果ては悲嘆に帰す
猛烈に続く剣聖の攻撃。
その最中に剣聖は言った。
unknownは、自身に匹敵する強さだと。
そして狂気にも似た笑みでシウスは続ける。
「さあ、見せてくれ最高の攻防を!」
unknownは必死にシウスの攻撃をしのぐ。
すでに反撃の余裕さえ無い。
unknownの気力は、シウスの圧倒的な攻撃の前に尽きかけていた。
「無茶を言ってくれる、、、」
シウスの一向に止まない刃の嵐を耐えながらunknownはチャンスを窺っていた。
完全領域の白い空間がすぐ背後まで迫っている。
そう、縮小しているのだ、目と鼻の先まで。
剣聖の鋭い突きがunknownを襲う。
それをunknownは咄嗟に利用した。
受け流しや相殺をするのでは無く、わざとガードしたのだ。
鋭く重い剣聖の突きをガードした事により、その反動でunknownは後方へノックバックする。
そうしてunknownは、完全領域の効果範囲から脱したのだ。
更に後方へ跳躍し、unknownと剣聖の距離が開く。
今しか無い、unknownは決断した。
「オーバードライブ」
「鏡面分身」
unknownの体から分身体が発現し、まるで光の速さの様に翻し剣聖の背後へ移動を始める。
その瞬間、砕け散り四散する光のエフェクトがunknownの直ぐ傍で発生した。
唖然として固まってしまうunknown。
それはunknownの分身体が何らかの直撃を受けて消し飛んだからだった。
そして随分遅れてから戦闘ログが流れる。
【シウスのLv99 壱の太刀 閃が発動】
unknownは剣聖を凝視したまま呟いた。
「まさか、、、」
「発現した瞬間の分身体を、ウェポンスキルで破壊したのか?!」
内心で慌てて否定するunknown。
『そんな事は不可能だ、、』
『まばたき程の時間で、発現展開する鏡面分身を狙い撃つなんて、、』
シウスは不機嫌さを露わにして言った。
「スキルなどと、、無粋な真似をするな!」
unknownは驚愕する。
その剣聖の言葉で確信したからだ。
『間違いない、、』
『剣聖のオーバードライブ"完全領域"は、範囲内のスキルを無効化するだけでは無い』
『自身のスキル発動速度を超高速化させる』
刀を持つunknownの手が震えた。
『発動、発現、着弾がほぼ同時になる程に!』
unknownは自分の手が、刀を持つ手が震えている事に気付いた。
もう刀の柄を握りしめる力も無い。
力が無い、、、それはもはや気力が尽きた事と同義だ。
シウスがunknownに迫る。
戦いはまだ終わっていない。
だから終わらせなければ、幕を引かねばならない。
力を失ったunknownの腕が刀をゆっくりと振り上げた。
『自分が願って始めた戦いだ、、』
至近にある剣聖にunknownの刀が振り降ろされた。
『自分の手で終わらせる!』
だが届かない。
届く訳がなかった。
その弱々しい刃は容易に躱される。
振り降ろされた刃は空を斬り、unknownはゆっくりと前へたたらを踏んだ。
unknownの目は地面を見ていた。
そして自分に剣聖の陰がかかっているのが見えた。
静かな、何故か優しげな声が聞こえる。
「幕引きだ、、、」
unknownは見上げた。
剣聖の漆黒の刃が振り降ろされるのを。
何のエフェクトも伴わない斬撃がunknownの身体を縦に通過した。
【シウスの妄執の太刀 絶斬が発動】
刹那、視界が傾く。
気付けば空が見えていた。
unknownの体力ゲージは0を示し、倒れ伏していたのだ。
シウスはunknownを見つめた。
その表情は残念そうで、また寂しげでもあった。
「私は本当に、、」
「本当にあなたを尊敬していた、、」
「憧れてもいた、、」
小さく震えるようなunknownの声が聞こえた。
シウスはunknownが紡ぐ弱々しい言葉に耳を傾けた。
「でも、どうしようも出来なかった、、」
「あなたに憧れて眩しく見える程、、自分が惨めに見えて、」
「自分の中の負の感情が大きくなって、、」
unknownは泣いているようだった。
「自分から家族を奪ったAO全てが許せなくなった」
「この全てを壊さないと前に進めないとさえ思った」
「だから毎日毎日、壊す事ばかり考えていた」
「どうしたら自分の満足がいく結果が出せるのか、、」
unknownの声は小さく弱々しい。
だが訴えるような強烈な叫びが含まれているようだった。
「利用出来るものは何でも利用した」
「業者だろうが、ネットマフィアだろうが、ウロボロスだろうが、、」
シウスはまるで自分が痛みに耐えるが如く、unknownの言葉に聞き入る。
「だが、出た結果はこれだ、、」
「惨めで救いようが無い、、」
「何の生産性も無い、、」
「ただ愚かな時間の浪費でしか無かった、、、」
地に倒れ伏したunknownは静かに瞳を閉じた。
「お別れだ、、剣聖、、」
「さようなら、、愛しい人、、」
unknownの身体が光の粒となり音もなく消失した。
誰も居ないサーバー。
誰も居ない王城の中庭でシウスは静かに一人佇む。
その姿は力無く両手を降ろし、悲痛に閉じた瞳は天を仰いでいた。