8 その勇者、オークを討伐する
オークの集落は、山の洞窟だろうと予想をつけていた。
そこを目指していけば、オークと遭遇しながら、集落にたどり着けるだろう、と。
しかし予想は外れた。
オークと遭遇するたびに、討伐しながら進むまでは予想通りだったのだが、索敵スキルを使いながら進んでいたところ、大きな集落を発見してしまったのだ。
予想以上に大きい。
さらに言えば、警戒が厳しい。
「どうやって討伐するのでしゅか」
不安そうなマイハ。
「まず、マイハに隠れてもらって、その隙に何とかする」
「どこに隠れるでしゅか?」
「まず、このマントを羽織って。次にあの枝で終わるまで待ってて」
俺は、マイハに隠蔽スキルのかかったマントを羽織らせ、30メートルくらいの高さまで放り投げた。
「ぎゃー!」
マイハはしっかりと木の幹にしがみつけたようだ。
「そこで待ってて。終わったら迎えに来るから」
「馬鹿たれ!どうやって降りるでしゅか!」
「おとなしくしてろよ、オークに見つかるぞ」
マイハに注意して、俺は集落に向かった。
この集落は大きすぎる。
建物は掘っ立て小屋同然だが、明らかに100棟ではきかない。
オークナイトがいるという話だったが、この規模なら間違いなくオークロードがいるだろう。
この規模の集落をつぶすには、隣町のように冒険者ランクパーティーBが複数で当たるクエストが必要だ。
冒険者ランクパーティーB級を複数借りるには、大変な金額がかかる。
俺が一人で討伐したほうが、町に無駄な経費が掛からずに済むだろう。
それほど愛着があるわけじゃないが、始まりの町には恩を売っておいてもいいだろう。
俺は弓を取り出すと、警備兵のオークを1体ずつ撃った。
撃っては死骸をアイテムボックスに入れて、痕跡を消しながら警備兵を全滅させた。
油断しているところを隠れて倒すのは簡単だった。
次からが本番だ。
集落の中のオークを倒さなければならない。
1体でも気づかれたら、もう相手の油断は望めない。
索敵スキルで、オークのいる掘立小屋を見つけては、休んでいるオークを始末していく。
歩いているオークは、誰もいないところを見計らって後ろから剣を振るう。
幸運なことに、すべて不意打ちで倒すことができた。
1時間ほどかけて集落の中のオークを処分した。
全部でオーク108体、オークウォーリアー6体、オークナイト2体だった。
この構成から考えると、オークロード1体、オークナイト2~3体、オークウォーリア5~6体はまだ残っていると思われる。
さすがに、一度に相手するには厳しいので、俺は罠を仕掛けることにした。
ちょうど罠を仕掛け終わったころ、オークの小集団が集落に戻ってきた。
仕留めた鹿や猪、鳥などの獲物を抱えて。
「よお、遅かったな」
俺が言い終わるのを待たずに、オーク達は襲い掛かってきた。
オークが持っている獲物はほとんどが石斧。
一回り大きいオークウォーリアがぼろい剣。
俺はほとんどを瞬殺したが、小集団の長らしいオークウォーリア1体だけは、腕を落としただけで、命を取らなかった。
生き残ったオークウォーリアは、叫び声をあげながら、森の中へ逃げて行った。
なぜ生かしたのかって?
