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めぇるかい  作者: ふたみしへん
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7.おや と じてん


「はぁあ~? んなこともわかんねーのかよ、このバニーが」


「誰が淫乱仔ウサギ(バニー)だあああ!!! っつかーお前もだろうがこのバニー(淫乱)がぁ!」


 じゃっく の事典を放り投げながら、彼の母親が悪態を吐く。無惨にも投げられた事典は、優秀な彼の弟が無事に掴み取ってくれた。ウサギらしく高飛びしたのは、少しわざとらしいなと じゃっく は思う。ウサギらしい振る舞いをすると、ある人物が大袈裟に喜ぶためだ。


「かわいい! さすが僕の息子! っと、じゃっく(お兄ちゃん)、お母さんに『お前』はないだろう? 謝りなさい」


 件の人物が嬉々とした声を上げたあと、声色を変えながら、じゃっく に向き直り、『お父さん』らしい発言をする。かけている眼鏡を掛け直す仕草をしているが、一向に締まらない。これは、「『メガネキャラ』はこうしないとな!」とか以前発言していたのを、思い出すためだ。


「お袋の発言、聞いてなかったのか親父ィ。俺に向かって『バニー』っつったんだぞ、しかも『んなこともわかんねーのかよ』だぞ! てめえがヒトと契ったからだろうが!」


「はぁああ~?? 言うにことかいてこの童貞(チェリー)が。世界の声を聞き取れないとか、この耳は飾りか? マジでバニーだろ、網タイツでも出してやろうか」


「はいは~い、喧嘩しないで。仲良くしよう」


 手を叩きながら、じゃっく の父が戒める。父というより、これでは幼稚園の先生だ。小学校まではヒト社会で暮らしていた じゃっく がつくづく思う。父として、男としての威厳がないのだ。


「獣人のことはよく分からなくてごめんな。お父さんのせいで、セカイの声が聞こえないなら尚更。獣人として生きていくには必須なのかな?」


 父の面目なさそうな顔に、母が溜め息を吐きながら立ち上がり、その眼鏡をつついた。


「ぶぁあっか。ヒトだって獣だ。平行認識(アポカリュプシス)には抗えないのが良い例だ。雑種だろーが関係ねーんだよ。ったくほら見ろ糞ガキ。おめーのせいでコイツが落ち込んだじゃねーか」


 母が平手を 行おうとするのが読めたので、じゃっく は慌ててその身をかわす。足でなくて良かったと思う。


「親父はなんでこんな女に惚れたんだか…」


 悪態を吐きながら じゃっく が距離をとったところ、その嘆きに父は嬉しそうに笑った。


「なんだ? なんだ? お父さんたちの馴れ初め聞きたい? 聞きたい?」


「アキバで出会ったっつーのは聞いたから。んなじゃなくて、惚れる要素、一個もねえだろコレ」


「ぁんだ? 女も男も連れ込んだことねえ童貞(チェリー)が。他人に惚れられたこともねぇお前に言われたくねえわ」


「さくらんぼ、さくらんぼってうっせーな! 一応、これでもモテてたんだぞ!」


「そ、そうだったのか?! お父さん聞いてないぞ!」


 親父が加わると、喧嘩が可笑しな方向に逸れるから本当に勘弁して欲しいと じゃっく は思う。

 だが、モテていたという発言は出任せではなかった。

 獣人には変わった特徴が一つある。

 彼らはヒト化または半獣化で、人間の顔を形成する際、決まってヒト社会で言う『美人』になるのだ。勿論、男女種族年齢は関係無い。この『美人』という感覚は、獣人たちの間では理解できないため、相手を判断する時は、匂いと声とボディーランゲージとなる。

 じゃっく にとって、とーま が良い例だ。

 とーま はお日様の匂いで、綺麗な声音で、動作全てが可愛い。とても可愛い。―――話がそれた。

 よって、『美人』な じゃっく は、ヒト社会の女子たちにはモテモテであった。ヒトはまず、『見た目』に拘り、次に『性格』、そして『協調性』を重んじる。

 ウサギの獣人であった じゃっく は、それでも協調性はある方であったが、あの女子・男子特有の仲間意識は、自分には合わなかったと思い出す。この集落に移住することで、あの空間を抜け出せたことは感謝するしかない。

 可愛い とーま にも出会えた。


「べ、別にいーだろ。俺のことは」


「はん。どーせ他人の想いがうぜぇ、きめぇって感じてたクチだろ。コレだから恋愛もしたこともねえガキは」


「な…!」


 言いかけて じゃっく はその口を両手で覆うという物理的行動に出る。これ以上はただのネタの提供だと気がついたためだ。弱みを握られ、弄られるなどたまったものではない。

 しかし、あからさまな動作をした息子を、母も父も見逃すわけはなかった。


「なんだぁ~? 惚れてるヤツでも居んのか、じゃっくぅ~?」


「なんの獣だ? お父さん、ケモノ全般大好きだぞ?」


「うっせ! 例え居たとしても、ぜってぇ言わねえ」


 じゃっく は再度咆哮すると、弟が預かったままになっていた事典を奪い取り、自室へと向かう。

 拒絶を示すようにその扉を思いっきり閉めた。

 獣人の集落のこの借家は、これくらいの力ではびくともしない頑丈さで、じゃっく の父は安堵のあまり、溜め息を吐いた。




***


あだむ【アダム】

 最初にヒトとなったモノで性別は(オス)。神造種。神により特権を与えられており、『総ての存在るモノに名を与え、支配する』『支配したモノを識る』ことが可能であったが、智慧の樹の実を食べたことにより『際限なく智識と力を取り入れる』能力を得た結果、それらの特権は劣化した。また、世界種の縛りである『平行認識』の影響下にある。特権と能力両方が覚醒しているヒトを『近誓者:神が屍に人として活きたモノ』と呼ぶ。


