5.ねんれい
「そういえば、とーま も野菜を多く食べてるな。あと、デザートと…コーヒー?」
じゃっく が疑問系になったのは当然であった。彼の品目に統一性が無いと感じたからだ。その言葉に、とーま はキョトンと目を丸めたあと、直ぐに顔が真っ赤になってしまう。可愛い。
「オレ、獣の姿だと、野菜が消化できないんだ。甘いのも分からないし、コーヒーも飲めない。だからヒトの時はいっぱい色々食べちゃうの…」
指摘されたのが余程恥ずかしがったようで、目を伏せながら話すと食器を置いた。可愛い。
その様子をポーカーフェイスでなんとか見届け、じゃっく は話を合わせようと努める。
「それなら仕方ねーよ。オレは獣で居たのがほとんどねーから、消化とか味覚…気にしたことなかったな」
「片親がヒトだと言っていたからそうだと思ったけど、随分長い間ヒト社会に居たのね」
「変なのか?」
「いいえ、ヒト社会出身ならそうでも無いけど…そう言えばあなた何歳なの?」
じゃっく の言葉に りざ が乗ってくれたが、彼女との会話は、質問が多いなと億劫になり始める。女は苦手だ。そういう意味では、お袋は女では無いなと じゃっく は思った。
「今年で十三だよ。さすがに中学はやべーかー…ってお袋が言ってさ、合わせて他の兄弟も道連れ」
「そうね、力の加減を覚えないと。激昂するたびに木を斬り倒すなんて、ヒト社会では通用しないわ」
「げ」と思わず じゃっく は声を出す。こいつ、咎めたくて話題にしたのかと、勘ぐるしかない。
しかし、とーま は気がついていないのか、目を瞬かせながら嬉しそうに話の続きを言った。
「じゃっく、りざ と同い歳なんだね」
「…みたいね」
「そういうお前は何歳なんだ? とーま」
「オレ? この間十五になったよ」
歳上かよ!!!! じゃっく の顔は見事に崩れ落ちた。
こんな可愛い生き物が自身より歳上だったという事実。同時にあのクズオオカミたちが何歳だったのか気になるところである。
「でもオレ、半分以上、獣で生きてきたから、ヒト社会のこと全然分からなくて、いっつも赤点ギリギリ」
「…私だって大差ないわ。生まれはヒト社会でも、両親は獣。保護されてペットになったネコだもの」
この二人の生い立ちは気になる案件であったが、そこまで親しくは無いかと思い、じゃっく は開けた口を閉じた。それよりも、とーま が言った『赤点』である。
「え…この施設、試験とかあんの?」
「あるに決まってるでしょう。学んだことを覚えているか、どうやって証明するの」
「赤点をずっと取ってると、呼び出されて指導があったり、ちょっとした罰則もあるらしいよ」
「うげえー」と 今度は悲鳴を上げる じゃっく に、とーま は苦笑し、りざ は溜め息を吐いた。
ヒト社会だけではなく、この集落では学ぶことがたくさんある。どちらの道を歩むか決めるために、決めた後に見失わないために、彼らはこの地に居るのだ。
「良かったら、三人で勉強とかしない?」
提案したのは とーま である。彼の手をとり、じゃっく は満面の笑みで答えた。
「めっちゃ助かる!」
「でも、オレの頭は余り期待しないでね」
勉強は勿論だが、とーま との交流の機会が思わぬ形で増えたのだ。じゃっく が喜ばないはずはない。
しかし、繋がっているその手は りざ の手刀で断ち切られてしまう。当然、じゃっく の手が痛かった。
「『三人で』って言ったでしょう」
「りざ は反対?」
じゃっく が手を擦っている横で、とーま が小首を傾げて彼女に問いかける。りざ は二人を交互に見比べたあと、静かに応えた。
「『三人で』なら問題ないわ」
「良かった」と弾んでいる とーま の横で、じゃっく は少ししかめっ面であったが、彼女が嫌いというわけではないので、まあ、良いかと許容する。