16 そのギルマス、契約する
作者はテザリングを手に入れた。
勇者パーティーの紅一点、魔術師ジャニスは冒険者ギルドで、ギルド長に抗議文を突き付けていた。
「当ギルドでは、まったく逆の報告を受けているんですが。貴殿のパーティーに麻痺毒を使用するように頼まれた証人も確保しております」
ギルド長はそう言って抗議文の受け取りを拒否した。
「ノースリミットの勇者が卑怯なことをした挙句、ギルドぐるみで偽の証人まで用意して嘘を付き通すのであれば、デニス国勇者名誉回復のため、『デュエル オブ ブレイブ』を申し込みます」
ジャニスはしたり顔をする。
ジャニスとしては、ギルドがどう出ても、勇者同士の決闘、『デュエル オブ ブレイブ』を申し込むつもりであった。
聖騎士ヴィクター、フィッターをボコボコにした男が、『研修』勇者であることはすでに調査済みだ。
しかもレベルはまだ『5』。
どう考えてもレベル37のランブルに勝てる訳がない。
勇者の名誉を回復するという名目の決闘を拒むことはできない。
回避するとすれば、土下座謝罪をして、決闘の申し込みを取り下げてもらうほかない。
勇者のレベルが低いのが悪いのだ、とジャニスは思った。
レベルが低いのに、正義感を出したのが悪い。
力なき正義は無力なのだ。
不意打ちで勝ったからと言って、地力のあるランブル達に、対等な勝負で勝てる訳はない。
ジャニスは、謝罪を受けることを前提に、いくらせしめられるか考え始めた時だった。
「分かりました。当方の勇者から報告を受けた際、そのような申し出もあるかと思い、『デュエル オブ ブレイブ』についての確認は取ってあります。勝負に関する内容、報酬については、私が一任されておりますので、そちらがよろしければ、この場で詳細を詰めたいと思いますが如何でしょうか」
「はぁ?」
「ですから、『デュエル オブ ブレイブ』を受けると言っております。詳細を詰めたいのですが、今宜しいですか」
ジャニスは我に返った。
この非常識な勝負を受ける?
お互い、何か勘違いをしているのか?
「何か勘違いをされていらっしゃるのですか。私が話をしているのは、『ダーリ』というレベル5の勇者についてですが」
ジャニスは確認する。
「そのつもりで、こちらも話を進めているのですが、何かご不明な点でもございましたか?」
冷静に話すギルド長。
「いやいや、こちらの勇者は、レベル上げのため修行中の勇者ですよ?レベルは申し上げられませんが、『研修』は既に終えているのですよ」
「分かっております。当方のギルドには、勇者は一人しかおりません。その者しかこの町で活動している勇者はいないのですから」
「レベル5の勇者と、レベル20を超えている勇者との決闘ですよ。勝算がおありなのですか」
「勝負は水物、やってみなくては分かりません。それに当ギルドの職員も被害に遭っておりますので、私自ら、『デュエル オブ ブレイブ』では支援をしたいと思っております」
自信たっぷりに答えるギルド長。
「真摯な謝罪があれば、示談ということも考えていたのですが、そのような気持ちは全くないようですね。分かりました。それでは詳細について検討いたしましょう」
ジャニスはラッキーと思う反面、得体のしれない不安感を感じていた。
(この町の奴らは何を考えているのだ?レベルでは太刀打ちできないのは明白。一撃死のような特殊スキルがあるのか?万が一に備えて、内容については、注意して契約をしなければならない)
警戒しながら打ち合わせをしたジャニスだったが、びっくりするほど有利な条件を勝ち取ることができた。
ジャニスは、拍子抜けした。
契約内容があまりにもランブルに有利すぎてびっくりしていた。
1 試合形式
・ パーティーによる無差別対決
・ 勇者ランブルは、聖騎士ヴィクターとフィッターとの3人チーム
・ 勇者ダーリは、勇者の娘マイハとの2人チーム
2 勝敗
・ 相手チームが全員戦闘不能かギブアップするまで
・ 万が一相手が死んだ場合、重大な故意によるものでなければ責任は問わない
3 武器の使用
・ 好きな武器を使用することができる
