真正と贋物
シウスはその光景に驚愕する。
眩い光の嵐が天位雨音より放たれ、その前方を破壊し尽くしたのだ。
何が起こったのか目で確認する事は叶わない程、その規模と破壊力、エフェクトは凄まじい物だった。
見た事も無いそれは正に"究極の魔法"と言えるだろう。
そしてAO最強のボス時間神を跡形も残さず粉砕したのだ。
それを天位雨音がたった1人で実行した事は、もはやチートと言えるレベルだった。
雨音が剣を収めシウスを見つめた。
雨音は何も言わない。
だがシウスには雨音が言わんとする事が分かった。
「公平な戦いが出来る戦場は用意した」
「剣聖が剣聖たる所以を示せ」
、、、と。
シウスは剣聖コピーとの"戦場維持"をやめる。
そして直ぐさま剣聖コピーへの攻撃を開始した。
シウスの鋭い一閃が剣聖コピーを襲う。
たが剣聖コピーはいとも簡単にそれを打ち返し相殺した。
先程まで防戦一方だったシウスが、突然攻勢に出たにも関わらずだ。
シウスの目が何かを確信したかのように見開かれた。
一方メイリンは、モニターの前で焦りを隠せないでいた。
シウスを倒す為に用意したクロノスが、割って入った天位雨音に瞬殺されてしまったからだ。
何とか冷静さを保とうとメイリンは深く深呼吸をする。
『まだだ、、剣聖シウスさえ倒してしまえば!』
天位雨音が、シウスと剣聖コピーの戦場から離れた位置で傍観していた。
自慢の剣も鞘に収めたままで。
メイリンは雨音の様子を訝しむ。
『どう言う訳か、天位は剣聖に加勢しない、、』
追い詰められつつも光明を見たメイリンは息巻いた。
『律儀に公平を装っているつもりか?』
『陳腐な正義は後悔を生むぞ!!』
鋭さを増したシウスの斬撃が絶え間なく剣聖コピーを襲う。
しかし剣聖コピーには全くかすりもしない。
全て絶妙かつ完璧なタイミングで回避し相殺してしまう。
シウスと剣聖コピーが切り結ぶその様子を雨音は静かに見つめていた。
『有利な状態からの剣聖の攻撃を、贋物は完璧なタイミングで斬り返し相殺している、、』
シウスもまた剣聖コピーの攻撃を完璧に回避し相殺する。
『だがそれは剣聖も同じ』
さらに激しさを増すシウスと剣聖コピーの戦闘。
鋭く凄まじい連撃の応酬が続く。
雨音はそれを感心したように見つめ、
『全ての攻撃を寸分の狂い無く相殺し続ける』
『そして最速で完璧なタイミングでの絶え間ない攻撃』
『こんな芸当は剣聖だからこそ可能な事』
『つまりそれは、、』
シウスと剣聖コピーの刃が弾き合い互いの距離が離れる。
そして更にシウスは後方へ身を跳躍させた。
剣聖コピーがシウスに追いすがる。
その刹那、シウスのスキルが発動した。
【シウスの伍の太刀 次元断が発動】
次元断の斬撃が地を這い剣聖コピーに迫った。
しかし剣聖コピーはそれを横に軽く身を捻り躱してしまう。
メイリンは不敵な笑みを浮かべてヒカリを見やる。
「そんな遅いスキルが貴女の複製に当たる訳がないでしょう」
険しい表情でモニターを見つめたままのヒカリ。
間合いを詰める為、シウスに突進する剣聖コピー。
そして高速の払い斬りが、肉薄した瞬間にシウスへ迫る。
横への回避は不可能。
後は後方へ跳躍し回避するか、防御するしかシウスには選択肢は無かった。
シウスは後者を選び即座に防御する。
次の刹那、剣聖コピーは払い斬りをキャンセルし更に踏み込んだ。
何とシウスを投げようと剣聖コピーはその手を伸ばしたのだ。
相手のガードを確認して瞬時に投げを仕掛ける。
人間離れした剣聖コピーの動きがシウスを襲う。
しかし投げは決まらない。
予測していたようにシウスは屈み込み、剣聖コピーの投げを不発にさせた。
そして剣聖コピーの投げ失敗のモーションが発生する。
更にその隙を逃さなかったシウスは、逆に剣聖コピーを投げ返してしまった。
シウスに投げ飛ばされ宙を舞う剣聖コピー。
それをモニタリングしていたメイリンが少し驚く。
『投げ返しだと?!』
『だが投げなど幾ら食らった所で微々たるダメージ』
投げ飛ばされた剣聖コピーは、完璧に受け身をとり綺麗に着地する。
異変に気付いたメイリンは目を見開いた。
『いや、、これは、、!』
剣聖コピーが着地した位置は、シウスが放った次元断の一閃上だったのだ。
次元断の不可視の斬撃が剣聖コピーを襲う。
それと同時に剣聖コピーの絶掌が発動した。
不可視の斬撃は全て絶掌に防がれる。
がしかし、一定時間連続する不可視の斬撃は、絶掌との間でせめぎ合い剣聖コピーの動きを拘束した。
メイリンは驚愕の表情でその状況を見つめた。
『先に放ってあったスキルに当てさせるなんて、、』
『もはや人間技では無い、、、』
身動きが取れない剣聖コピーの背後にシウスが現れる。
「終わりだ」
【シウスの妄執の太刀 絶斬が発動】
シウスの何のエフェクトも伴わない斬撃が剣聖コピーを背後から斬り裂く。
そして体力ゲージは0を示し剣聖コピーは地に倒れ伏した。