新たな武器を求めて
チャージボアの大量発生に頭を悩ませるオキ村からの届いた五日間に及ぶ長期依頼。
その五日間は何事もなく経過し、依頼のために村に集まった冒険者たちもそれぞれの拠点へと戻っていった。中にはそのまま村に滞在して【ムスペル洞穴】に挑戦する者も居るが、アレクシスの奴隷であるアテラスはクエストが終了したため、一度街に戻らなければならない。
【ムスペル洞穴】を踏破できなかったことに後ろ髪をひかれながら、五日ぶりに街へと帰ってきたアテラスが真っ先に向かったのは街の商業区画。その一角にお店を構える武具屋の中に彼女の姿はあった。
理由はもちろん、シュナイデン・クーガとの闘いで破損した武器の修理だ。
「まったく……何処をどうやったらこうなるんだよ。これ、上質な木材を使った上に魔法で強化しているから、そうそう壊れない筈だぞ。」
武器職人のクリュッグは机の上に置かれた槍を見て、ため息を溢した。
職人のプライドに賭けて、丹念に作った槍は穂先から柄の真ん中ぐらいまで真っ二つに分かれている。
素人目に見ても最早使い物にはならず、一から作り直す必要があるのは明白だ。
「シュナイデン・クーガと闘った結果ですわ。」
「はぁっ!? どうしてそんな相手と闘う羽目になったんだよ!!」
「仕方なかったのです。何せ、ダンジョンのトラップで飛ばされた先に居たのですから。」
「あ~……それならどうしようもないな。しかし、これだと作り直す必要があるな。」
「お願いします。できれば、もっと強い敵と戦っても大丈夫な武器にしてもらえませんか?」
「そうは言ってもなぁ。その分、値段もかなり高額になるぞ?」
そう言って、クリュッグが取り出したのは深い青色の刀身が美しい一本の剣。
彼がつい最近鍛えた業物の1つであり、熟練の冒険者たちを対象に販売している商品である。
しかし、そこに付けられている値札を見たアテラスは目玉が飛び出る程驚いた。
「た、高すぎませんか!? 一本25000マルクって……」
「上位モンスターの素材を使ってる上に、希少な鉱石も使ったからな。材料費を考えると妥当な値段なんだよ。性能が良い武器ほど使う素材も高価なモノになるんだよ。」
「それは確かに……」
「だからこそ、素材を持ち込んでくる客が圧倒的に多いのさ。」
「えっ? このお店って、そういうサービスがあるんですか?」
「ああ。むしろ、高ランク冒険者にはそっちのサービスの方が多いな。」
(そんなシステムがあるなら、チャージボアの素材売りに出さない方が良かった……)
アテラスは自分の行いを悔いた。
オキ村からの依頼で討伐したチャージボアの素材はギルドに売り、お金に交換してしまった。
ダンジョンでモンスターを討伐しても基本的には魔石しか残らないので、彼女の手持ちに武器にできそうな素材はない。
「クリュッグさん、武器素材にオススメなモンスターに心当たりはありませんか?」
「そうだな……どういう武器を求めるかによって必要なモンスターの素材も変わるが、特に希望がないならコレらを集めてくれないか?」
そう言って、クリュッグは一枚の羊皮紙に何かを記して手渡してきた。
そこに記載されているのはどれもアテラスには聞き覚えの無いモンスターの素材ばかり。
彼が言うには羊皮紙に記載されている素材は現在設計中の武器に必要な材料らしい。
「一応、全部発見済みのモンスターの素材ばかりだから、生息地は判明している筈だ。」
「ちなみに、敵の強さはどれくらいで?」
「そうだな……ムスペル洞穴の中層に出てくるモンスターよりも少し手強い程度だ。」
(ということは勝てない相手ではない、っていうことか。エテルナも居るし、何とかなりそうだな。)
「まっ、期限は設けないから適当にやってくれ。」
「いいえ。早速取り掛からせていただきます。」
そう返事をして、アテラスはクリュッグのメモ帳をポーチに収納する。
アイテムポーチの存在に彼が少し驚いている間にアテラスは武具店を後にした。
「もうアイテムポーチ持ってるのかよ……これは案外早く素材が集まりそうだ。」
そう言って、クリュッグは楽しそうな笑みを浮かべながら自身の工房へと入って行くのだった。
■ ■ ■ ■ ■
場所は変わって、武具店と同じ商業区画にあるギルド本部。
店を出たアテラスはクエストボードを睨めっこしていた。目的は当然、クリュッグが指定したモンスターの討伐依頼が入っていないかどうかの確認と同じ生息地での依頼が入っていないかどうかの確認である。
(同じモンスターの討伐依頼は……うん、いくつかあるな。)
運が良いことに目的のモンスターの討伐依頼がいくつか張り出されていた。
アテラスは迷いなく依頼書を剥がし、対象のモンスターの生息地で出ている採集依頼も一緒に受領する。
