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9 その役得、分けてもらえませんか

 

 賞金はすごい金額になった。

 まず、オークナイト5体で700G。

 特殊個体の分が上乗せされている。

 正確には、オークナイトガーディアンという個体になるらしい。

 オークウォーリア30体で900G。

 オーク250体で1250G。

 そしてオークロードが800G。

 合わせて3650Gの討伐賞金だった。

 更に素材分として、640G。

 すべて併せて、4290Gになった。


 マイハはすごく喜んでいるが、俺は気まずい。

 一人でこんなに貰うと、冒険者たちの嫉妬がすごいので、一応、冒険者ギルドには口止めをしてもらった。

 

 お金については、大金なので、後日の支払いになった。

 マイハは、受付嬢のクリスタに、家の購入を相談している。

 こっちの世界でも、一戸建てを欲しがっていた。

 もう少し、世界を見てからでも遅くはないと思うんだが。

 女という生き物は、家が好きなんだとしか思えない。


 今回のクエスト受注で、俺が一番心配していた金のフクロウ亭の営業時間については、十分間に合った。


「ダーリさん、これが注文の品です」

 ラムが料理をテーブルに置く。


「これはなんでしゅか?」

 マイハが怪訝そうな顔をする。

「これはパテだよ。パンに塗って食べてみて」

「これが、『あとのお楽しみ』だったのでしゅか?」

「良くわかったね。その通りだよ」

「これはなんでしゅか?って言ってましゅよね?なんのパテでしゅか?」

「まず食べてみて」

「食べる前に教えるでしゅ。なんのパテなんでしゅか?」


 マイハは警戒している。

 この異世界、結構ハートにハードなゲテモノ食材が多い。


「肝臓。肝臓のパテだよ。討伐した人の特典。きっと美味しいから食べてみて」

 ほかの客に聞こえないような小さな声でマイハに説明する。

 

「内臓系は好きじゃないでしゅ。マイハは、お勧めとスペシャルで充分でしゅ。そこに立っている女、マイハはお勧めとスペシャルを頼むでしゅ」


 マイハは予想通りというか、なんというか、あっさりと俺の『スペシャル』を見捨てた。

 仕方ないので、一人で食べることにする。

「ごめんねラムちゃん」

 マイハの口の悪さと、せっかく調理してくれた料理に対する不敬を謝罪する。

「俺には赤ワインをお願い」


 こうなることを予想していたのか、ラムは何も言わず、すぐにワインとお勧め定食を運んでくる。

「マイハはワインはどうだ?」

 一応勧める。

 この異世界では、お酒については、働いていれば、何歳でもお酒は飲める。

 一般的には、成人とみなされる15歳からが普通であるもの、保護者がついていれば、9歳児でも飲んで構わないことになっている。


「私まだ9歳だからワインはパシュでしゅ」

 ツンとすました顔で返事をする。

 前世では大好きだったから、時々勧めている。

 普段は飲んでいないし、多分勧めても飲まないだろうが、勧めないで俺ばかり飲んでいると、機嫌が悪くなる。

 女の扱いは面倒だと思う。


「こんなにたくさん食べきれないから、ラムちゃんも食べるのに協力して」

「ええっ、いいんですか?」

「いいから食べて。ワインも飲んで」

 そう言って、余ったグラスにもワインを注ぐ。


 マイハが露骨に嫌な表情をするが、あえて無視する。


「ううっ、美味しい!」

 ラムはパテを塗ったパンを口に運ぶと驚いた表情をする。

 更に赤ワインを口に含む。

「美味しい!」

「でしょ。これは美味しいんだよね」

「ちょっとマイハにも食べさせるでしゅ」

 そう言って、俺の手からパンを奪うマイハ。

 顔を見ていると、ラムと同じように驚いている様子が見える。

「こんなに美味しいなら、最初っから言いなさいでしゅ」

「まったくこんなものを食べさせられたら太るでしゅ」

 勝手なことを言いながら、マイハは俺の前に、定食の大部分を押し込んだ。

 さすがにお勧め定食とパテ、それにデザートは入らないし、食べすぎだと判断できるのだろう。


「ダーリさん、これってなんの肝臓なんですか?」

「これはちょっと話せない。ちゃんとしたものだけど、内緒にしてもらえると助かる」

 そう言って口止めする。

「分かりました。でも素材は多分オークですよね。それで内緒ということは、オークウォーリアよりも上のものですよね」

 俺の耳元に顔を近づけてささやくラム。

 耳元に、ワインの香りのする熱い息が掛かる。


「牛女、あそこのテーブルで、注文する客がいるでしゅ。早く仕事に戻るでしゅ」

 マイハがテーブルの下で俺の足をガンガン蹴りながらラムを追い出そうとした。


「また戻って来ますわね」

 ラムはウインクをして俺たちのテーブルから離れた。


「あの女を酔わせてどうするでしゅか」

「どうもしないって。それより、そのパテ美味しいだろ?」

「ふん、食べてあげてもいいレベルっていうだけでしゅ」

 ツンとした表情をしているが、美味しそうにパテを塗ったパンを口に運んでいる。


 オークロードを倒した後、すぐに捌いて血抜きしただけはある。

 魔物は、上位種になればなるほど、肉は美味しくなる。

 その中で、内臓は討伐者の権利であり、好きにしてもいいものだ。

 内臓は、討伐後すぐに正しい措置をしなければ、真っ先に悪くなってしまう部位なので、討伐者が食べても捨ててもいいものなのだ。

 もっとも、そのまま放置すれば、他の部位の肉まで臭くなるので、上位種であればあるほど、すぐに捌くことが求められる。

 マイハに喜んでもらって何よりだ。

 マイハが食べすぎた分は、明日は遠くまで買い物に出かけよう。

 食べた分だけ運動しなきゃ、マイハが太る。




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