19 その決闘、何を賭けますか
正直俺は舐めていた。
こんなことになるなんて。
『デュエル オブ ブレイブ』はお祭りだった。
確かにこの世界、娯楽が少ないとは思っていた。
テレビもねえ、ラジオもねえ、車は一切走ってねえ世界だっていうことは分かっていた。
『デュエル オブ ブレイブ』開始は正午というのに、普段練兵場として使われているコロシアムは満員。
観客が一万人くらいは入っていると思う。
プロ野球の試合のように、お酒やジュース、お菓子の売り子が観客の間を縫っている。
会場では、きれいな女性たちによる歌やダンスが行われたり、演劇が行われたりとまさにお祭り状態だった。
「ダーリ君、緊張はしていないか」
ギルド長が心配して声を掛けてくれた。
「少しはしていますが、大丈夫でしょう。それよりも凄いお祭り騒ぎですね」
「勇者同士の決闘なんて、王都でもなかなか見られるものでもないからな。それがこの町で行われるとあっては、見ない訳にはいかないだろう」
「賭けも盛り上がっていそうですね。ただ俺に賭けてくれている人はあまりいなそうですが」
「そんなことはない。ただ、全体的な人気で言えば、レベルが上の者に賭ける傾向が強いということか。人数的には君に賭けている人は多いが、金額的には、そうだな、5対1くらいだな」
「やはりそんなものですか。俺も自分に賭けたんですが」
「それは知ってる。それがなかったら、二桁の差がついていただろうな」
俺は、家の購入資金のほとんどを自分に賭けていた。
勝つつもりなのだからいいだろう。
負けたら金銭的に大変なことになるが、それよりもハリセンボンの刑が怖い。
多分、ハリニセンボンの刑になるだろう。
内側と外側で。
「だがそれよりも当ギルドの支援、本当に要らないのか」
「いえいえ、剣を頂いたじゃないですか」
「訓練用の剣なんて、なんの支援にもなっていないのではないか」
「いえ、これで充分です。どうせ壊れるんですから、あまり立派なものだともったいないので」
「その程度で大丈夫だってことなのか。ストレンジャーのダーリ君から見たら、レベル37のノミネーターなんて、相手にならないという事か」
「やってみなければわかりませんが、一応勝つために考えていることはあります」
「私も勇者をそれほど見てきたわけではないが、ストレンジャーの勇者は君が初めてだ。ノミネーターとは比較にならないらしい、ということは聞いていたが、どれほどのものか正直分からないのだ」
「俺も勇者になるのは初めてなので、ストレンジャーとかノミネーターとかよく分かりませんが、人を騙して自分勝手なことをする奴はどの世界でも許せないんで、思いっきり成敗したいと思います」
「ところでマイハ君も出るようだが、却って君一人の方がやり易いのではないのか」
「そんなことはありませんよ。マイハにも見せ場は作ってもらわないと」
俺はにやりと笑う。
しかし、ふと気が付くとマイハがいない。
「あれ、どこ行ったんだ」
「マイハちゃんなら、出店を見てくると言って先ほど出かけられましたが。決闘前には戻るとおっしゃっていましたわ」
マイハのヤロウ。
絶対買い食いだよな。
これで絶対に太るじゃないか。
この一週間、頑張って間食させないように注意してきたのに。
「ちょっと俺、探しに行ってきます」
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「ちょっと気に食わないな」
勇者ランブルがオッズを見て言う。
「確かに舐められてるとしか言いようのないオッズだな」
聖騎士フィッターが相槌を打つ。
「でもおかげで治療費を少しは取り戻せる」
聖騎士ヴィクターが嬉しそうに言う。
「本当に大丈夫なの。私はあんたたちと違って体が掛かっているんだからね」
魔術師ジャニスが不安を口にする。
「本当に心配なら、俺たちの資金全部ジャニスが賭ける訳ないだろうが」
「そりゃそうだけどさ。俺たちのオッズが1,5倍で、あいつらが3倍だぞ。どう考えてもおかしいだろ」
「一応計算は合っているだろ。掛けた奴が2対1なんだよ」
「それがおかしいって言うんだ。なんでレベル37とレベル5で2対1の勝負になるんだよ」
「そこはホームの勇者を地元が贔屓しているか、ギルドが面目を保つために赤字覚悟のオッズにしているかだよな」
「それでも聖騎士殿は、その低レベル勇者に一瞬で負けたんでしょ」
「負けちゃいない。後ろから不意打ちされただけだ」
「酒を飲んでいたからだ。飲んでいなかったらあいつのパンチを食らわなかった」
「そういうところがオッズに出てるんじゃないのか」
「それでも普通分かるだろ。勇者だけじゃない。聖騎士二人と子供が一人が相手なんて、勝負にならないだろ」
オッズについて喧々諤々と議論するパーティー。
「どっちにしろ、金はあればあるだけ掛けた方が得だよな。俺はジャニスに払ったんで、治療費を取り戻して、お姉ちゃんのいる店に行くのが関の山だけどな」
鼻の骨折を治してもらったヴィクターは残念そうに言う。
「その分、あいつの体にたっぷり返せばいい」
「元よりそのつもり。あいつの娘の体にもたっぷりと返さないとな。ふっくらして美味しそうだしな」
「「「お前ロリコンかよ」」」
「俺は上から下まで全て愛せるだけだ」
ヴィクターは動じずに、パーティー全員を恐怖に陥れるとニヤニヤ笑った。
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