彼女の反応が愉快なのか、師匠の方はケラケラと笑う。


「クリスタの腕までは一流だからな。期待して待ってな。」


「分かりました。武器の方はまた明日、取りに来させてもらいます。」


「おう。バッチリ仕上げておくから、こっちも期待してな。」


「はい。」


要件を終えたアテラスはカリオンに一礼すると、店を後にする。

店の外ではエテルナが用事が終わるのを待っていた。


「お待たせ、エテルナ。」


「おう。さぁ、今日はどうすんだ?」


「今日も“ブルゼンの森”。受けた依頼の中でまだギリギリ達成していないのがあるから。」


「あ~……確か、ブラッドヴァイパーの討伐依頼だったか?」


「そうよ。見つかりにくいって聞いていたから、覚悟はしていたけど予想以上だわ。」


「それまでは1日に3匹は見つけたのにな。」


「本当に。これが物欲センサーって奴かしら。」


「何だ、それ?」


「欲しいと思った物が欲しい時に見つからず、必要ない時には容易く見つかる呪いのことよ。」


「ああ、確かに今の状況そのままだな。」


「でしょ?」


そんな他愛もない会話を交わしながら、2人はヴェーレス首都の北門を目指す。

生憎と【ブルゼンの森】の近くは鉄道が通っていない。おまけに、馬車も通っていないため、森に向かうためには徒歩で行くしか方法はない。そのこともあって、【ブルゼンの森】まで足を運ぶ冒険者は少なく、依頼も残っていることが多いのだ。


ところが、アテラスの場合は話が変わる。

竜人族という希少な種族である彼女は空を飛ぶこともできるので、それほど時間が掛からずにたどり着く。さらに、他の来訪者が少ないので他人の目を気にする必要が無い最高の狩場となるのだ。


「エテルナ、周囲に人の姿は?」


「無し。飛んでも大丈夫だ。」


「オッケー。“解けよ、摂理を歪めし力”!!」


両翼に嵌められたリング状の魔法具の力が解除され、竜翼が元のサイズに戻る。

数回翼を動かして調子を確認した後、アテラスは助走をつけて勢いよく大空に飛び上がった。


「ん?」


大空に飛び上がったアテラスは森の異変にすぐ気が付いた。

【ブルゼンの森】には魔物(モンスター)も居るが、普通の動物も生息している。彼女が見たのは、森に住む動物たちが我先にと逃げ出す光景だった。


(森の方で何かあったのか?)


アテラスは念のため、いつもよりも離れた地点に舞い降りた。

その頃には動物たちもほとんど逃げ出し、森は奇妙な静けさに包まれている。


「エテルナ、どう思う?」


「多分、強力な魔物(モンスター)が出現したから身の危険を感じて逃げ出したんだろうが……それにしては規模が大きすぎる。」


「討伐高難易度モンスターが複数出現した、というのは?」


「あり得るな。いや、そうとしか考えられない。アテラス、今日の所は引き返した方が―――」


引き返すことを提案するエテルナだが、その言葉は最後まで紡がれなかった。

何故なら【ブルゼンの森】の方から大量の足音がドンドンと近づいて来ているからだ。


「……」


アイテムポーチからナイフを取り出し、何時でも投擲できるように構える。


(これ、1体の足音じゃない。複数……それもかなりの数が居る。)


そして。

足音の元凶が威風堂々と姿を現した。

突撃槍のように大きく前に突き出した白い牙を持つ大きな猪型の魔物(モンスター)、チャージボア。それが1頭、また1頭と森の中から出てくる。


「チャージボア!? それも、こんな大群で!?」


「どうなってるんだ!! チャージボアはこの辺りに居ない魔物(モンスター)の筈だぞ!!」


そう。チャージボアは山間部を主な生息地とする魔物(モンスター)だ。

【ブルゼンの森】のような平地の森林地帯で目撃されたことはない。


「はぁぁっ!!」


「そりゃぁっ!!」


魔法や刃物で応戦するアテラスとエテルナ。

しかし、敵の数は2人で対処できる規模を超えており、倒しきることができない。


そして、突如現れたチャージボアの大群は彼女たちの存在を無視するかのように一目散にヴェーレスの首都の方角へ向かっていく。このままだと、いずれは街に大きな被害が出るだろう。