4 魔法
・ 発動者から半径15メートル以内の攻撃は可
・ 観客に被害の出る攻撃は不可
5 禁止事項
・ 助っ人は不可
・ 一撃死攻撃スキルは使用不可
勇者ダーリは、スキル公開をしていないことから、一撃死スキル排除のため、勇者スキル無効の腕輪を装着する
6 勝敗の結果について
・ 勇者ランブルが勝った場合、勇者ダーリは謝罪の上、300Gを勇者ランブルに支払う他、勇者の娘マイハを3年間奴隷として使役する権利を得る
・ 勇者ダーリが勝った場合、勇者ランブルは謝罪の上、300Gを勇者ダーリに支払う他、魔術師ジャニスを3年間奴隷として使役する権利を得る
7 その他
・ 本『デュエル オブ ブレイブ』は、公開のもとで行う
・ 本『デュエル オブ ブレイブ』は、ノースリミット冒険者ギルド主催で、賭博の対象とする
その際の経費ついては、全てノースリミット冒険者ギルドで負担するが、利益については全てノースリミット冒険者ギルドが得ることとする
「では以上で仮契約を行います。パーティー全員の署名を得たことをもって本契約ということでよろしいですか」
ギルド長がジャニスに同意するか尋ねた。
「結構です。本日中に署名をして提出します」
「勇者ダーリについては、当ギルドが責任をもって署名をもらいますので、双方の書類が揃い次第、日時と場所を通知します」
ジャニスは、心の中でほくそ笑んだ。
そもそも、決闘の参加者が、実質3対1だ。
勇者スキル無効の腕輪の装着についても、勝利を確実なものにしてくれている。
勇者スキルの中には、レベルが低くても、戦局をひっくり返すほどのスキルも存在する。
それが無いということは、レベル勝負になる。
『デュエル オブ ブレイブ』で掛けられる金額は、最高300Gまで。
名誉の回復が目的であり、お金を儲けるためのものではないからだ。
その金額の上限まで相手は受けている。
馬鹿としか言いようがない。
しかも勇者スキル無効の腕輪の装着まで認めるとは。
勇者スキルの中でも厄介なのが、一撃死スキルを持っているケースだ。
使用にあたっては、条件が厳しいものがほとんどだが、その条件が分からなければ、一発で戦局をひっくり返されてしまう。
それ以外の勇者スキルもあるが、戦いには必須なスキルがほとんどだ。
これを察するに、相手勇者は、一撃死スキル以外は持っていない可能性が高い。
間違って使用して、ペナルティーを科されることを回避しようとしたか。
そういう一撃死スキル一つ持ちであった場合、使用条件が緩く、連発可能なスキルかもしれない。
そうすると、オークロードを倒したのはこの勇者の可能性もある。
レベルが低くても、オークロードを倒せる勇者であれば、冒険者ギルドが最大限保護していることも考えられる。
負けることを前提に、今回の『デュエル オブ ブレイブ』を受けて勇者の顔を立てさせて、ペナルティーを冒険者ギルドで被る。
そして冒険者ギルドは、勇者に貸しを作って子飼いの勇者にする。
きっとそうだわ、とジャニスは思った。
負ければ、奴隷の義務が発生する内容もあるが、金で解決することがほとんどだ。
奴隷契約は、簡単に言えば、掛け金の上乗せである。
期間契約奴隷は、契約前であれば自分で権利を買い取ることができることから、お金さえあれば、負けても奴隷になることはない。
また、買い取るお金がなければ、お金を貯めて後日権利を購入することもできる。
ただしその場合は、買取前に夜伽を無理やりされても文句は言えないが。
金額の面から言えば、奴隷商の見立てで価格が決まる。
うまく奴隷商に鼻薬をかがせれば、9歳の女の子であるが、理由をつけて1000Gくらいの値段をつけてもらえるかもしれない。
普通の子供であれば、100Gが良いところであろうが。
いずれにしても美味しい契約をさせてもらった。
冒険者ギルドが全被りの『デュエル オブ ブレイブ』。
この契約内容なら、ランブル達からボーナスを引き出せるだろう。
賭博もやると言っていたから、ランブルに賭ければ間違いなく儲けられる。
この町はアタリだ。




