頂上の舞台
剣聖がunknownに名前を問うた。
場違いな問いかけにunknownは戸惑う。
シウスは首を傾げた。
「名前を聞くのは不味かったか?」
「別に本名を教えろと言う訳ではないぞ」
警戒していたunknownだが、微動だにしない剣聖を見て諦める。
「ネモだ、、」
「周囲にはそう名乗っている」
それを聞いたシウスは少し考えるように視線を逸らした。
そして独り言のように話し出す。
「ネモか、、、」
「確か海外の古典小説の登場人物が、、そんな名前だった」
「その人物は復讐の為に生きていて、、少し悲しい話だったな」
先程まで柔らかかったシウスの表情が突然鋭くなる。
「で、その物語の人物と同じように復讐するのか?」
「このAOを"利用"して」
剣聖はこちらを探っている。
unknownは直ぐにそう感じとった。
追い込まれ問われたからと言って、ベラベラと話す必要など無い。
まだ負けていないのだから。
そして周囲をさり気なく観察する。
剣聖のオーバードライブで形成されたこの空間に、境界線が見え出していた。
つまり、このオーバードライブ"完全領域"は有限であり、時間と共に縮小していくと言う事だ。
シウスの問いに再び不敵な笑みを浮かべて答えるunknown。
「自分を倒す事が出来たなら、教えてやろう」
シウスは杖に突いていた刀を持ち直し、無造作に立つ。
「ならば、雌雄を決するしか無いか、、」
そうして両手を広げるように仁王立ちになる。
「ここが、この時こそが最強を決めるステージだ」
「来るがいい、、全力を、、、」
不敵に、そしてどこか嬉々とした表情を見せるシウス。
「全身全霊を持って!」
unknownは刀を正面に掲げる。
さらに刀を両手で持ちシウスを見据えた。
unknownの構えは"正眼"。
侍の持つ近接戦闘の構えの一つだ。
そこから派生する防御、攻撃全てが格段に性能を増す。
昨今、スキルの威力と遠隔化に押され使われる事が稀になったものだ。
そしてこれは"スキルでは無く"、通常攻撃による戦闘手段だ。
シウスはunknownの"それ"を見て笑みを浮かべた。
「分かっているじゃないか」
手に持った漆黒の刃を、風を斬るように目前で払う。
「本来スキルや魔法は、通常攻撃の補助でしか無い」
「全てはこの一振りに始まり、この一振りに終わる」
悠然と一歩を踏み出すシウス。
「感覚を研ぎ澄ませろ」
「そして過怠せず数手先を読み通せ」
「気を抜けば一瞬で終わるぞ!」
unknownはゆっくり深呼吸をする。
『時間を稼ぐ、、』
『剣聖のオーバードライブが縮小し脱出するまで』
シウスは刀を構えず、無造作に手に持ったままunknownへ歩む。
静かにシウスを見据えるunknown。
戦術を”受けて返す”と決め、冷静さが心を支配した。
受け手は防御する方法、反撃の手段を何手も用意する。
だが攻撃する側は、攻撃するという優位性の為、その先をあまり考えない。
しかも相手が完全に受けと防御に回ってしまえば、ただ単に攻撃するしか無いのだから。
そして互いの状況は膠着し時間だけが過ぎる。
それこそがunknownの狙いだ。
漆黒の刃がunknownを襲う。
だがunknownは揺るがない。
冷静にシウスの斬撃を相殺し、また受け流す。
更に少しでも有利があれば、反撃の一閃を剣聖に振るう。
反撃を相殺しつつ剣聖は笑む。
「素晴らしい!」
苛烈さを増す剣聖の斬撃。
その巧みに繰り出される刃は、unknownをじわじわと追い詰める。
しかしそれでもunknownは一つもミスを犯さず淡々と捌く。
付け入る隙など無い程に続く剣聖の攻撃。
疲れなど知らぬと言わんばかりの激しさで。
「これ程の正確さで、この数の攻撃を防ぐとは、」
「認めよう、、、」
剣聖は一切斬撃の速度を緩める事無く言い放つ。
「貴様の戦力はナインピラーを超え、」
「もはや私に匹敵する!」
この戦いの記録は誰も見る事は無いだろう。
故に過去にあった最高の対戦記録と比べられる事もない。
だがこれは何人が見ても、こう答えるに違いない。
”最高であり、最強同士の対戦だと”