「エテルナ!! 先に街に戻ってギルドにこの事を!!」


「アテラスはどうするんだ!?」


「ワタシは此処で可能な限り敵の数を減らす。この数、あの魔物(モンスター)が居る可能性があるわ。」


「アポリュオン・ボアか」


アテラスは頷いた。


【オキ村】でその出現が予見されながらも発見されなかったチャージボアの最上位種。

配下にチャージボアの大群を従え、かつて出現した際には数十人単位の冒険者で何とか討伐を成し遂げた怪物がこの森に居る可能性がある。

そんな魔物(モンスター)が何の準備もしていない街に到達してしまえば、その被害は計り知れない。


「分かった。無理はするんじゃねえぞ!!」


そう言って、エテルナは街の方角へ急いだ。

その間にも森から出てきたチャージボアはヴェーレスの首都に向かって進軍する。


「……クリムゾン・ブレス!!」


口蓋から放たれた炎の玉がチャージボアを焼く。

周囲に肉が焼ける芳ばしい香りが広がるが、そんなことを気にしている余裕などない。


(竜鎧、発動!!)


【竜鎧】を発動させ、身体能力を強化してチャージボアの群れに突撃。


拳で殴り、脚で蹴り、時には尻尾を振るい敵を蹴散らす。

さらに敵が密集しているなら魔法を使い、一網打尽にする。

その様子はまさに一騎当千。


だが、そんな活躍ぶりを披露しても敵の数に限りが見えない。

これで敵の狙いがアテラスに移ってくれるなら万々歳だが、チャージボアは相変わらず眼中にないかのようにヴェーレスの首都に向かって進軍していく。


(今まで戦った魔物(モンスター)は攻撃すると、確実にこちらを狙ってきたのに……)


1頭、また1頭とチャージボアを屠りながらアテラスは考える。


(アポリュオン・ボアの力なのか、それとも……)


アテラスの脳裏に過ったのは、噂に聞くティアマトの存在。

“征服姫”の異名を持つ彼女は魔物(モンスター)を意のままに操れるという。

その力を使えば、今のような状況を作り出すことも容易いだろう。


「でも、これだけ減らすことができれば、街の居る冒険者で対処できそうね。」


チャージボアの死骸を踏みつけながら、アテラスは呟く。

敵の物量は馬鹿にできないが、防衛に徹しつつ対応すれば十分に退けることはできそうというのが彼女の見立てだった。そのためには、ここで敵の数を減らし続けなければならないが。


「さぁ、もうひと踏ん張りしましょうか。」


パンパンと頬を叩き、気合を入れ直す。

その刹那、アテラスの足元の地面がまるで槍の隆起して襲い掛かってきた。

咄嗟に【竜鎧】による強化度合いを強めて、それを防ぐ。


「暴竜バハムートの力を引き継いでいても、この程度ですか。」


酷く落胆したような声色の人物が森の奥から出てきた。

ベージュ色のコートで身体全体を隠し、さらにはフードを目深くかぶっているため、見えるのは口元と隠し切れなかった鮮やかな赤色の髪の毛ぐらい。


「貴女……誰?」


「そうですね……この騒動の元凶の1つ、とでも言っておきましょうか。




    竜人(ドラゴンニュート)テル・アマクサ。」




「っ!? 貴方……もしかして、ゲスクードの仲間?」


「ええ、ゲスクード様はミュルグレスの生みの親です。そして……」


そこまで言って、目の前の人物は勢いよくコート取り払い、その全貌を現した。

そして、露になったその姿にアテラスは言葉を失った。


鮮やかな赤色の髪はもみあげの部分が長くなっている反面、後ろは肩口で切り揃えられた独特の髪型。

その瞳は黒曜石のように黒く、目じりが吊り上がっているため、非常に強気な印象を受ける。

幼い肢体は軽装の鎧で守られており、腰の辺りからはコウモリのような翼(・・・・・・・・・・)トカゲのような尻尾(・・・・・・・・・)が生えている。


よく見ると赤い髪の隙間から小さな黒い角が顔を覗かせている。

それは間違いなく、この世界で最強種の一角に数えられる竜人族の証だった。


「貴女の同胞です、オリジナル(・・・・・)


そう言って、竜人族の少女――ミュルグレスは不敵に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がピンチになるけど槍が完成して逆転 その後噛ませ犬扱いになりそうな子
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