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めぇるかい  作者: ふたみしへん
3/17

3.りざ

「とーま 大事なモノを忘れているわよ」


 じゃっく と とーま の間に割り込むように、ネコの獣人が現れる。じゃっく はこの(メス)に見覚えがあった。

 じゃっく が学舎に通うようになってから、頻繁に面倒を見てくれている獣人だ。


 金の髪をサイドだけ長くし、他は短く纏めている。その隙間から黄金色(こがねいろ)のネコ耳が主張していた。瞳は琥珀色で、肌は色白。彼女も制服をきちんと着こなしており、名は りざ という。

 その りざ が黄金色の毛皮を軽々抱えていた。軽々とは言ったが、彼女の上半身を覆える程の大きさと質量だ。獣人は皆、ヒトの能力に獣の力が乗算されるようなので、全く問題ないのだが、その光景はシュールであった。自分の親父なら、潰れるだろうなと じゃっく は思う。



「りざ、ありがとう!」


 ぱっと明るい顔になり、とーま が りざ の元へ駆け寄った。彼もまた、軽々その毛皮を受けとると、自分の腰へと器用に巻く。ヒト化している とーま であったが、やはり獣人で間違いないのだと認識した形だ。

 しかし、巻かれた毛皮を見て、じゃっく はハテ?と首を傾げる。毛皮には尻尾も付いていたのだが、この特徴的な尾を持つ『獣』は、一つしか彼には浮かばなかった。


「改めて、オレはライオンの獣人の とーま って言います。よろしくね、じゃっく」


 大事そうに腰の毛皮に触れながら、とーま が再び挨拶をした。可愛い。

 ――しかし、そう『ライオン』。

 自分の予想が大きく外れた じゃっく は苦笑するしかない。これは随分、可愛い獣が居たモノだ。

 そう言えば、キツネだったかが「百獣の王の名が泣いてるぜぇ?」と言っていた気がする。


「じゃあ、私が見つけたのだから、とーま、私に何かお礼して」


 りざ が掌を上に向けて差し出しながら とーま に告げた。とーま との約束が、横取りされた気になった じゃっく が思わず声を上げる。


「はあっ!? ふざけんなっ!」


「なによ」


「ど、どうしたの? じゃっく」


 上げた瞬間、りざ が とーま を庇うように じゃっく の前に立ちはだかった。

 彼女の様子と態度からも、さすがに じゃっく は察しがつく。

 りざ は じゃっく から とーま を遠ざけようとしているのだ。


 じゃっく にとって彼女は、かなり恩がある人間である。規則は勿論、獣人の集落に疎い彼を都度、補佐してくれた。それなのに、今は彼の扱いが随分ぞんざいだ。

 ――そういえば、この女には一つ言わなくてはいけないことがあった。今はそのことに話をすげ替えるべきだろう。


「おまえ、彼氏の管理くらいしっかりしろよな!」


「は? 彼氏?」


「りざ、お付き合いしている人、居たの?」


 じゃっく の発言に、りざ と とーま が各々声を上げた。


「付き合っている奴なんて居ないわ」


「オオカミに因縁つけられたんだよ俺はっ!」


「オオカミって…れむす?」


「ふ、ふざけないでよ、あんなクズ!」


 やはりあのクズオオカミの名前は れむす と言うのか、と じゃっく は思う。しかも恋人ではないらしい。オオカミ の片想いか、一方的な思い込みか、または じゃっく の予想した女が別人だったということだ。


「クズって…、れむす にも良いところはあるよ?」


「あなたの様な限られた獣人を、『モドキ』と揶揄する救いようのない愚者たちは、全員クズよ」


 『モドキ』…『ヒトモドキ』。クズどもが とーま を呼んでいた。とーま もばつが悪そうにしている。

 だが、じゃっく には、その『ヒトモドキ』という名称に馴染みは無かった。ここは聞くべきか悩むが、それも とーま が応えた内容で察することができた。


「仕方ないよ、オレは司る獣の毛皮がないと、獣化できないんだから。半獣にもなれないし…」


 獣人の多くは、大地に素足を付けることで、ヒト・獣・半獣へと容易に変化できる。

 世界からその分の質量・エネルギーを得、場合によっては余分を返還するのだ。

 ウサギの獣人である じゃっく もそれは同じで、彼も獣化した場合、ウサギ本来の大きさになってしまう。

 ただし、借受・返還の循環時に外的要因による邪魔が入るとそれに限らない。

 半獣化という形態はまさにその結果であるし、狼男や人虎が有名になってしまったのも、その外的要因が正にヒトのせいであり、目撃されたからだ。


 その様な獣人の中にも一つの例外がある。獣人から生まれ落ちたのに、ヒトから獣に変化できない者が存在したのだ。

 多くは獣の道を歩んでいた獣人の子で、その死んだ親――若しくは仲間の毛皮を子供が身に付けて変化したことで発覚した。


「そっか、とーま は希少(レア)なんだな」


「やめてよ、そういう言い方」


 呟いた じゃっく の言葉に、りざ が即座に噛み付く。瞳が全く笑っていない。

 りざ と とーま の関係は一体どうなっているのか。少し前まで親切にしてくれた彼女とはまるで別人であった。慌てて じゃっく は とーま に謝罪する。


「…わ、悪い。嫌だったか?」


 どちらかというと『貴重』だという意味合いを込めたのだが、それは とーま にも伝わっていたらしい。彼は首を横に振るとニコリと笑った。ああ、可愛い。こんなの親父でいうところの『SSR』だろ。

 自分の発言は間違ってないな、と改めて じゃっく は頷いた。


「それで りざ、お礼は何が良い?」


 弾むような声で とーま が尋ねると、りざ は小さな声で「あなたの奢りで…三人でご飯…」と応えた。



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