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迷い込んで異世界 TS少女の冒険譚  作者: 蒼姫
第1章 冒険都市フォドラ
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飛行訓練。そして、裏で進行する野望

場所は変わって、フォドラの街を取り囲む外壁の上。

モンスターという外敵から街の人々を守護するために築き上げられた城壁は基本的に一般人の立ち入りが禁止されているのだが、そこにアテラスとエテルナの2人は居た。


普段は小さくしてベールの下に隠されている両翼も大きく広げられ、小さな身体が大きく見える。

本来、竜人族であることを隠すために街中で翼と角は隠すことにしているのだが、人目の無い場所であることを良いことに遠慮なくあるがままの姿を晒していた。


「うぅぅ……こんだけ高いと寒いわね。」


「まぁ、結構薄着だしな。アタシは魔法のおかげで平気だけど。」


「その魔法、ワタシにも使ってくれない?」


「別に自前で何とかできるだろ?」


エテルナに茶化すようにそう言われ、アテラスは無言で意識を自身の体の内側に集中させる。


感じるのは体内を巡る魔力の流れ。

指先から足の先まで血液のように流れる魔力だが、体の一部である翼にその流れを感じない。

だが、魔力が流れる経路があるのが薄っすらと感じ取れる。そして、使われていない経路は皮膚の表面にも巡っている。


(これだ……!! 竜の肉体に刻まれ、堅牢な肉体を実現する紋章!!)


すべてはゲスクードの書いたレポートに記されていたこと。

伝承や御伽噺に登場する竜人族は生身の人間に近い外見を持ちながら、竜の堅牢なる肉体と生命力を保持していた。彼はこの秘密を一種の魔法によるモノだと考え、体内に魔法を発動させるような紋章を生まれながらに保有しているのではないかと考察した。


(多分、こっちにも魔力を回すリソースがなかったから活動を停止していたんだな。だけど、制限が解除された今なら!!)


アテラスは電気回路にスイッチを入れるようなイメージで魔力を流す。

すると、さっきまで感じていた冷気が嘘のように消えてしまった。


「ふぅ……」


「おっ、上手くいったか?」


「ええ。その証拠に……」


彼女が取り出したのはモンスターの解体に使うナイフ。

丁寧に整備がされているソレはヒトの肉ぐらい容易く切り裂くほどの切れ味を持っている。

そんな刃物を何を血迷ったのかアテラスは自分の手のひらに当てた。


普通なら皮膚が裂かれて、真っ赤な血が流れ出す筈のだが、少女の柔らかそうな掌には傷1つない。

それこそ、身体に刻まれた魔法は正常に作動している証拠である。


「竜の防御力を得る魔法……さしずめ、“竜鎧”っていうところか?」


「“竜鎧”……良い名前ね。」


「それじゃあ、寒さも克服した所で飛行練習に入るか。」


「ええ。」


アテラスは再び目を閉じて、魔力の流れに意識を集中する。

【竜鎧】を発動させているため、毛細血管のように皮膚上にも魔力が流れているのが分かる。それだけではなく、固有魔法を発動する前は魔力が行き渡っていなかった翼の方にもキチンと力が行き渡っている。


「それじゃあ、万が一の場合は頼むわね。」


「はいよ。まあ、“竜鎧”が無事に発動してるから心配する必要はなさそうだけどな。」


「本当に……屈辱だけど、このレポートはとても有用だわ。」


因縁の相手であるゲスクードのレポートをアイテムポーチに収納し、飛行準備に入る。

小柄なアテラスをすっぽり包み込めるような両翼を力いっぱい広げて、数回羽ばたかせる。

きちんと翼が動くことを確認した後、少女は城壁の上を走りだした。


「いっ、けぇぇぇ!!」


勢い良く踏み切り、大空へと飛び出す。

普通なら重力に引かれて真っ逆さまに落ちていくのだが、翼を羽ばたかせると落下速度が緩くなり、やがて落下は完全に止まって滞空することができた。翼の羽ばたきを強くすると、今度はアテラスの身体がどんどん空に向かって上がっていく。


