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相川煌と黒瀬ヒカリ(2)

本当の主人公が誰だか、だんだん明らかになっていきます。

楽しんでもらえたら幸いです。

去年の7月の初頭。



まだ梅雨が明けず、外はジメジメした暑さが体にまとわり付く時期だ。

外に居たらきっとイライラがたまって爆発していたに違いない。

まあでも、その心配は俺にはない。

学校以外は殆ど外出しないインドア派で、下手をすれば引きこもりだ。



だが、違う意味で俺は爆発しそうだった。

期待と不安でとても焦っていた。

慌ててもいた。

いっそうの事、心が爆発してスッキリしてしまえばいいかとも思った。

でも、それはただの癇癪だ。

大人になりかけの16歳の男子がそれではさすがにダメだ。

と言うか、そんな気性の持ち主では無いから、そんなことはしない。



なので問題の根源であるスマホを片手に、自問自答しつつ俺は部屋の中でグルグル、バタバタと歩き回っていた。



すると突然、扉がバーンと勢いよく開け放たれる。

開いた扉の前には、怒った顔の結が仁王立ちしていた。

「バタバタとうるさい!!」

滅茶苦茶ビックリした俺は、半分腰を抜かして床にへたり込んでしまった。



そんな情けない姿の俺に気にする事なく、結は傍まで来ると

「いったい、お兄ちゃん何してるのよ?」


色々と妹の結に頭の上がらない俺は、俯きつつ

「すまん、、ちょっと問題が発生して、、、」

「一人で慌ててた、、、、」



結は小さく溜息をつくと

「この可愛くて頼りになる妹に話してみなさい」

やっぱりこうなるか、、と俺は内心で呟きつつスマホを結に手渡す。

「このメールが問題なんだ、、」



「どれどれ」と少々上から目線で、俺からスマホを受け取る結。

「え~~と、」

「アイオーンエレクトロニクス、、アヴァロンオンライン運営事務局」

「第一回アヴァロンオンライン世界最強決定戦開催のお知らせ」

「開催場所、日本武道館」

と、結は声に出して読み上げる。


そして少し驚きながら結は、

「おーー!! これはお祭り騒ぎになるね!」

「で、、、これの何が問題なの?」

俺は俯きながら結にさきを読むように促す。



結は面倒くさそうに、

「う~~と、黒瀬ヒカリ様のアカウント、PC(プレイヤーキャラクター)名シウス」

「世界ランキング暫定1位により決勝ステージ枠を確保しております」

「イベント会場の日本武道館にご来場の上、正式に、、、、」



結は自分の事のように喜んで

「凄いじゃん!!」

「お兄ちゃんなら絶対優勝して、世界最強になっちゃうよ!」



妹に褒められたような感じがして何だか嬉しかったが、俺の不安は払拭(ふっしょく)された訳ではない。

「大会自体行われるのは、喜ばしい」

「自信もある、、、だけどな、、、」



俺は訴える

「大勢の観客がいるイベント会場で、プレイヤーがその身を晒しながらPvPをするんだぞ!」

「しかも収録された上、生ネット配信されるって言うじゃないか、、、」


不思議そうな表情の結、

「それが何なの?」

鈍感な妹め!



