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10 そのお局、バツイチ勇者を狙う

中身と合っていなかったので、サブタイトルを変更しました。

確認って大切ですね。



「へえ、この町は当たりかも」

 ノースリミットに入った勇者ランブルは、パーティー仲間に話しかけた。


「昨日までのストーンケトルも悪くはなかったが、何よりも冒険者が多くて女に不自由していましたからね」


 返事を返したのは、デイツ国聖騎士のヴィクターだ。

「不自由していたのはお前だけだろう」

 同じくデイツ国聖騎士のフィッターが突っ込みを入れる。


「お前たち、ここに私がいることを忘れるな。そういう話は、宿に入ってからやってくれ」

 パーティーの紅一点、デイツ国魔術師団所属のジャニスがピシャリという。


「全くだ。ジャニスが女だっていうことを忘れていたよ」

 ランブルが悪びれずもせずに、そう言って笑いを誘った。


「私を女扱いする必要はないが、デイツ国の税金で修行していることは忘れるな」

「はいはい、分かっているよ。この半年で、俺のレベルはもう37だということも忘れないで欲しいけどね」

 ランブルは自慢げに反論した。


「全く勇者って奴は嫌になるぜ。俺が10年修業した結果に、たった半年で追いついてしまうんだからな」

「全くだ。ただの村人Aが、半年で聖騎士とまともにやりあえるんだから、神のノミネーターである勇者っていう奴には敵わないな」

 ヴィクターとフィッターが、ランブルを持ち上げる。


「まあ、それでも、女遊びにはまっちまった、ただの田舎もんだけどな」

「それも間違いない」

 持ち上げたと思ったら落としにかかる。


「おいおい、仲間だろ。お前たちだって、堅苦しい聖騎士様という立場を離れて、俺と同じナンパ野郎になっているじゃないか」

 ランブルが言い返す。


「その通り、俺たちはランブルのおかげで、税金を使って、今までの修行の成果を試しながら、女遊びができる最高の環境を得た。ランブル様様だ。国に帰らずにずっとレベル上げしていても俺は良いけどな」

「そこまでにしておけ。たるんでいると、いつか足元をすくわれるぞ」

「はいはい、まず、今日の宿に行こうぜ。確か、ホテルノースリミットだったか」

「なんともベタなネーミングだな」


----------------------------------


 午後3時の冒険者ギルド。

 

「ゴブリンパーティーの討伐と、薬草採取の両クエスト達成です。成功報酬の3Gです。今日もお疲れさまでした」

 いつものクリスタがいないので、おつぼ……いや、受付嬢のピノワールが、金貨を差し出す。


「ありがとうございます。ところで、クリスタが見えないようですけど」

「パパ、おなかすいたでしゅ。クリスタなんてどうでもいいから早く帰るでしゅ」

 クリスタの名前を聞いて不機嫌になったマイハが帰宅を促す。

 人前では、一応『パパ』と呼んでいる。


「お嬢ちゃん、これ食べる?」

 おつ……、受付嬢ピノワールがお菓子の包みを差し出す。

「これはなんでしゅか?」

「『フェアリーさん』のチーズケーキよ。おやつに食べようと思っていたのだけど、おなかが空かなくて」

「それって、最近オープンして、大人気の店ですよね。お昼前には売り切れるとか」

 俺は、ラムから聞いた話を思い出す。

 スティックタイプのチーズケーキが美味しいと評判で、ラムも食べたいと言っていたやつだ。

「おば……お姉しゃま、そんな貴重なもの、いいんでしゅか?」

 マイハ、ピノワールは、お………と言われているが、まだ20代だぞ。

 普段から言葉遣いに気をつけなさい。


「いいのよ。お姉さん、無理に食べると太っちゃうから」

「ピノワールさんは全然太くないですよ。むしろ痩せすぎなくらいで」

 20代後半で、そのスタイルは、努力の賜物だろう。

 マイハにも見習ってほしい。

 小さいうちに太ると、将来痩せられなくなるからな。


「全然細くなんかないですよ。私、見えないところが太くって。本当は幼児体型で恥ずかしいんです」

 ピノワールが謙遜する。

 そのスタイルでも、まだ足りませんか。

 マイハに、ピノワールさんの爪の垢を飲ませたい。


「オイヒーでしゅ」

 マイハは、そんなやり取りを何にも聞いていなかったように、無邪気にはしゃいでいる。

「マイハもピノワールさんを見習……お礼を言って」

 危うく別の地雷を踏むところだった。


「ピノワールしゃん、ありがとうでふ」

 もぐもぐしながらお礼を言う。


「どういたしまして。そうそう、これはクリスタから預かっていた書類です」

 中身を見ると、どうやら不動産のカタログのようだった。

 価格と間取りはなんとなくわかるが、説明書きが良く読めない。

 

「宜しかったら、私がご案内しますか?」

「いえいえ、ギルドの仕事の邪魔はできませんよ」

 ピノワールの申し出を断る。

 これから冒険者が、クエストを終えて戻ってくる時間だ。

 受付嬢の、本当の仕事が始まる。

「私、間もなく仕事が終わるんですよ。今朝早かったんです。夕飯の食材を買いに行くついでですから、ご遠慮なさらず」

「ピノワールさん、もう時間ですわよ。冒険者ギルドもワークライフバランスですから」

 脇のテーブルから、新人受付嬢のルーラがピノワールへ帰宅を促す。


「せっかくの早上がりなんですから、ご自分のために……」

「ダーリさんはノースリミットにおいでになって、まだ1か月じゃないですか。町に慣れていない冒険者や勇者の私生活を支援して、クエストの受注や成功率を上げることも受付嬢の大切な仕事なんです。マイハちゃんにも、美味しいデザートのお店を教えながら案内しますので。ねぇマイハちゃんも『フェアリーさん』のお店知りたいでしょ?」


「知りたいでしゅ!」

「決まりですわね、ダーリさん。入り口で待ってて下さいね」



「ルーラちゃん、気が利くようになったわね」

「お土産とか期待していませんから」

 ダーリとマイハがいなくなった事務室で、ピノワールとルーラが表情だけニコニコさせながら話していた。

 

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