4 その娘、金に弱い
「ダーリさん、このクエストを受けていただけませんか?」
掲示板に張られているクエストを眺めていたところ、ノースリミット冒険者ギルドの受付嬢であるクリスタに声を掛けられた。
パーソナルスペースがめちゃくちゃ近い。
「町から30キロほど離れた山にオークが集落を作っているようなので、それを調査するクエストなんです」
「調査だけのクエストなら、俺よりも適任者がいるんじゃないのか?」
俺は一歩下がりながら疑問を口にした。
隠密スキルを持った者の方が、調査には適している。
「それがですね、大きい声では言えないんですが、オークナイトがいるみたいなんです。今この町にいる冒険者だと、遭遇した時に危険なので」
クリスタが更に一歩近づくと、小さな声で話した。
オークナイトは、冒険者ランクパーティーC相当なので、今のこの町にいる冒険者では少々微妙だ、というより無理だ。
今、Bランク以上の冒険者は、隣町のクエストに駆り出されている。
よっぽどのことがない限り、パーティーC相当は、単独ではBランク以上でなければ受注できないし、させない。
そもそもパーティーCには、冒険者ランクBが入っているのが普通である。
つまり、今ノースリミットには、パーティーCすら居ないということなのだ。
なぜかというと、隣町のストーンケトルにおいて、スタンピードの疑いがあり、Bランク以上の冒険者は駆り出されているのだ。
オークが集落を作っているということは、それなりの数がいるはずだし、オークナイトが単独行動しているはずがない。
Cランク冒険者の隠密スキルだと、オークナイトに看破される恐れがある。
なので、見つかっても生きて戻ってこられるレベルの冒険者か、絶対に見つからないスキルを持つ冒険者にしか依頼できない案件ということだ。
「頼む相手がいないのは分かりますが、俺はまだレベル5ですよ。レベル5って言ったら、冒険者ランクDじゃないですか」
一応断ってみる。
「そんなこと言わないでください。ダーリさんがDランクの強さじゃないのは分かっています。冒険者レベルと勇者レベルがイコールじゃないことはご存知ですよね。このクエストは、勇者であるダーリさんにしかお願いできないんです」
胸の前で両手組み、俺に体を押し付けてくるクリスタ。
組んだ両手で俺を押しているように見えて、実はさりげなく胸も押し付けている。
「ちょっとあなた、離れなさいでしゅ。報酬も言わないで、クエストを頼むのがギルドなんでしゅか」
俺と受付嬢の間に割って入ったマイハ。
「コホン、スミマセンでした。このクエストは、契約で10G、調査達成で30G、未達成でも接触状況を入れてもらえれば違約金はなし。討伐については相手次第ですが、ナイト1体で100Gで、通常のオークは5G、オークウォーリアーなら30Gなので、総額300Gは固いですし、素材の買取は別会計となっています」
「パパ、困っている人がいるんだから、受けてあげてくだしゃい」
即決断するマイハ。
マイハの決断には、討伐が前提としか思えないのだが。
「勇者なら、適正ランクを超えても受けられる規定だったと思いますが、本当に受注できますか?」
「はい、ダーリさんなら大丈夫です。勇者にランクをつけていないのは、そもそも勇者のレベルは冒険者ランクとイコールでは無いからなんです。今のダリさんは、冒険者ランク的にはB以上というのが当ギルドの見解です」
クリスタが太鼓判を押す。
「じゃあ契約金をアップしなさいでしゅ。このクエスト、緊急クエストの指名依頼と同じじゃないでしゅか」
マイハが値上げを迫る。
「成功報酬ならギルド長もOKしてくれると思うのですが」
「それならオークナイトと集落をつぶして成功報酬300G、それと一体ごとの討伐報酬にして欲しいでしゅ。もちろん素材は別でしゅ」
「今ここで受けていただくのであれば、その金額で手を打ちましょう。但し、素材は全てギルドに卸して下さい」
握手をするマイハとクリスタ。
やはり俺が討伐することが前提の契約なんだろう。
一応俺は、冒険者ランクDと言われる勇者レベル5なんだけど。
……、まあ大丈夫だろう。