今晩も、金のフクロウ亭に行かなければならないから。
安全に倒すと、時間が掛かりすぎて営業時間に間に合わなくなるから。
早くほかの仲間を呼び寄せないといけない。
森の中のあっちこっちで、オークの叫び声が聞こえる。
間もなくみんな来るだろう。
集落を囲むように作った柵の外側で、オークの集団が到着した都度、俺は討伐していった。
オークロード率いる集団が到着したころ、俺は200体以上の死骸をアイテムボックスに入れていた。
これが調査だけだったら、とっくに町まで戻っているのに。
「よし、ここから罠を使うか」
オークロード率いる集団は、50体以上の大集団。
多分これが残り全部の戦力だろう。
「ブオォー!」
オークロードが吼える。
これもスキルのうちだろうか。
オーク達が興奮し始める。
よし、ちょうど良い。
俺は、威嚇された振りをして、柵の中に逃げ込む。
逃げた獲物を追うのが狩人の心理。
オーク達は、集落の入り口から律義に入ってくる。
俺と同じルートを通るが、落とし穴の蓋は、俺の体重は支えられたものの、オークの体重までは支えきれない。
落ちたオークの後ろにいたオークは止まろうとするが、さらに後ろから押し込まれて落とし穴に落ちる。
負の連鎖が続く。
たちまちオークが半分以下に減る。
落とし穴から離れていたオークは柵を乗り越えて集落に入る、が、そこにも落とし穴。
柵を乗り越えやすいように、少し低くいじっていたのだ。
オーク達は、無意識に乗り越えやすい場所を選んで乗り越えるが、そこにも落とし穴を掘っている。
面白いように落ちる。
それでも落とし穴に入らなかったオークが集落に入り、俺を襲う。
小屋と小屋の狭い通路を逃げる俺。
追いかけるオーク達。
突然首が飛ぶオーク。
オークの首の高さに、鋼糸を仕掛けていたのだ。
細い鋼糸は、俺を追いかけていたオークやオークウォーリア、オークナイト達をあっさり全滅させた。
残りはオークロード1体とオークナイト2体。
そいつらは、ゆっくりと俺のいる方向に近づいてくる。
オークナイトも普通のオークナイトより、全身が黒っぽい。
特殊個体のようだ。
俺は隠密スキルを発動させ、小屋の陰に隠れた。
3体が歩いてくる。
もう少し。
突然俺の隠れていた小屋が破壊された。
間一髪で俺は小屋から離れた。
さすがはロード。
俺の持つ隠密スキル程度じゃ隠れきれないか。
オークロードとオークナイトは、簡単な鎧を着け、剣を持っている。
このクラスになると、知能も少し高くなるのか。
オークナイト2体が先に出て、俺に向かってきた。
俺は、最後の戦場と決めていた、集落の真ん中に逃げた。
集落の真ん中は、広場になっている。
そのど真ん中の地面に、ロープで2メートルくらいの輪っかを作り、無造作に置いていた。
俺はその輪っかを飛び越えると、オークナイトを振り返って見た。
オークナイトは、輪っかを飛び越えることなく、大きく脇を抜けて……2体とも落とし穴に落ちた。
オークナイトは落とし穴に設置していた槍に串刺しになっていたが、俺は油断せずすぐにとどめを刺す。
少しくらい頭がいいと、こういう罠にも引っかかってくれる。
これで残るはオークロード1体。
「ブオォー!」
俺をにらんだオークロードが再度吠えると同時に剣を振りかぶって俺に突進してきた。
ぎりぎり突進を躱して、背中を切りつける。
オークロードは、それに構わず振り向きざま、俺に剣を振るう。
俺はさらに躱して、首筋を切りつけるが、深く切れず、致命傷には至らない。
やはり、パワー勝負が一番怖い。
モンスターは、体のつくり、頑丈さが異常に違う。
一旦距離を取る。
安全に倒すためには、やはり罠を使うしかないか。
広場を離れ、小屋と小屋の間に逃げ込む。
オークロードが追いかけてくる。
設置していたロープを引っ張る。
高さ1メートルくらいの高さにロープが張られる。
オークロードがジャンプしてロープを躱す。
と、降りたところの地面が大きく沈む。
「ウギャー!」
落とし穴から出ているオークロードの首を狙う。
剣技・抜刀!
きれいに決まった。
全てのオークをアイテムボックスに入れた後、マイハを迎えに行った。
マイハは当然の如く無事だった。
マイハは、俺が声をかけると、30メートルの高さから飛び降りて、俺の顔に蹴りを決めた。
俺はこの討伐で一番のダメージを食らった。
倒れる俺の横に立ったマイハは、満足そうな顔をしていた。