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めぇるかい  作者: ふたみしへん
11/17

11.へんげ


「じゃあ、行って…くる…ね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 少し歩を進めたところで、とーま がちらりと後ろを振り返る。

 笑顔で手を振る りざ の横で、じゃっく が顔面を両手で覆いながら悶えていた。その様子が、具合が悪そうに見えた とーま は、心配そうな顔で戻ろうとするが、彼女が手の向きを変えて、さっさと発つように促す。


「私が介抱するから」


「そ、そう…?」


 じゃっく のことが心配なのは変わらないが、りざ が居ること、けるむ が待っていることからも、出立の意志が勝ったようだ。

 とーま は一呼吸すると、毛皮を強く握りしめ、そして獣の姿(ライオン)へ変化した。

 全身黄金色の体毛で、まだ若い雄の彼は鬣が生え揃ってはいない。『ライオンの雄は皆、鬣がある』と思っている人は、今の とーま を雌のライオンと勘違いしそうだ。

 変化の状態に満足したのか、とーま は獣の姿で器用に片前足を上げて手を振った。可愛い肉球がよく見える。再度、「行ってきます」と言っているのだろう。彼はそのまま走って去っていった。可愛い。

 

「で、立てそう?」


「……ちょ、ちょっと待て、あんなん反則…」


 じゃっく は思い出してしまう。

 

 男の裸など見飽きている。

 女も同じだ。お袋が風呂上がりはすっぽんぽんで歩き回るからだ。

 だから、とーま が全裸で毛皮を身に付けるくらい何ともない、と、じゃっく は思っていた。


 反則だ。

 彼は毛皮を器用に巻いて、生殖器や胸元を隠していた。分かっている。隠れている場所には、自分のモノと同じモノが付いている。付いて……る……ように見えるかああああ!!!!

 てか、筋肉とか肉とかの付き方がおかしい。官能的過ぎる。太ももというか、下半身が女だった! お袋かと思った。しかも内股!

 胸も、何で、男なのに、あった。おっぱいあった。あ、あれ、親父が言ってた雄っぱいだ、きっと。胸筋ってヤツ。

 いや、もう、女でもない。男でもない。あれ、絶対に別の生き物。第三の性。性別が とーま で良いだろもう。ヒデヨシみたいな感じで。

 てか、ライオン()の姿もやばい。なんなのあれ、やばい。語弊があるけど大きな仔ネコ。仔ネコちゃんって言われて怒らないわけだよ。本当、惹かれる要素しかない。



「……落ち着いたら、ヒト化してくれない?」


「いや、おちつけるかって……ん? ヒト化? 獣化じゃなくて?」


 りざ の言葉に我に返った じゃっく が、伏せていた顔を上げた。てっきり とーま と同じく、獣になって彼の後を追うと、じゃっく は思っていたからだ。


「私たちが獣化したら、良い獲物よ…保護区では浮くしね。ヒトの観光客を装って行く方が無難。…いつもそうだし」


「過保護」


「貴方に言われたくないわ」


 目を閉じながら、りざ が靴を脱ぎ、素足を地面へと置く。瞬間、彼女の特徴的な猫耳と尻尾は、失われ、大地へと返った。完全にヒトと同じになると、直ぐに彼女は靴を履き直す。不快そうな顔からも、余りヒト化を好んではいないようであった。

 反して、じゃっく は慣れた様子でヒトへと変化する。一生の多くをヒトとして過ごしてきた彼には、獣化の方が馴染みはない。今回、練習にもなるかと思っていたが、それはまだ先かと、少し残念そうであった。



***



 ここは保護区内に設置された監視員と業務員用の宿舎である。観光客用のいわゆるサファリロッジは、保護区の中でも野生動物から隔離した場所に設置されているが、ここは当然真逆だ。

 もちろん、周りは鉄のフェンスで囲っているし、夜間は絶えず照明を点けている。宿舎も鉄筋コンクリート製で、窓は格子覆われた網ガラスだ。扉は鉄製であり、内扉の傍には麻酔銃も含めた銃火器が並んでいる。

 野生動物を侮るなどもっての他だ。

 彼らの住みかを、世界を侵さないようにできないのが、とても歯痒いと、ケルムは常に思っている。


 ケルムが件の窓から外界を眺めると、宿舎の外、正確には囲っているフェンスの外に、大人しく座っている若い雄のライオンが目に入った。まだ発信器を着けていない個体であるが、件のライオンはこの保護区では有名であった。

 驚嘆する程、人に慣れており、まるで飼いネコのようだと誰もが口にする。人間を襲ったことは勿論無いし、相手も分かっているのか常に距離をとる。

 唯一、近づけるのはケルムの息子だけだ。

 その息子が危険な目にあったことなど一度もない。

 発信器の装着、採血等も息子なら容易なのでは無いかと提案したこともあるが、肝心の彼が首を縦に振ったことはなかった。


 しばらく眺めていると、息子が姿を現し、ライオンの方へと歩んでいた。一応、襲われた時に対応できる装備を身に付けてはいるが、これも建前であることをケルム知っている。

 息子はフェンス越しにライオンを撫でると、ライオンは幸せそうな顔をしながら、目を瞑った。

 本当に変わっている。

 ライオンも、息子もだ。


 ケルムは長い間、一人と一頭の様子を見守っていた。


※勉強不足です。勉強後、後日、加筆修正する可能性が高いです。

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