俺はさらに訴える。

「ネットゲームの良い所は、個人が特定されずにリアルのしがらみ無しに楽しめる事だ」

「こんな大会に出たら、いい晒し者になるだろう!」

「最早ネトゲーをしていた意味がない、、、」



少し力んで演説してしまったせいか、疲れた俺は溜息をつきながらベットに腰掛ける。

「無駄に注目を浴びたら、静かに学生生活を送れなくなる、、、」


結も俺の隣に腰掛けてきた。

そして心配そうに俺を見つめてきた。

「まだあの時の事を、、、?」



俺は居たたまれなくなって、結から目を逸らしてしまう。

「いや、、、」


結は何だかモヤモヤした表情をしていた。



俺は言い訳がましく、目を逸らしたまま主張する

「それに武道館は1万人以上、人を収容できるんだぞ」

「例え踏ん切りがついて出場したとしても、観客の目がきになって緊張してきっとプレイどころじゃない」



結は真面目に考える仕草で

「その様子だと出場したいけど、勇気が無いって事だよね?」


「さっき言ったろ、、大会自体は嬉しいし自信もあるって」

俺が答えると、すぐさま結は

「じゃぁ、黒瀬ヒカリが他の人に相川コウと分からなければ良いのよね?」



そう来たか、、、、う~~ん、、。

俺は嫌な方向に話が進みだしているような不安に駆られた。



結は自慢げに

「シウスを動かしてる時のお兄ちゃんって生き生きしてて」

「すっごく恰好良いのよね」


そして真剣な目で問いかける様に

「これって、お兄ちゃんがシウスを演じてるのよね?」

俺は正直、結の観察眼に驚いたし、まさかそんな質問をしてくると思わなかった。

全くその通りかもしれない。

自分の持つ理想の人物像を演じている所は、俺自身確かにあった。


でもこれは俺だけじゃないはず。

ネトゲーをそれなりに嗜む人間は、少なからず対人関係(コミニケーション)において自分を良い様に見せたりする。

逆もしかりだ。

つまり、それはネトゲー上で自身を演出しているのだ。



俺はもう半ば諦めたように結の目を見つめて

「リアルでは理想の生き方なんて無理だしな」

「ネトゲーの中でぐらい、それを演じて自分に酔うくらいしてもバチは当たらんだろ」



それを聞いた結は、口元をニヤリとさせる。


そして結は俺の肩を、むんずと掴むと

「じゃあ、本当にリアルでシウスを演じればいいじゃん!!」


俺には結が何を言っているのか全くわからなかった、、。



そんな俺の様子に気付いたのか、結はさらに俺に詰め寄ってきて

「シウスはクールなんでしょ?」

「人が大勢いるからって緊張してブルっちゃうなんて有る訳ないよね!!」

「今まで、どんなに困難な状況のPvPでも勝ってきて、、」

「公式戦では無敗なんでしょ!!」


俺は、すごく戸惑ったが結が言わんとしている事が飲み込めた。

かなり無理難題だと思うが、、、。

それにまだ問題がある、、精神的にクリア出来たとしても、、。


俺は、その疑問をおずおずと結に問いかける。

「演じれたとして、、、見た目はどうする?」

「まさかシウスのコスプレでもしろと?!」



結はニヤニヤしながら

「コスプレじゃなく変装しよう!」

俺は、盲点だったとばかりに納得しつつ

「、、、変装か、、なるほど、、、」



そして待ってましたとばかりに、結は拳を振り上げて

「変装と言っても私が言っているのは、”女装”ね!!」



俺は石のように固まってしまった。

最早、結が何を言っているのか全く、本当に分からなくなってしまった。



そんな俺をよそに、結はガバっと立ち上がると

「女装したら原形が分からないし都合良いでしょ」


まだ思考が停止して固まっている俺、、。


そこで結が止めを刺しに来た。

「それに私知ってるんだよ」

「お兄ちゃんが私や、お母さんのファッション誌をこっそり読んでた事」



止まった思考を無理やり動かされ、俺の顔は青ざめてゆく。



結は俺の耳元で囁くように

「化粧とか、女の子の恰好に興味あるんでしょ?」

「馬鹿にしたりしないから、、さぁ正直にいってごらん」


俺は必死にごまかそうと何か言おうとしたが声にならない。


結はびっくりするほどやさしい声で

「うん? 何? 言ってみて」



もういいか、、と俺は諦めてしまった。

こんなに親身になって悩みを解決しようとしてくれる、否、、振りをしている結には敵わない。

元々、俺は結に頭が上がらないしな。

だから素直に答えてみた。

「綺麗に着飾ったり、化粧したり、、、」

「凄く楽しそうに見えたりはしてた」



結は今まで見せた事が無いほどの笑顔で嬉しそうに

「よし! じゃあ私に任せて!!」























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