3 その小娘、胃袋をつかむ
金のフクロウ亭は、稼ぎを終えた冒険者たちで、今日も満員御礼だ。
俺はお勧め料理を食べ終わり、残ったビールをちびちびと飲みながら、マイハがデザートを食べ終わるのを待っている。
「ダーリさん、新しいデザート作ってみたんですけど、試食していただけませんか?」
ラムが皿にケーキみたいなものとビールをテーブルに置いた。
「私が食べてあげるわよ」
マイハがブスッとフォークを刺して口に運んだ。
「これ甘くないでしゅ!」
不機嫌な声を出すマイハ。
「だから、ダーリさん用のケーキなんです。ビールと一緒に召し上がって感想を聞かせて頂きたいのですが」
お盆を顔に持ってきて、ややうつむき加減で俺を見つめる。
程よく入ったお酒のせいか、その作られた可愛さに引き込まれそうになる。
「ガン」
テーブルの下で、マイハに足を蹴られた。
「ビール注文していないけど」
我に返った。
「試食に協力してもらうお礼です。ビールに合うと思うので、ご一緒に召し上がって下さい」
「じゃあ遠慮なく」
後でビール代も払うつもりで、マイハが一口かじったケーキに口をつけた。
「美味しい!」
ビールを一口。
「ビールに合う!」
甘くないチーズケーキで、ビールに合う。
これなら左党である俺でも食べられる。
「良かった。お酒を召し上がる方でも美味しく食べられるデザートを開発中なんです。もう少し改良してからお店のメニューにしますので、それまでは、ダーリさん専用メニューですよ」
ラムは俺にウインクして調理場に戻っていった。
「あの小娘に鼻の下伸ばしてるんじゃないでしゅよね」
マイハが俺を睨みながらドスの利いた声で警告する。
テーブルの下では、ガンガン俺の足を蹴っている。
「い、いや、そんな年の離れた子に興味はないよ」
「じゃあ私はどうなんでしゅか?今9歳でしゅよ」
「お前とあの子じゃ立場が違うだろ」
「私がババアだって言うんでしゅか?」
「そうは言ってない!」
女は何歳でも理不尽だ。
数分後、マイハがスペシャルを食べ終わった頃を見計らってラムが小皿を持ってくる。
「はい、マイハちゃんにも新メニュー!」
ちょっと深さのある小皿に入っているのは、黄色く滑らかなデザートだ。
「これはもしかして?」
「分かる?この間、ダーリさんが話していたものを再現してみたんだけど」
一口食べるマイハ。
「うっ、プリンでしゅ!美味しいでしゅ!」
「マイハちゃんに気に入ってもらえて嬉しいな。マイハちゃんのような可愛い子になら毎日作ってあげたいな」
お盆を胸に抱えて、ラムは調理場に戻る。
「あの女のくせに……」
気に食わないと思いながらもマイハは新メニューのデザートを口に運ぶのであった。