頂上の存在と究極魔法
シウスは己の贋物を引き付けて、雨音とクロノスの戦場から遠ざかる。
それを横目で確認した雨音は、シウスに不敵な笑みを返した。
シウスが"マラソン"をすると洞察したからだ。
そしてこう言ったようにも感じた。
「クロノスが処理される様をそこで見物しているといい」、と。
これ程不敵で頼りになる存在が居ただろうか。
シウスは確信する。
天位が自分とは"違う部類の最強"である事を。
クロノスの歩む足が突然止まる。
【クロノスの多重詠唱が発動】
【クロノスがチャージ 闇火球×3 を詠唱】
クロノスが闇火球からの極大魔法 闇火葬を仕込み始めたのだ。
いくら天位雨音でも、闇火葬を3つも受ければひとたまりない。
しかし天位雨音は揺るがない。
雨音は左手の人差し指をクロノスに向けた。
「ブースト Lv99 コールライトニング 」
クロノスの頭上に雨音が呼び出した落雷が直撃した。
コールライトニングにより感電したクロノスは、身体を硬直させ動きを止める。
それと同時に詠唱していた3つの闇火球が霧散した。
モニターを訝しげに見つめるメイリン。
『ブースト、、、』
『初めて見るスキルだが、、魔法の効果を強化するのか?』
メイリンは口元に手を置き思案する。
『恐らくコールライトニングが強化されればダメージと言うより、』
『強力なスタン効果が付加される訳か、、、』
そしてニヤリと笑みを浮かべる。
「だがそれがどうした」
雨音がクロノスへマジックミサイルを放つ。
それを不気味な笑みでメイリンは見つめる。
『クロノスの魔法ダメージ軽減率は90%』
『しかも消失すれば直ぐに展開されるフォースシールドにより、魔法はおろか物理ダメージも殆どが無効化されてしまう』
雨音のマジックミサイルは、クロノスのフォースシールドにより完全に防がれてしまう。
メイリンはその様子を眺めながら鼻で笑った。
『クロノスのマルチキャストを封じたところで、決定的なダメージを与える手段があるまい』
『MP切れを起こして膝を着く姿が見れそうだ』
再びマルチキャストを発動させるクロノス。
そして、
【クロノスが闇火球×3を詠唱】
雨音の目が鋭さを増した。
「多重詠唱発動」
「チャージ Lv99 マジックミサイル×3 」
すると雨音の背後に大量の光弾が現れる。
「私にクロノスの防御を突破してダメージを与える方法が無いと考えているのだろうが」
「残念だが、それは違う」
雨音の背後にある光弾が巨大化してゆく。
「通常一人でどれだけ強化しようが、クロノスに魔法でダメージは与えられないのは確かだ」
そしてそれは雨音の背後を光で埋め尽くしてしまう。
「だが最大までチャージされたマジックミサイルは、魔法属性では無く」
「物理属性に変貌し究極魔法へと昇華する」
モニタリングしていたメイリンの表情が、映し出された光弾で蒼白になる。
「!!」
雨音は静かに左手を振りかざす。
「Lv99 流星嵐 」
神座を埋め尽くす程の巨大な光弾が、嵐となって雨音から吹き荒れた。
それは未だ極大魔法を詠唱中のクロノスに直撃する。
降り注ぐ巨大光弾はクロノスを覆い尽くし、辺りを爆煙と光のエフェクトが支配した。
それでも止まない流星嵐の破壊が、着弾点を中心に神座の地形を変えてしまう。
メイリンは呆然としていた。
自身の予測と想定を遥かに超えた現実を目にして。
破壊と光のエフェクトが収まった時、そこにはクロノスの存在は消失していた。
未だ現実を受け止められないメイリンは呆然と呟く。
「AO最大最強のボスを、たかだか1人のプレイヤーが倒してしまうなんて、、、」
「そんな馬鹿な、、」
雨音はクロノスが消失したのを確認し、剣を鞘に仕舞う。
『私の仕事はここまでだ、、』
そして雨音はシウスを見やると、
『剣聖、、、後は貴女次第だ』