17 その勇者、ギャフンと言う
「本当にこの様な契約内容でよろしいのですかな」
ギルド長がダーリに聞く。
「もちろんです。あいつらをギャフンと言わせなければ気が済まない」
俺は、薬を使ってまで女性を我が物にしようとする勇者パーティーに怒り心頭だ。
決してお気に入りのラムが襲われそうになったからだけの理由ではない。
……と思う。
「パパ、ギャフンなんてださい」
マイハに指摘された。
「ギャフンとはどういう意味ですかな」
ギルド長が初めて聞く言葉に首をかしげる。
「まあ、昔いた国の言葉です。あまり意味はないので気にしないで下さい」
俺は頭を掻きながら言い訳をする。
「ストレンジャーの方は、この世界にはない技術や知識、言葉を持っておりますからな」
ギルド長は、勝手に納得している。
この世界には、二通りの勇者がいる。
一つはノミネーターと言われる、この世界で生まれた勇者。
最初から勇者として生まれる場合もあるが、ほとんどが努力により、勇者のジョブを得る。
もう一つがストレンジャーと言われる、他の世界からの渡り人による勇者。
これは渡ってきた時点で勇者のジョブが固定されている。
渡り人全てが勇者になるわけではないが、勇者以外でも強力なジョブを得ている場合が多い。
ストレンジャーは、ノミネーターに比べると非常に数が少ない。
そもそも勇者自体が少ないものの、渡り人の勇者となると、なかなかいない。
「この世界では、力があれば、好きなことをしても許されるかもしれませんが、俺はそういう奴は、勇者だろうと国の騎士様だろうと許すつもりはありません」
「金のフクロウ亭がつぶれたら、私も困るでしゅ。ふらっと来て、私の店に悪いことをする奴は許さないでしゅ」
マイハの怒りがすさまじいのだ。
そもそもお前の店ではないのだが。
マイハは、金のフクロウ亭でいつも文句を言っているが、実はこの町で一番気に入っている店でもあるのだ。
「そうはおっしゃいますが、あちらの勇者はレベル37とか。さすがにストレンジャーとして、規格外の強さを持っているとはいえ、レベル5と37では、ちょっと無理があるのでは、ございませんか」
ギルド長はそう言って、俺のことを心配した。
「まあ、先日のオークとの戦いで、レベル6になったから大丈夫ですよ」
俺はギルド長の心配を笑い飛ばす。
「武器、ポーションなんでもこちらで用意できるものであれば、なんでも提供します。当ギルドの受付嬢を騙して手籠めにしようとした勇者パーティーは許すことはできませんし、あのパーティーに好き勝手されたという話が他に伝われば、当ギルドは笑いものになります。そのための支援は惜しみません」
ギルド長が悔しそうに拳を強く握りしめながら言った。
「お気持ちは分かります。俺も好き好んでお金を払いたくありませんし、娘を奴隷にさせたいとも思いません。だから、絶対に勝ちますよ」
「パパが負けたら、ハリセンボンの刑でしゅ」
「それは困るな。マイハなら本当にやりそうだ」
「いずれにしても、当ギルドでは支援を惜しみません。あと1週間しかありませんが、入用なものは何でも言って下さい。遠慮は無用です」
「ダーリさん、決闘までの間、私が毎日お食事を作って差し上げますわ」
今まで黙っていたピノワールが、支援を申し出た。
「あっ、大丈夫です。これから金のフクロウ亭を使って毎日マイハが料理作るんで。マイハは料理スキル持っていますので、ご心配なさらず」
「……」
ピノワールの好意を無下にしてしまった。




