表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

敗退

「残りは、俺達だけ……か」


 一人の男性は、血だらけになりながらも、依然として悠々と立つ四本角の赤鬼を眼前に捉えていた。


 黒髪長髪・細く眠たげな黒い瞳。服装は、首や手首に数珠を装飾し、着物・袴・水干すいかんで一つとする、所謂いわゆる式服しきふくに身を包んでいた。

 百八十程の背丈は、延喜えんきでは畏れられる程の身長。だが、それもそのはずであり、男性も人で在らざる自分を重々と承知していた。


「貴様、半妖の癖に人側の味方になるとはのう?半妖半人の、半端な陰陽師に俺が殺せるはずが、なかろーよ」


 体長が、四メートルを超えるとなれば、たった一言を怒鳴るだけで、口からは暴風の如く言葉と共に息が吹き荒れる。

 男性は、器官が傷つき、ササクレの様な違和感を覚えつつも、血反吐を吐きながらそれでも冷やかす笑顔を浮かべた。


 式服を、鬼の吐息で靡かせ「別に俺は、誰の味方でもない。人も嫌いな奴は嫌いだ。妖怪も、嫌いな奴は嫌いだ。ただ、俺がしたいから、そーしてるだけさ」と、額から零れた血で、白目を赤に染めつつ言ってのける。


「ほう。なら、貴様はわしを殺せるのか?」


 辺りに散らばる、陰陽師の死体を巨大な足で踏み潰して一歩前進した。

 巨体が奏でる地鳴りとは別に、血液が体内で圧迫され、弾け散る音は嫌に耳へと残る。足元に、転がってきた目玉一つ。それは、男性に数分前、笑顔を浮かべ「任しとけ、俺が百鬼夜行を止めてみせる」と、肩を叩いた男性もの。男性は、込み上げ滾る憤怒を宥めつつ口を開いた。


朧兎ると、やれるだけの事はやるぞ」

「わ、分かり申したぞ! あるじ様」


 おずおずと、男性の背中から体半分を覗かしたのは妖兎ようとだ。名を朧兎るとと呼び、男性と長きに渡り過ごしてきた唯一の戦友であった。

 長く白い耳・ツンとした小さい鼻・赤い目・白い髪。身長は、男性の腰より高いぐらいであり、巫女装飾を身にまとった妖怪。

 赤鬼は、わかり易く大いに笑う。


「がハハハッ!! なんだ? 貴様は、式神すら使えないのかのう?だから、妖怪を──それも背中に隠れたちっこい妖怪を使役しておるのか? 情けないのう」


 朧兎は、丸く小さい尾っぽを逆撫で、頬を真っ赤にしつつ言った。


「う、五月蝿いわい!! わらわを嘗めるでない」

「黙れ、小娘」


 殺意の篭った眼光をくらい、朧兎は竦み上がり背中に隠れた。赤鬼は、鼻で笑い満足気に二人を見下す。男性は、圧倒的であり歴然たる力の差の前に強がり、平然を装うのがやっとだった。

 しっかりとした準備が間に合わず、浅はかだった考えを、男性が悔いるよりも先に死んでいった同業者。


「まあ、よいよい。儂も遊び疲れたしの」


 赤鬼は、男性の足元に魔法陣を展開させた。


「儂を、貴様達は殺せんよ。もし本気で殺したかったのなら、平安京の安倍晴明でも連れてくるんだったのう。とは、言え──奴でも儂を殺せはせんがな。では、暫しの別れよ」


 ──刹那、男性と朧兎は燦然たる光に包まれた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