あぽかりゅぷしす【平行認識】

 啓示、神勅等。その肉体がどの様に歩むか予め世界が定めたモノ。ヒトは神造種だが、智慧の樹の実を食べているためこの影響下にある。道は複数存在しており、何処を歩むかはある意味自由意志。主にその肉体の夢として示される。つまり、性格・行動・想い等は予め創られ、示され、刷り込みにより導かれていると言う事になる。普通の人間はそれを感じ取る事は出来ない。

 しかし、覚醒者は観る事が出来(自らの意思ではなく強制的なモノ)、また覚醒者予備軍は何らかの形で肉体に影響が出る。


いじん【異人】

 ヒトとは異なった人間。亜人とも。

世界が作成した世界種のため、法式と術式を得意とするが、不老長寿、不死性であった故に種間での繁殖力が発展等せず、ほぼ絶滅種となっている遺存種。

故に、ヒトとの雑種が多い。しかし、その力は二世代以降極端に衰え、ヒトと変わらない状態になってしまう。異人同士での雑種も確認されているが、やはり血の濃いモノ、エメムにより調整されてしまうものである。

 例:エルフ、ドワーフ、フェアリーなど。


えめむ【エメム】

 Emem。生命の進化のみを担う生命体。不安定な世界には多く生息する。進化する事でしか自身を保てず、またいつかは滅びる存在とされる。分類的には世界種に堕ちたワカン・タンカの一部。通常、視覚で捉えることは不可能であり、触れることも出来ないが、近誓者等はそれが可能である。また、増殖と結晶化により視覚化も可能にする手段がある。

 地球では、生命の知識、思考、文化等に影響を与えるように『進化』しており、通常独自の意志は殆どなく、人の想いに一番影響を受け、進化している。それは文明の発達を求めれば文明の発達を、不死を求めれば異形の者に、力を欲すれば力を与える。

 ただし、自我を持ち始めたエメムはやがてその宿主を浸食、崩壊後は空中等に飛散し、精神が弱っていたり、心が無いモノ等、寄生しやすいモノに寄生する。また、崩壊しなくても、他に寄生させる事は可能。浸食を防ぐモノとしてはテウルギア、世界の概念等がある。


でみうるごす【(かみ)

 星を作成し、気紛れに命の息吹きを与えし造物主。この場合の神は『触れる神』である。また、認識されている神である。現人神となっている場合、ヒトとの交配は可能。


ふぁんたじむ【(かみ)

 別名『触れない神』。元々認識されない神である。認識された瞬間、属性と役割と力を与えられ、多くの場合『触れる神』を担う様になる。認識者とは『世界』か『知的生命体』である。


きんせいしゃ【近誓者】

 神に最も近く、誓わされている者という意味。アミリラウア、公現者、モリヤとも。『触れる神』の力(※術式・法式ではない)を持つ者、または『触れる神』そのモノが具現化した者。誰かが存在を祈願した為に誕生する。ただし神の意思ではない。神の子孫(雑種)も近誓者となる。


じゅつしき【術式】

 世界を情報技術的に捉えた時に再現可能な力のこと。計算・言語・消費が必須。後天性能力。

 例:呪術、気功、仙術など。


しんぞうしゅ【神造種】

 神が智慧の樹を参考にし、世界種に似せて作成した生物。各々で独自の交配と進化を行ってきたため、その神聖や力は失っている。世界種との交配は可能であり、その際世界種の能力を受け継いだり、逆に神造種としての能力が目覚める場合もある。エメムの影響を受けやすい性質。

 例:ヒト、動物


せかい【世界】

 突如発生する。星が無くても存在する。また誰にでも造ることが可能な自由意思を持つ空間。力は神を凌駕する。


せかいしゅ【世界種】

 世界によって作られた生物のこと。ヒトでいう異人・伝説、物語上の怪物等がそれにあたる。長命であり、術式、または法式の施行を得意とする。殆ど絶滅種、遺存種。ヒト以外で言語を使う種はほぼ世界種である。

 神造種との交配は可能であるが、雑種の能力は著しく劣ることになる。

 例:異人、ドラゴン、ユニコーン、ペガサス、アルミラージなど。


せかいのがいねん【世界の概念】

 世界の一部のこと。これが何らかの形で『ルーアハ』等、世界に存在する物質に転移してしまった場合、世界はプリマ・マテリアではなく不完全なモノとなる。

 不完全であるが故に崩壊への道を歩むが、世界にその物質が存在さえしていれば、不安定であるが存続することができる。

 現在の世界は、『天界の盗火』をはじめ、失っているモノが多く、不完全なモノとなっている。確認されている世界の概念は、天界の盗火(火)、智慧の樹(地)、サンポ(水)、天使の智識(風)である。


ほうしき【法式】

 世界に拘わるモノがその一部を直接使えること。思う・願う・消費しないが必須。先天性能力。例:魔法、妖術、超能力など。


わかんたんか【ワカン・タンカ】

 大いなる神秘、21、42とも。総ての根源、宇宙、道、意思。ただし、認識されなければ、不在となる。



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