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魔王なんですが実は、隣にいます。  作者: 夕凪
第二章 新たな魔王、降臨
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森を抜けてⅣ

以前の依頼の洞窟で対峙した巨躯のリザード。

それを上回るほどの―二メートルはあろうかという体躯を持ち、外見だけで言うところの―難敵トロール。

それはリザードほどは素早くもなく、回避する事自体は容易。そして別段こちらの攻撃が通らない訳でもない。

至ってシンプルな魔物と言えなくもない。

ただ、未だ決定打を与えられてはいないというところを除いては。


「がんばっていきましょう!ふぁいとふぁいと!」

「それはまるで俺が頑張ってないような物言いだな?」

「ち、違います!?そういうつもりじゃないんですよぉ!

 私が何を伝えたいのかと言いますと…ようするに『がんばって』なんですよ」

「だから、それを辞めろと言っているんだよ」

「もう、二人とも。ふふふ。仲良くじゃれあってないで真面目にやるんですよ?」

軽口がでてしまう程の展開とも言える、これまでとは異なるこの緩やかな戦闘。

だが確実にジワジワとこちらの体力のみを削り奪っていく。

それは穏やかに負けを、平たく言えば徐々にではあるが死へと向かっているという証左でもある。


―グオオオオオッ!

これで何度目の組み合いになるだろうか。

時間だけが無為に過ぎていき、奴はというと一向に倒れる気配がない。

このままでは埒が明かない。いつもとは違う手でも試してみるか?

具体的には――

「ちょ、ちょっとまってくださいよぉー!私は魔術師なんですよっ!?」

リュカが驚きをオーバーリアクションで表現してみせる。

「いいから、やってみろ。もしかすると新たな道が開けるかもしれない」

「絶対にないです!仮に開いたとしても、そんな道はろくでもないです!」

「うーん、さすがに…。それはどうかと思いますよ…?」

やはりというかレミアも困惑の表情を俺に向ける。

加えてリュカの方も全力でいやいやを表現している。

「奇策が困難を打破する事もあるんだよ。行け!」

もちろん出任せだ。

肩をポンと力強く叩くと彼女は遂に意を決したのか、駆けて行く。

ブロードソードを重たそうに抱えてトロールの方向へと。


「リュカちゃん本当に、行きましたよ…?」

レミアと共に様子を伺う。あいつの事だ、危険があれば魔法で煙に巻くくらいはできるはずだ。

トロールの至近距離へと到達すると、叫び声に体がびくっと反応を見せる。

その拍子に剣ごと転ぶように前方へと倒れそうになる。

「あっ!?」

直後、その勢いのままトロールの大きな左足にブロードソードが見事に突き刺さった。

魔物は叫び声と共にリュカを追い回す形となり、一方の彼女は全速力で逃げ出す。

なるほど、緊急事態では魔法は使えないのか。

「狙い通り、みたいな顔してませんか?まったくもう、悪い人ですね。

はやく助けに行きますよ!」

「ああ、やりすぎた。今は反省している」

俺達は後を追うも彼女とトロールの逃げ足のほうが勝っていた。

レミアといい魔術師というのは足腰を鍛えているものなのだろうか?

魔術師と足の速さについて―実に検証の余地がありそうだ。

だがそのような疑問はどこ吹く風、リュカ達の追いかけっこは続いている。

ついには迷いの森へと入ろうかというところまで来ていた。

「待て!どこまで行くんだ」

だがその声も虚しく森へと姿を消していった。


***


「ちょっと見てください!はやく!」

驚きの声をあげた主はリュカだった。まさか、魔法で仕留めたというのか。

しかしながらこれまでの経緯からすると、正直それは考えにくい…一体何が起こった?

「どうやら危険ではなさそうですね。行ってみましょう」

俺達は来た道を不本意ながら一旦引き返す形となった。


その森は相変わらず不気味なほどの静けさに満ちている。

そして目にしたものはそこには似つかわしくない、泥の人形。

俺の記憶が確かならこんなものは。

レミアと目が合うとしばし考え込む。

「なかったよな?」「えぇ、ありませんでした」

しかしいつの間に、何の目的でこんなものが置いてあるのだろうか。

いや、今の問題はそこではない――

「リュカ、トロールはどうした?」

俺は至極全うな質問を投げかけるとリュカは答える。

「これです」「それか?」「あれです」「どれだ?」

的を得ない押し問答にレミアが口を挟む。

「その泥人形がそうだと言いたいの?」

「そうなの!えっと…この森に入ったら急に姿がかわってね。

 多分だけどこれは――」

魔法による生命の創造。

リュカによると、かなりの高位魔術ではそういった事が可能なのだという。

ある範囲を離れると元に戻ってしまう、泥から造られた仮初の命。

それがあのトロールの正体だったのではないか、ということだ。

しかしながら、過程はどうあれすべての敵を撃破する事ができた。


***


リュカが何か言いたげにこちらへとやってくる。

「どうした?」

「さっきのは私が解決したわけですよね?なので…ご褒美を?」

「確かに、助かったのは事実だ。わかったよ、何が欲しいんだ?

 先に言っておくが、ものによっては無理だからな」

リュカはさらに接近してくる。

「ええと…頭をなでなでして欲しいんですけど…ダメでしょうか?」

「はぁ…?もっと何かあるだろうここは。本当にそんなことでいいのか?」

「いいんですよ!それで十分なんです!」

本人がそれでいいのならお望み通りに。

よくやったという言葉と共に、ぽんぽんと軽く頭を撫でてやる。

その直後、彼女はきゃいきゃいと喜び、その場でくるっと一回転してみせた。

たったそれだけの事だというのにとても嬉しそうだ。

彼女はやはり変わり者だと思うが、それに慣れつつある自分もそう大して変わらないのかもしれない。

あらすじを大幅にリニューアルしてわかりやすいものになりました。

元のあらすじはプロローグにしまい込む形に。

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