結果、一度に受領できる依頼の上限に達してしまい、いくつか諦めてしまった依頼も出てきてしまった。
「ムニンさん、お願いします。」
「お~アテラスちゃんは働き者だねぇ。今日、長期依頼から帰ってきたばかりなのに~」
相変わらず間延びした口調で話しながら、依頼書の受領手続きを一枚一枚こなしていく。
ところが、ある依頼書を手にした所でムニンの手がパタと止まってしまった。
「……アテラスちゃん、この依頼ホントウに受けるの~?」
「受注制限に引っかかりますか?」
「いや、大丈夫なんだけどね~。これ、そこそこ難易度の高い依頼だから大丈夫かな~って。」
そう言ってムニンが見せた依頼書は確かにアテラスが選んだモノだった。
討伐対象は上位のアンデッド系モンスター、ブレード・コマンダー。
動きはそれほど速くないものの、剣を使った変則的な攻撃は熟練の冒険者でも翻弄される程で上位種モンスターの中でも最上位種モンスターの領域に片足突っ込んでいると言われる。
本来ならアテラスのような駆け出しが受注するような依頼ではない。
「大丈夫ですよ。今のワタシには頼もしい相棒も居ますから。」
「う〜ん……そう言うなら受注手続きしておくけど、無茶したら駄目だよ〜?」
「はい。」
「それと、ブレード・コマンダーは特定の時間にしか出てこないから気を付けてね~」
「確か、夜にならないと出てこないモンスターなんですよね?」
「そうそう。アンデッド系モンスターは基本的に夜しか出てこないの~。だから、到着する時間とかはよく考えて行動した方がいいよ~」
「ちなみに、ストラタイト坑道までどれくらい掛かりますか?」
「結構掛かるよ~。定期便だと、3時間ぐらいかな~。でも、すぐに使えないんだよね~」
何でも、【ストラタイト坑道】を通る定期便は1週間に一度しか運行しておらず、その貴重な定期便も昨日出てしまった。そのため、定期便が来るのはおおよそ1週間後になってしまう。
徒歩で【ストラタイト坑道】を目指すとなると、休憩なしに歩き続けて半日ぐらい。もちろん、道中でモンスターに出くわす可能性もあるので実際にはもっと時間が掛かる。
「そうですか……」
「そうなんだよ~。」
(これは困ったなぁ。もっと近くにあるもんだと思ってたから、今日中に挑むつもりだったのに)
思わぬ所で足止めを食らってしまったアテラス。
次の定期便が来るまでどうするか迷っていると、カランコロンと来客者を告げるベルの音がギルド本部内に鳴り響く。
「おっ、やっぱり此処に居たか。」
「エテルナ。アレクシスさんとの話はもう終わったの?」
「ああ、恙無くな。それで、何か困ってたみたいだけど、何かあったのか?」
「実は―――――」
アテラスは相棒であるエテルナに事情を説明する。
すると、物知りな彼女は打開策を早速提示してくれた。
「それなら、ちょうど良い手段があるかもしれないぞ。」
そう言うエテルナだが、人目のある場所で話すのは憚られるらしくギルド本部から連れ出されて、人気の無い路地へと連れ込まれる。
さらに音が漏れないように遮音の結界も張る徹底ぶりを発揮した後、アテラスに"ある物"を渡した。
十数枚の羊皮紙を束にしたレポートで、題名は何も書かれて居ない。
内容を確認してみると、論文のようにキッチリとした構成で書かれている訳ではなく、どちらかというとメモ書きに近い。筆者が几帳面な性格だったのか第三者であるアテラスでもレポートの内容が何となく理解できた。
「これ、竜人族に関するレポートね?」
「ああ、アレクシスから預かったんだ。例の元公爵の自室から発見されたらしい。」
「アイツの力を借りることになるのは不本意だけど……」
そうぼやきながら、アテラスはレポートに目を通す。
最初はわずかに遺される伝承やお伽噺に登場する竜人族の特徴が列挙されており、次のページからはどのようなカラクリでその力を行使したのかゲスクードの考察が書かれている。
しかも、その考察も彼の単なる妄想などではなく、魔物のドラゴンの生態を参考になされた考察で信憑性は高い。少なくともやってみる価値はあるような考察がなされていた。
(なるほど。エテルナが言っていたのはコイツのことか。)
「有翼の竜人族は大空を高速で自由自在に飛び回っていたって話だし、試してみる価値はあるだろ?」
「確かに。だけど、魔力の問題はどうするのよ? ワタシの魔力は制限を受けているのでしょ?」
「それなら大丈夫だ。さっき、アレクシスに制限の変更をお願いしてきた。無意識に放出する魔力量にだけ制限を掛けて、意図的に使う分は自由になってるよ。」
「いつの間に……」
「ふふん♪ できる女は違うのさ♪ さぁ、早速空を飛ぶ練習に行くぞ!!」
「ちょっ……分かってるから、そんなにぐいぐい押さないで!!」