「スゴイ……自由自在とは言えないけど、本当に空を飛べてるわ」


羽ばたくことを止めると滑空するようにゆっくりと高度を落とすことができる。

翼を閉じれば急激に高度が落ちることになり、再び翼を羽ばたかせれば上昇することができる。


「これ、結構難しいわね……」


「そうなのか?」


「ええ。風を切る方向によって進む方角が変わるみたいだけど、その加減が難しいわ。」


左右の翼を同じ力で羽ばたかせないと真っすぐ飛ぶことはできない。

少しでも左右のバランスが崩れてしまうと進行方向は傾いてしまう。


ちなみに、エテルナのような妖精族とアテラスの飛行方法は異なるらしい。

彼女が言うには妖精族は浮遊の魔法で浮いているため、背中の羽を動かす必要はない。動かせば多少の加速は得られるが、基本的には行きたい方向をイメージすれば勝手に進んでくれるらしい。


「取り合えず、慣れるまで練習するしかねえな。まあ、墜落しそうになったら助けてやるから安心しな。」


「頼もしいわね。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうわ。」


「だけど、もう少し高い場所でやった方が良いかもしれないな。」


「そうね。」


エテルナの提案に則って、アテラスは飛行高度をドンドン上げていく。

そして、フォドラの街がまるで模型に見えるくらいの高度まで到達した所で上昇を止める。

望遠鏡なら2人の姿を見ることができるかもしれないが、フォドラの街には望遠鏡は置いていないのでアテラスの正体が露見する心配もない。


「ここまで来れば、大丈夫でしょ。」


「だな。この辺りを生息域にしてるモンスターも居るらしいから気を付けろよ?」


「分かったわ。」


それからしばらくの間、アテラスは大空を飛び続けた。

以前の肉体では絶対に味わうことができない感覚が心地よいのか、無我夢中で飛び続ける彼女を見守りながらエテルナはフギンの調査レポートに目を通す。


(アポリュオン・ボアの痕跡は見つからず、おまけに魔素の溜まり場もナシ。結局、チャージボアの異常発生の原因は分からず、か。)


アレクシスからの命令でチャージボアの異常発生の原因を探っていたフギンだったが、結局原因を突き止めることはできなかった。しかし、アレクシスはその報告を聞いて、ある推測を打ち立てた。


(“征服姫”ティアマトが関与してる、な……。実際に戦ったことがあるアイツだから、何か引っかかる部分があったのかねぇ。)


それは今から3年前のこと。

ティアマトは当時ヴェーレスに保護されていた異界人を亡き者にしようと襲撃を仕掛けてきたことがあった。その場に居合わせたアレクシスは先代のヴェーレス領主と協力して、ティアマトを撃退することに成功するものの、その戦闘で先代ヴェーレス領主は命を落としてしまった。


そのような経歴があるアレクシスは此度の異常にティアマトが絡んでいると推測した。

しかし、あくまで推測の域を出ないと言って、具体的な判断理由については話してくれなかった。


(ティアマトと言えば魔国だが……今の所、目立った行動は起こしていないな。アテラスのことと言い、一体何を考えているのやら。)


