武器の材料を求めて
【ストラタイト坑道】。
冒険都市フォドラの中で商業都市ヴェーレスの領境近辺に存在する露天掘り型の坑道である。
魔力を伝導が良い鉱石として有名なストラタイトが潤沢に眠っていることから、その名前が付けられた経緯がある。しかし、今となっては魔物の巣窟となっているため、採掘の手が遠のいているのが現状だ。
そんな場所に幼い少女の姿があった。
身体はとても華奢で採掘に使うピッケルなど扱えそうにない。
おまけに月が昇り、アンデッド系モンスターのように強力な敵が現れる時間帯。
まだ親元を離れるような年ごろではない少女が居るような場所ではない。
「此処が目的地の坑道……」
「いやぁ、こんなに早く着くと思わなかったぞ。空を飛べるって偉大だな。」
「本当に。到着は次の日になると思ったのに、予定が前後したわ。」
当初の予定では、明朝ぐらいに到着してブレード・コマンダー以外の材料を確保したり、依頼を達成する予定だった。しかし、空を飛んでの道のりは思ったよりも速く、夜が明ける前に到着してしまったのだ。
「じゃあ、行きましょうか。」
「オッケー。それじゃあ、“ライト”!!」
エテルナが魔法を発動すると、白く輝く光球が現れる。
これで月の光が届かない坑道の中でも安心して進むことができそうだ。
もちろん、坑道の奥に居る標的と最善の状態で戦うために、モンスター除けのお守りも忘れない。
「これで準備完了ね。一気に奥まで突撃するわよ。」
エテルナを肩に乗せ、アテラスは坑道の中を駆けだした。
ヒトが寄り付かなくなったために放置された坑道は備え付けてあった照明もその機能を失っており、今は相棒が作り出した魔法の照明だけが唯一の光源になっている。
「エテルナ、この坑道使われなくなってどれくらい経ってるの?」
「大体10年くらいって聞いたな。それがどうかしたのか?」
「いえ、老朽化で崩れたりしないか不安になったのよ。」
「それなら大丈夫だ。この坑道の支柱は魔法を施した材料を使ってるからな。そう簡単に崩れたりはしないさ。」
「それを聞いて安心したわ。新しく思いついた魔法も使いたかったし。」
「あっ、支柱を傷つけるような魔法は止めろよ? アタシも生き埋めは勘弁だ。」
先人が切り拓いた坑道はエテルナが言ったように魔法で強化した支柱で支えられている。
魔法そのもので支えている訳ではないので、支柱そのものが壊れたりしてしまうと落盤が起こる可能性がある。そのため、この中では大規模な破壊を起こす魔法などはNGだ。
もっとも、今のアテラスはそんな強力な魔法は使えないので心配ないが。
「ん? 広い場所に出たわね。」
細い道を駆け抜けていくと、2人は広い場所に出た。
線路やトロッコがある部分を見ると、採れた鉱石を一旦集める場所のようだ。
恐らく多くの労働者が汗水を垂らして作業を行っていたのだろうが、今となってはモンスターの巣窟。そして、今の時間帯は特にアンデッド系モンスターが出現する。
「うわぁ、スケルトンがうじゃうじゃ居るな。お守りが効いている間に駆け抜けるぞ。」
「そうね。こんなに大量の骨、相手にしていられないわ。」
そう言って、アテラスは再び駆けだした。
また細い道を通って下へ下へ下っていくと、再び広々とした空間にたどり着いた。
本来、此処から新たな鉱床を目指して掘り進む予定だったが、計画はモンスターの跋扈で頓挫してしまった。つまり、2人が居る場所がストラタイト坑道の最奥となる。
「此処に目的のモンスターが居るはず……あれね。」
周囲を見渡しても居るのは、動く人骨――スケルトンばかり。
しかし、その奥に他のスケルトンよりも大きい個体が居た。
「よっ、と。」
アテラスは翼を広げて羽ばたかせると、坑道の天井付近まで飛ぶ。
その後、翼を大きく羽ばたかせて急降下。その勢いを利用して、狙いの個体に飛び蹴り。
飛び蹴りを受けたモンスターは衝撃で後退させられるが、それだけだった。
「これがブレード・コマンダーね。」
「ああ、間違いない。」
2人の目の前に居るのは、他のスケルトンよりも倍ほどの体躯を誇る人骨。
その巨体を支える骨は太く、アテラスの腕よりも太そうだ。
さらに本来2本しかない筈の腕は全部で6本もあり、その全てに剣を持っている。
まさに、ブレード・コマンダーという名前に相応しい姿だ。
