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半妖の陰陽師と妖兎は、平成の地でアニオタ探偵となる  作者: 夢魔
半妖と妖兎、女子高生と出逢う
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06

「ごめんなさい、少しやりすぎてしまいました」

「少し、じゃないけどな。と言うか、敬語を使う癖に暴力とか矛盾だから。敬意をまったくはらってないから」

「あ、それもそうですね」


 こんっの、女ッ、開き直りやがった。上半身を起こし、若干の重さを感じる足を見ると、ルトがスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。愛くるしい表情に、温もりを感じながら頭を撫で、ついでに空を見つめた。

 外の明かりは青から茜に変わり、太陽は影を伸ばして沈む。


「『夕暮れは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとてよみ人知らず』──ッてか」


 空を見つめ、ふと思い出した和歌を口ずさむ。


「古今和歌ですね?切ない恋が、泣けてきます」

「なんだ、知っているのか?」


 ルトを起こさないように、体はなるべく動かさず椅子に座る土御門へ視線だけを送った。


「知ってるも何も、有名ですしね。でも万葉集の、『言霊の 八十やそちまた夕占ゆうけ問ふ、占正うらまさいも相寄あいよらむ』の方が、私はドラマチックで好きですね」


 数多くの人が行き交う夕暮れ度。それは、同時に様々な言葉が行き交うのは、占いにも似ている。その話を聞く限り、どうやら想いを寄せていた人の心も靡く。みたいな、和歌だったか。


「ドラマチックの意味は分からないが、俺は別段好きじゃない。周りに振り回されてるだけだろ。と言うか、男なら自ら相寄るべきだ。どんな状況、結果だろうと」


 と言うか、初めてまともな会話が出来た気がする。


「ですが! 女の私からすれば噂とか、大切なんですよ!」

「お、おう」


 び、びっきゅりしたあ。急に大声挙げなくてもいいじゃん。危うく変な声が出るところだったよ。


 土御門は、前のめりになり、眉間にしわを寄せながら訴える。そこまで言うのなら、そーいうものなのだろう。が、そんな事よりも、目線の高さ的に足の付け根が見えそうで見えない。それが、前のめりになることによって余計に──くそ、煩悩がッッ。


「あ、そうそう! 調べましたよ、武蔵国府」


 土御門の発言で我に帰り、顔を上げて体全体を瞳に写すと、机の上に置いてある何やら長方形で光を発した置物を見ている。これも、術の一種なのだろうか? しかし、今は考察よりも先に解放された嬉しさが勝る。


「本当か!? だが、地図などは見当たらないが……」


 土御門は、コメカミを指先で数回かいてから「設定を凝ってるのは分かりました」

「設定? 何を、訳の分からない事を……。早く、帰り方を教えてくれ」


 真剣な眼差しで、出来る限りの誠意を見せた。つもりだったのだが、土御門は呆れ顔でため息を一つだけ吐く。


「本当に帰りたいんですよね?」

「ああ。さっきから言ってるであろう」

「なら、本当に住んでる場所を教えてくださいよ。台東区だとか江戸川区だとか葛飾区だとか」


 いやいや、コイツは何を言ってるんだ? 意味が分からない故に、理解もし難い。言葉の疎通が出来ているようで、出来ていない変な感覚が苛立ちを体に教えこみ始めた。

 何故、余計に苛立つかと言えば、土御門の瞳が全くぶれておらず、嘘をつく時に現れる症状が微塵と出ていない。


「良いですか? 武蔵国府は、とうの昔に無いんですよ」

「──は?」


 言葉がでなかった。考えつかなかった。予想以上では無く、想像以上の展開に思考は停止したのでは無く死んだ。


「俺が住んでいた国が……滅びた……だと?赤鬼によって──滅ぼされた、のか?」


 頭は、真っ白になり堪らず頭を抱える。

 滅び、終わり。何も知らない間に知らない何かが動いていた、始まっていた。赤鬼、お前は俺に一体何をしたんだ。


「すまない……。土御門、今は何年だ?」

「今、ですか? 今は、平成三十年ですよ? 二千十八年ともいいますね」

「ヘイ、セイ?」

「なんで、ラップ口調なんですか。訛りが独特すぎますよ」


 俺が生まれた年よりも千年以上、先だと?まさか、そんな事が……。

 跳ね上がる心拍数は、鼓膜を不穏に叩く。背中にかいた変な汗も冷たく肌を突き刺し始めた。


 全く状況の把握が出来はしない。


「な、なら、朱雀天皇は……?」

「朱雀天皇陛下ですか?」

「ああ」

「はるか昔に、代替わりしていますよ」


 はるか昔、と土御門は言った。つまり俺は本当に未来に来たと言うのか。それはとても不可解であり、納得せざるを得ない話でもある。


「はははっ、なんだよそれ」


 もはや、乾いた笑いしか出ない。赤鬼、お前は最後に何かを言っていた。俺に何をさせようとしているんだ。この、未来で。


「大丈夫、ですか? 顔色、悪いですよ」

「大丈夫だ。だが、和歌が有名だと言ったな?」

「ええ、言いました」


 そうか、歴史は語り継がれている。喜ぶべきか、悲しむべきか。まあ、なら何かしらのヒントがあるやもしれない。

 顎に指を添えて黙考する。


「その為には、武蔵国府が今は無いと言ったが、ならば今は──」

「今は東京と言われています。因みに、武蔵国府跡と言うのは在りますが、そこに行きたいとかじゃないんですよね??」

「違う」


 まずは、現実を受け入れるために知識を蓄えなくてはならない。今、分かったのは嘗て武蔵国府だった場所がトウキョウと呼ばれ、今いる場所がトウキョウのアキハバラと言う地名。

 この女達は、俺からすれば未来人であり、日本が残っている証拠となる訳だ。

 信じ難くはあるが、だとしても見た事の無い建物を見たりすると合点も行く。


 土御門は、無理矢理視界に入り込み口を開いた。


「なるほど、です。なゆたさん、貴方の言動から推察するに過去から来たんですね?」

「何故それを? 信じれないくせに」

「信じる信じないは別として、今は話を合わせなくては話にもなりません。つまり、話し合い、答え合わせが出来ませんからね」


 こうして、俺と未来人の長い長い答え合わせは始まった。

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