エテルナはプロキシマ神国から北西の方角、グロアス魔国がある方向を見つめた。





■    ■    ■    ■




プロキシマ神国の北西にある魔族の国、グロアス魔国。

その首都――ルシファラントに聳え立つ巨大な城の一角で、今もなお研究が続けられている。

しかし、研究を主導している人物はちょっとした壁にぶつかっているようで……。


「あ~……良いアイディアが思い浮かばん」


研究関係の書類が積もり積もった机の前で壮年の男性――ゲスクードは頭を抱えていた。


「これではダメだ。成功ではあるが、こんなモノでは“あの方”の肉体に相応しくない!!」


彼の目の前にあるのはエメラルドグリーンの液体で満たされたガラス製のカプセル。

大人の男性が1人収まる程に大きい透明な円筒の中には胎児のような存在が浮かんでいる。

その胎児には小さな翼と尻尾という普通のヒトには存在しない部位が確かに在った。



竜人族。



強大な力を持つが故に闘争の原因となったがために表舞台から姿を消した幻の種族。

アテラスという成功例のおかげでゲスクードは竜人族を人為的に生み出すことに成功していたのだ。

されど、その成功は彼にとっては真なる目的の通過点でしかないらしい。


「くっ……あの異界人の遺伝子から生み出したホムンクルスはラスタバンに適合する。此処までは順調だったと言うのに!!」


怒りに任せて机を叩くゲスクード。

その衝撃で積み重なった書類の山が崩れてしまうが、彼にそれを気にする余裕などない。


「どうしたのですか? 怒鳴り声が地上まで聞こえてきましたよ。」


「ああ、ティアマトか……。すまない、研究に行き詰ってしまってな。」


「研究に? 私には順調なように見えるのですが……暴竜バハムートの力だけでは不満なのですか?」


群青色のフードを目深く被って、鼻先から上を隠した人物――ティアマトは小首を傾げる。

ゲスクードの研究室にはいくつものカプセルが存在しており、中には胎児が浮かんでいる。

その全てに翼と尻尾が生えており、竜人族であることを物語っている。


「バハムートは所詮敗者。“あのお方”の肉体には不適格なのだ。」


「確かに一理ありますね。ですが、あまり計画が遅延が生じるのも……」


「それは分かっておる。だから、こうして頭を悩ませているのだ。」


そう言って、ゲスクードは上質そうな椅子に身体を預ける。


「ティアマト、何か良いアイディアはないか?」


「私に聞かれても……あっ。」


「うん? 何か思いついたのか?」


「私が居た世界にあった物語に聖と魔、相反する属性を操る敵が登場することがあったんです。相反する属性をバランス良く組み合わせることで爆発的なパワーを発揮する、っていう設定で。」


「ふむ……良い発想かもしれんな!!」


ティアマトの何気の無い発現で何か思いついたのか、白い紙にペンを走らせる。


「魔の方はバハムートで十分だ。そうなると、問題は聖の方か……ティアマト、魔物の創造を頼めるか?」


「ゲスクードさん……私の力は野生の生き物を魔物に変異させるだけで、思う通りの魔物を生み出せる訳ではありませんよ?」


「そんなこと、百も承知だ。儂が指定する生き物を魔物化させてくれ。もちろん最上位種で、だ。」


ゲスクードの注文に今度はティアマトが頭を悩ませる番だった。


「それだと、聖国との闘いに支障が……」


「それなら、失敗作を連れて行くと良い。知能がないが、手駒にはちょうど良いだろ。」


「……分かりました。何とかしましょう。」


「すまないな。聖国との陣頭指揮を一手に引き受けてくれているのに。」


「そういうなら、知能の高い子を貸してくれませんか? 私の副官にしますから。」


「ふむ……それならコイツはどうだ?」


そう言って、ゲスクードは一枚の紙を渡した。

そこには彼の研究の犠牲になった被検体の情報と顔写真が掲載されている。

どうやら初期に生み出した実験の成功体に魔法で知識を埋め込み、薬で無理やり成長させた個体が居るらしい。


「儂の研究の補助を担当させるつもりだったが、そちらに回そう。」


「助かります。それじゃあ、私は準備があるのでリストはその子に持ってこさせてください。」


「ああ。できるだけ早く頼むよ。」


「分かってますよ。私も早く“あのお方”の復活を望んでいるのですから。」


そう言って、ティアマトは研究室から退室するのだった。

その姿を見ながらゲスクードはポツリと呟いた。


「しかし、あんな過去の影響とは同族に対して此処まで冷酷になれるものか……」


国民には公になっていないティアマトの出自を幹部たちは知っている。

彼女は魔国で生まれ育った訳ではなく、幹部の1人が偶然拾ってきた少女である。

種族はゲスクードが言う通り、被験体と同族――つまり、ヒト族。

しかし、“とある過去”から彼女に同族意識はなく、むしろヒト族を心底憎んでいるのだ。


「まあ、良い。むしろ、あそこまで冷酷になれる方が信頼できる。」


そう呟いて、ゲスクードは再び研究に没頭するのだった。




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