「オオオォォォォォォッ!!!!」
発声器官がない筈なのに聞こえる雄たけびが開戦の合図になった。
「スゥゥゥ……ガァァッ!!」
飛び上がったアテラスは大きく息を吸い、すぐに吐き出す。
吐息は炎に転じてブレード・コマンダーに襲い掛かるが、ちょっと怯ませる程度で敵はお返しと言わんばかりに右腕の一本を振り下ろした。
「おっと!!」
くるりと身を翻して、ブレード・コマンダーから距離を取る。
魔法で遠距離からの攻撃ができるアテラスに対して、敵には飛び道具などは見当たらない。
このまま飛行を続けながら魔法主体で戦えば、一方的に攻め立てることができる。
「“我乞うは猛き焔の――――きゃあ!!」
追加で魔法をお見舞いしようとした時、地上から何かが飛んできた。
何とか避けることができたが、肩口を少し切られてしまった。
「一体何が……」
「アテラス!! 後ろから来るぞ!!」
エテルナの叫びに反応して、翼を大きく羽ばたかせる。
その刹那、彼女が居た場所を“何か”が通り過ぎていき、ブレード・コマンダーの手元に戻った。
「どうやらアイツは手を自在に飛ばせるみたいだな。」
「ロボットじゃないんだから……」
ブレード・コマンダーは何と右手の一本を切り離して、アテラスを襲わせたのだ。
おまけに、切り離した状態でも自由自在に動かせるらしい。
これで一方に攻め立てることはできなくなってしまった。
「でも、その腕を切り落とされたら攻撃できないでしょ!!」
坑道の中を飛び、ブレード・コマンダーへと向かっていくアテラス。
もちろん、敵がそれを黙ってみている訳ではなく、6本の腕で攻撃を仕掛けてくる。
単に剣を振り回しているだけなのだが、6本も腕があると近づくのが難しい。
「吹き飛ばせ、ウィンドカーテン!!」
振り下ろされる剣をエテルナが展開した風の障壁が跳ね返す。
その隙に肉薄したアテラスは身体を空中で一回転させて、尻尾の剣を勢いよく叩きつける。
物理攻撃の効果が薄いゴーレム系モンスターすらも切り裂いて見せた剣だが、ブレード・コマンダーの骨には傷すらついていない。
「カタッ!!」
「アテラス!! 上から来るぞ!!」
「おっとと!!」
真上から飛んできた腕を避ける。
坑道内を飛び回るアテラスに嫌気が刺したのか、ブレード・コマンダーは6つの手を一気に分離させてアテラスを追い掛ける。さらには、地上に居るスケルトンが剣を投擲して、援護に入る。
「これ、飛ぶのに慣れてなかったら危なかったわね!!」
四方八方から襲い掛かってくる剣を自由自在に飛び回りながら避ける。
流石にすべてを無傷で避けることはできないが、負った傷はその都度再生させる。しかし、その度に魔力を消費してしまうので気軽に傷を負っていいものではない。
「新技、行くわよ!! “我乞うは猛き焔の力なり、クリムゾン・プリズン”!!」
アテラスの口から放たれるのは【クリムゾン・ブレス】よりも大きな火球。
何の変哲もない火球を剣で切り払うブレード・コマンダーだが、切り払われた火球は細かく分裂して周囲に飛び散る。その刹那、飛び散った破片から火柱が立ち上り、敵を炎の檻に閉じ込める。
「アアアァァァァァァッ!!!!」
「効いてるみたいだな。それじゃあ、アタシも!!」
炎の檻に閉じ込められた敵に向かって放たれるのはエテルナの魔法。
強力な雷撃がブレード・コマンダーに向かって放たれ、その威力は地面にすら穴を開ける。
衝撃波によって周りに群がっていたスケルトンたちは吹き飛ばされるが、そんなに強力な攻撃でも敵は膝をつかない。
「もう1つ、新技!! 我乞うは猛き焔の力なり イフリート・キャリバァァァァァ!!!!」
尾の先に付いた翡翠の剣から紅蓮の炎が噴き出す。
周囲が少し歪んで見える程の熱量を放つ剣をブレード・コマンダーの右腕の1本に叩きつける。高温の炎は骨を溶断し、手を地面に落とす。
「アアアァァァァァァッ!!!!」
どうやら骨を切断された手は操ることができないようで、人骨はおどろおどろしい叫び声をあげる。
腕を切り落とされ、怒りが有頂天に達したアンデッドは執拗にアテラスに狙う。
剣術などではなく力に任せて剣を振るう。
(身体全体を魔力の量を増やして……)
振り下ろされる剣に対して、アテラスは右腕を伸ばした。
