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終幕と団円(2)

弥生を無事に助け出す事が出来た。


実際にはヒカリの救援に駆けつけたカイエンによってなのだが。



どちらにしろ沢山の人の助力があって、ヒカリはこの誘拐事件を終息させた。


『皆んなには感謝してもしきれないな』

疲れと脇腹の痛みで朦朧とする意識の中で、ヒカリは呟いた。



心配する様子で弥生がヒカリの傍に屈み込んだ。

「ヒカリさん、、、怪我したんじゃ、、、」



ヒカリは誤魔化すように弥生へ笑顔を向ける。

「えっ、、あ、、うん」

「大丈夫だよ、、」



カイエンもヒカリの傍に片膝をついて屈み込み、ヒカリの目を見つめた。

「何故誤魔化すんです?」

「脇腹を負傷したでしょう」



苦笑するヒカリ。

「見ていたんですか?」

「目ざといですね、、、」


カイエンは立ち上がると、

「申し訳ない、、私がもう少し早く出張れていればこんな事には、、」

「とにかく医者に診せましょう」



ヒカリは痛みを堪えつつ、指先でカイエンの腕に触れる。

カイエンを留めるように。

「待って下さい、、」

「本当に大丈夫です、、自分で何とか出来る具合ですから」



険しい表情でカイエンはヒカリを見つめた。

「、、、、、」


そして怒りの眼光を背後にいたメイリンに向ける。

メイリンは怯えたように萎縮した。



カイエンは溜息をつきヒカリに向き直る。

「分かりました」

「ですが、何かあったら直ぐに連絡をして下さい」


小さくヒカリは頷いた。



弥生が心配そうにヒカリの手に自分の手を重ねる。

「本当に大丈夫なの?」


ヒカリは弥生に笑顔を見せて、

「うん、大丈夫だよ」

「それよりも水樹さんが無事で、本当に良かった、、」


そして不安だった気持ちが堪えきれず、ヒカリの表情を曇らせた。

「凄く心配したんだから、、」



弥生は俯いた。

泣きそうになったからだ。

「ごめんなさい、、ヒカリさん、、」


ヒカリは黙って頷くと優しく弥生を抱き寄せた。

『本当に無事でいてくれて、、良かった、、』





夜空の最果てが白んでいるように見えた。

夜明けが近いのだ。



雑居ビルの地下から出たヒカリは、夜空を仰いだ後俯いた。

溜息が出た。


深夜から明け方が近づくまで、ヒカリは激闘を繰り広げたのだから、溜息の一つくらい出ると言うものだ。


しかもリアルで大立ち回りしかけ、負傷までしたのだ。

故に気力も体力も本当に限界が来ていた。




ヒカリは雑居ビルの前に2台の車が停まっているのに気づく。


片方はビルの直ぐ目の前に停車していて、水春が降りてきた。


もう片方の車は高級車で少し先の路肩に停車し、こちらを伺っているような様子だった。

暗がりで誰が乗っているのかは分からない。



ヒカリの後ろについて歩いて来た弥生を水春が呼んだ。

「弥生!」


弥生は水春に気付き駆け出す。

「お父さん、、」


そして水春の胸に弥生は勢い余って飛び込んでしまった。

「おっとと、、」


弥生を困ったように抱き止める水春を見て、ようやくヒカリは事が解決したように感じた。



水春は弥生を抱きしめて安堵する。

「おかえり、弥生」

「無事で良かった、、、」

弥生は頷き小さな声で応えた。

「うん、、、だだいま」



ヒカリを見て水春は頭をさげた。

「黒瀬さん、ありがとう」

「君のお陰で娘が無事に戻って来れた」



ヒカリは自嘲するように苦笑する。

「いえ、、私は時間を稼いだだけで、」

「大した事はしてませんよ、、、」



水春は少し困った様子で首を横に振った。

「いや、君が動いてくれなければ事態を収拾する切っ掛けさえも掴めなかった」

「本当に君には感謝してもし切れない」



ヒカリは少し俯いた。はにかむ様に。



そして水春は自分の車へ乗るようにヒカリへ促す。

「さっ、黒瀬さん、家まで送ろう」

「恩人をこんな所に一人で残す訳にはいかない」



ヒカリは両手を小さく振って困り顔をした。

「実はもうタクシーを呼んでるんですよ」

「だから大丈夫です、気にしないで下さい」


するとヒカリはわざとらしく踵を返すと、

「それに久しぶりの親子水入らずでしょう」

「邪魔はしたくないですから」



水春は残念そうな顔でヒカリの背を見つめる。

「そうか、、、」


諦めたように水春は弥生を車に乗せ、自分も乗り込んだ。

「ではお先に失礼するよ」

「黒瀬さんも無事に帰宅したら連絡をくれるかい?」


ヒカリは振り向くと笑顔で答えた。

「勿論です」







水春と弥生が乗った車を見送ると、ヒカリは再び溜息をついた。

『さて、、どうやって帰ろうかな、、』


水春にはタクシーを呼んでいると言ったが、実は呼んでいなかった。


気を遣わせたく無かったのもある。

だが正直疲れ過ぎて、他人に気を使う余裕が無かったからだ。



そして何故かヒカリは、弥生が自分に言った事を思い出していた。

それは何かしらの違和感からかもしれない。

『弥生はヒカリである私に、ありがとうではなく、、』

『ごめんなさいと言った、、、』



助けてくれた相手に「ごめんなさい」と言うだろうか?


しかしヒカリの頭脳は思考するには疲れ過ぎていた。

立っているのも辛かった。



気が緩んだ瞬間、ヒカリの目の前が真っ白になる。


そして半ば気絶したかのようにヒカリはその場に崩れた。






「独断専行が過ぎたな」

カイエンはパソコン筐体のデスク部分に腰をかけ、不満そうに呟いた。



カイエンの目の前には、俯いて項垂れるような様子のメイリンが立っていた。

「申し訳ありません、、社長、、、」



不機嫌な顔を隠しもせずカイエンは言い放つ。

「これでヤン・メイリンと黒瀬ヒカリとの関係が最悪な物になった」

「全く余計な事をしてくれた」


メイリンは俯いたまま動かない。

「、、、、」



カイエンはネクタイを緩めると、細い鎖のネックレスを胸元から引っ張り出した。

「妹のお前でも更迭せざるを得ない」



そのネックレスには指輪が通されていた。

ブラックシルバーのとてもシンプルなものだ。



指輪を指でいじりながらカイエンは続けた。

「今後ウロボロスの運用からお前を外す」

「私の指示があるまで大人しく謹慎していろ」



メイリンは深く(こうべ)を垂れた。

「承知しました」



カイエンは深い溜息をついた。

『全く上手くいかないものだ、、』


リラックスするようにカイエンはネクタイとワイシャツの胸元をさらに緩めた。

『世界最強決定戦も、、』

『私の愛しき人にしろ、、、』


その露わになったデコルテには大きな傷跡が覗いていた。


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