相川煌と水樹弥生(1)※加筆修正しました
本編突入です。
プロローグ編では、テーマである青春や恋愛が全く絡んできませんでしたので訝しく思われた事でしょう。
ですが本編からは大丈夫です、、たぶん、、はい、、。
学生達にとって最も長い休みが終わり、9月が訪れる。
真夏の8月が終わり暑さも落ち着くと思いきや、だらだらと続く残暑と二学期が始まるという億劫さを体感して、一人の少年が溜息をつく。
その少年の名は、相川 煌。
17歳の高校2年生である。
身長は、男にしては少し低めの168cmで、どちらかというと華奢な体躯。
下は学校指定の黒のスラックス。
上は同じく指定だが、まだ暑いのに長袖のスクールシャツだ。
そして地味目の黒縁眼鏡が、その整った顔をいい塩梅に隠し草食系男子を演出している。
髪型はほんの少し長く、無造作な黒髪のショートボブで中性的な印象を見る者に与えるだろう。
彼は今、二学期が始まろうとしている始業式前の教室にいた。
まだホームルームまで時間がだいぶ有るので生徒たちは疎らである。
2学期の席順は、1学期の終業式前のホームルームでクジ引きにより事前に決めてあったので、迷うことなく自分の席にコウは向かう。
コウの席は、一番後ろの窓側の席だ。
ヤンキーや不良などにとっては定番席だが、一応進学校なのでそんな奴らは存在しない。
なので後ろの席の取り合いで諍いが起こるような事もない。
コウは良い席が取れたと内心で喜びながら、静かに席に着き鞄を机の横にかける。
鞄とは別に逆の手に持っていたパソコン雑誌を無造作に机の上に置く。
登校前にコンビニに寄って、間を持たせる為に買ってきたものだ。
間を持たせる?
電車通学でもない徒歩による登校であるコウは、本来そんな物は必要ないはずだ。
では何故か?
それは、他のクラスメイトとコミニケーションを取りたくない為だ。
この雑誌はそのツールのような物であり、自分の空間を作って相手に話しかけられないようにする意図がある。
コウは、入学してから2年生になるまでの今まで、そんな学生スタイルを突き通していた。
学業上、最低限必要な人とのコミニケーション以外は一切取らないという徹底ぶりである。
その為、友達なのど出来ようはずもなく、コウの意図した通りにボッチライフを満喫していた。
何となく窓から外の景色を眺めていると、隣の席に誰かが来た気配がした。
隣の席から女の子特有の優しくて甘い香りが、微かに漂ってくるのをコウは感じた。
いつもなら我関せずと本や雑誌を読んだりして、自分のパーソナルスペースにバリアを張るのだが、、。
今日はどうかしていた、。
コウは、何気なく隣の席に目をやってしまったのだ。
するとそこには、美しい黒髪をポニーテールに纏めた美少女が立っていた。
この学校屈指の美少女で名を馳せる、水樹 弥生である。
その時コウは、うっかりこの美少女と目が合ってしまったのだ。
水樹弥生は、席に着きつつコウを見ながらニッコリ微笑んで
「二学期からお隣りだね、よろしく相川君」
コウはぶっきら棒に返事を返す
「ああ、、よろしく、、」
コウは舌打ちしそうな自分を押しとどめて内心で呟く
『しまった、忘れてた、、、水樹さんが隣だったな、、、』
水樹弥生は、校内3大美少女の一人と他の学生から呼ばれている。
そして成績優秀、スポーツも万能で性格もよく、クラスメイトや教師からの人気も高い。
そんな水樹弥生を横目でチラリと窺うと、端正な横顔が見えた。
ポニーテールで纏めてある為か、綺麗なうなじが露になって何とも言えない色気を放っていた。
肌もきめ細やかで白く、紺と白のセーラー服がそれをより一層際立たせる。
そして長い睫毛、ふっくらとしているが厚すぎない唇は薄っすらと艶やかな赤みを帯びて、とても17歳の少女には見えない雰囲気だ。
コウは深い溜息をついて、項垂れる様に内心で
『クラス委員で面倒見がよくて、次期生徒会長と期待される程で、、』
『そんなスーパー人間が俺の隣に来るなんて、、、』
コウのそんな様子に気付いた弥生が
「どうしたの? 何だか残念そうな顔して、、」
コウはぶっきら棒に片腕で頬杖をついたまま
「眩しくて少ししんどいなって、、、」
弥生は、何だか納得した様子で
「あぁ! 窓際の席だからねぇ」
頬杖が崩れてガクっとなる。
諦めたような表情で再び溜息をつくコウ。
それを不思議そうに見つめる水樹弥生。
コウはこの時感じた。
今まで貫き通していた快適なボッチライフが、崩れていくのでは無いだろうかという漠然とした不安を、。