普通なら彼女の華奢な手で止めることなど絶対に不可能だろう。
だが、竜人族の神秘――“竜鎧”を会得した肉体は常識を覆す。
「生憎と今のワタシの身体はそう簡単には傷つかないわよ?」
とても力があると思えない細腕で剣を掴んだアテラスはそのまま力を込めて、剣をへし折ってしまった。
(まあ、魔力をかなり消耗するから常時発動させるのは無理があるけど)
いつの間にか炎の檻も、落雷も止んでいた。
右腕を一本失い、至る所が焼け焦げて、よく見ると骨も少し欠けているように見える。
「ガアアアアアァァァァァッ!!!!」
しかし、それだけやってもブレード・コマンダーは倒れない。
それどころか軽くない傷を負わされたことで激昂した人骨は1本の剣を捨て、今まで隠し持っていた剣を抜き放った。ガチガチに鎖が巻かれ、原型が分からない程に古びた剣だが、相手にとっては秘密兵器らしい。
「――――――――ッ!?」
「どうかした?」
「いや、あの剣を見てると元気が出てくるというか、力が湧いてくるというか……」
「バハムートの力とあの剣が共鳴でもしてるのかねぇ? 単なるボロ剣にしか見えないけど。」
「分からない……けど、やることは変わらないわ。」
そう言って、アテラスはもう一度魔力を引き出して、全身を巡らせる。
「この一撃で終わらせるわ。」
大きく息を吸い、静かに吐いて先ほどよりも魔力を使い、肉体を強化する。
特に右腕に行き渡る魔力の量を他の部位よりも多くして全てを打ち砕くための準備を整える。
「オオオオォォォォォォ!!!!!」
動かないアテラスに向かって振り下ろされる残った剣が一斉に振り下ろされる。
それに対して、彼女は余程の自信があるのか逃げずに真っ向から立ち向かうことを選んだ。
「ハァァァァァッ!!!!」
気合いを込めて、迫りくる刃に臆することなく拳をぶち当てる。
固有魔法【竜鎧】によって極限まで強化された右腕は生半可な武器で傷つけることはできない。
結果、ブレード・コマンダーの剣にヒビが入り、ガラスが割れるような音を立ててへし折れてしまった。
その刹那、アテラスは翼を羽ばたかせて飛翔。
剣を砕いた剛拳を茶色く汚れてしまった頭蓋骨に叩きつけるのだった。
そして、頭蓋骨をぶち抜いた右拳を引き抜くと、そこには大きな青色の石が握られていた。
それこそ、鍛冶師のグリュックが求めた素材の1つ、“剣亡霊の魔晶石”。
ブレード・コマンダーの核となる石であり、不思議な力が宿っていると言われている。
「オオオォォォォ……」
核となる石を引き抜かれたことで、ブレード・コマンダーは身体を維持することができなくなった。
人骨が1本、また1本を崩れ落ちていき、骨の山とへし折れた剣の欠片が墓標を形作った。
「よっと。はぁ~、疲れたぁ」
「あんなバカスカ魔力を消耗するようなことするからだろ。」
「思いついたから試してみたくなったのよ。一応、とっておきを放つだけの魔力は残していたわ。」
実を言うと、【竜鎧】に使用する魔力の量が強化度合いに影響することに気づいたのはこの【ストラタイト坑道】に来る直前のこと。そして、実戦で試すのはこれが初めてだったりする。
以前ならこのような無茶なことはしなかったが、なまじ【竜鎧】の効果で生命力や自己治癒力が強化されているので強気に出れるようになった影響である。
「それにしても……あの剣、普通の剣じゃなかったみたいね。」
「ああ。壊れても再生する剣なんて聞いたことがないぞ。」
2人の視線の先には墓標のように突き刺さった1本の剣。
ブレード・コマンダーが秘密兵器として出してきた武器だが、他の剣のようにへし折られたハズなのに勝手に再生して元の状態に戻ったのだ。
(……やっぱり、この剣が近くにあると力が湧いてくる感じがする。ドラゴンに関係がある武器なのか?)
そんなことを考えながらアテラスは古びた剣を引き抜く。
流石に縛っていた鎖までは再生しないようだが、刀身が完全にさび付いているので刃物として使うことは到底できそうにない。
(でも、この再生能力は欲しいし、帰ったらグリュックさんに相談してみるか。)
「さてと。それじゃあ、採掘でもしながら地上に戻るか。」
「ええ。」
アテラスは古びた剣とブレード・コマンダーの残骸の一部をアイテムポーチに収納すると、地上を目指して歩き出すのだった。




