2 その看板娘、子供に小娘扱いされる
読み直したら、話が途中の箇所がありました。
訂正してお詫びします。
「レディーの体重を覗き見るような奴は、この『金のフクロウ亭』で食べる権利はねえ!」
店主のダンゴーに荒っぽく言われた。
「そういうつもりじゃなかったんだ。誤解だよ」
俺は誤解を解こうと必死に弁解したが、店の前での出来事に、店主のダンゴーは怒り心頭だった。
「たとえ誤解でも、ワシは許さん。ワシは美味しいものは、美味しいと思って食べてもらいたいんじゃ」
「マイハは体重気にされるくらい太ってないでしゅ」
ほっぺを膨らませてマイハが抗議する。
『気にされるくらい』ということは、多少の認識はあるのか。
今は、『まだ』大丈夫なだけだ。
18歳までは、脂肪細胞が増えやすいという。
それまでは、適正に体重管理をして、正しい食生活を身につけて欲しい。
日本から転生した俺たちには、この異世界、娯楽が少ない。
食べることしか楽しみがないと言えばそれまでだが、長い時を過ごすこの世界で、健康を保つには、体重管理をしっかりするほかない。
運動嫌いのマイハは特に。
「マイハちゃんは痩せすぎだよ。もっと食べなきゃラムのように大きくなれないぞ」
ダンゴーがマイハに優しい口調で話す。
余計なことを言うな、ダンゴー。
「俺は、マイハがどれくらい成長したのか、ちょっと確認しただけなんだ!」
心の声はともかくとして、俺は弁解する。
この異世界、体重管理はあまり重要視されていないようで、俺のような考えは分が悪い。
「スキルまで使う必要はねえな」
きっぱりとダンゴーが俺の言葉を切り捨てる。
スキルを使わないと、本当の体重なんて、分かるわけがない。
女性に体重なんて直接聞けるわけないだろう。
「パパもマイハちゃんもそのくらいにしてあげたら」
看板娘のラムが助け船を出した。
俺は調理場から歩いてきたラムを向いた。
ラムは、ウエストはマイハよりも細いくらいだが、胸はエプロンからはち切れんばかりの大きさだ。
金のフクロウ亭の、料理とともに、冒険者を呼んでいる大きな看板だ。
ダンゴー、ラムの胸を基準に体型を考えたら駄目だよ。
マイハはそんな体型には育ってくれない。
マイハの胸は、転生前でもここまで大きく育ってくれなかったよ。
「ラムちゃ~ん」
俺は助けを求めた。情けない声になっているのは自分でも分かる。
ここで俺の味方はラムだけだ。
「ほらほら、ダーリさんが困っているんじゃないの、お仕置きはそのくらいにして。マイハちゃんもダーリさんもテーブルについてよ。それにお父さん、そんな文句ばかり言っていたら私が注文取れないじゃないの」
「ラムちゃん分かったよ。お父さん頑張って調理するから許してよ」
ダンゴーがすっかり大人しくラムに従った。
が、
「お前に飯は食わせても、絶対にラムはやらんからな」
ダンゴーは、俺に捨て台詞を残して調理場に戻った。
「ラムちゃん助かったよ」
「ダーリさんも、これからは、無神経なことしちゃダメですよ。女の子は小さくてもレディなんですからね……」
うなずく俺。
「今日の注文は何にしますか?いつも通りお勧めでいかがですか?」
「マイハはお勧めでいいか?」
「この店でお勧め以外何があるっていうのでしゅか!」
機嫌悪く答えるマイハ。
ラムのスタイルが気に食わないのであろう。
「私のデザートはお勧めではなくてスペシャルですが?」
ラムが胸を張って答える。
マイハはここのデザートが大好きだ。
一瞬考えこむマイハ。
金のフクロウ亭で出すデザートは、すべてラムが作っている。
かなり美味しいらしいが、甘いものが得意ではない俺にとっては、あまり興味が湧かない。
もっともデザートを頼む9割が、女性客であることを考えると、女性にとってデザートは特別なものなんだろう。
「う~、お勧めとデザートでしゅ!」
「じゃあ俺はお勧めとビールを」
「ご注文ありがとうございます。お勧め2つとビール一つ」
「デザート忘れないでくだしゃい」
「もちろん、スペシャルですから」
意味の分からない返事をして、ラムは俺にウインクをして調理場に戻った。
「チッ、小娘が」
マイハがつぶやいた。
勇者の俺以外には聞こえない小さな声で。