プロローグ2
「キサマガ、勇者カ…何ト言ウ強サダ……ダガ、魔王様ニハ敵ウマイ…グフッ」
最後の魔物を一刀で斬り伏せた俺には、ふうっと一息つく暇すらもなかった。
その先を急ぐと程なくして見えてきたそれは…。
ついに俺は魔王城の最深部までやって来た。
そこに待ち受けるは世界を混沌の闇で呑み込んだ災厄である魔王。
奴を倒せばこの世界は再び光を取り戻す。
決戦の時は刻一刻と近づいていた。
重々しい音が鳴り響き玉座の間の扉が開いた。
「魔王…!覚悟しろ!」
「…来たか勇者。矮小なる人間風情が…我ら魔族に逆らった事を後悔し、此処に朽ち果てるが良い」
「我が名は魔王……っ!?」
何やら魔王の様子がおかしい。
こちらをじっと見つめたまま硬直している。
「魔王様、如何なされました」
「何でもない!う、運がよかったなきゃさま。貴様、運がよかったな!きょきょ今日の所はここまでにしといてやろおぅ!」
魔王の唐突な心変わりに配下の魔族達はどよめき、その動揺を隠しきれない。
それはもちろん俺も同じだ。勢い良く引き抜かれた筈の聖剣が、所在なさげにキラリと光った。
「と、とにかく今日はダメ!いいからほら、かえれかえれ!」
何だこの展開は?
玉座に座ったまま子供のように手足をばたつかせた魔王は、そう叫び終えると広域範囲に向けて衝撃波を放った。
ん…?
ここは魔王城近郊の森か。
どうやら俺は強制的に空間転移させられたようだ。
再び魔王城に近づくが城自体に魔法防壁が張り巡らされており、文字通り一歩も足を踏み入れる事が出来なくなっていた。
残念だが今の俺には魔法を解除する手立てはない。これは困った事になったな。
…しかし、俺の想像していた魔王とはイメージが違いすぎた。
***
時を同じくして魔王城、玉座の間
「ど、どうしよう…」
大変な事になったよ。
その、魔王がね、人間をね、ゆゆ勇者をだよ?好きになっちゃうとか、それって有り得るの!?しかも一目ぼれでね?あくまでも魔族の因縁の敵なんだよ、言うなら怨敵だよ勇者!?ああ、さっきの口上へんな動揺してる感じでちゃってたし、アレ絶対に変な子だって思われた!もうね魔王の威厳とかゼロ!うわああぁ恥ずかしすぎて今すぐにでも封印とかされたい!と、とりあえず二重防壁オートロックして誰も入って来られないようにしよ!あー、でもまたあの人とお話したいな…へへへ。それから名前も知りたいな。
「おい、誰かいないか!…おーい!」
私の声だけが虚しく魔王城を木霊する。
何で誰もいないの?もう、まったくあいつらは使えないんだから。
とりあえず減給ね減給。
その日、何故か魔王城に入れなくなった魔族達が集い、新たな街を興したという。