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魔王なんですが実は、隣にいます。  作者: 夕凪
第二章 新たな魔王、降臨
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迷いの森Ⅱ

日も傾いてきたその頃。

若干の余裕が出てきた俺達は、並んで話しながらも先を急いでいた。


「ところで…レミアはどんな術が使えるんだ?」


ふと浮かんだ疑問を彼女へと投げかけていた。


「どんな、ですか?そうですね。

 お菓子を焼く時とか、シャワー浴びたいなって時にささっと」


まるでリュカとの会話のような噛みあわなさに、首を傾げる。


「そういうことではなくて、具体的に戦闘時にはどんな魔法を使うんだ?」

「ああ…!」


ぱんと手の平を軽く叩いて鳴らし彼女は答える。


「わたし、攻撃魔法の才能がないみたいで。

 最低限のものしか使えないんですよ」


俺に向けて何かを唱える。


「その代わりに、なんでしょうか。

 相手の能力を増幅したり、低下させたり、または阻害するといったような

 補助的な魔法が得意です」

「今のは?」

「筋力増幅の術ですよ」


レミアは立てた人差し指を口元にもっていき、ふふっと笑ってみせた。

確かに力が漲る感じがする。


「術師と言っても、得意なものとそうでないものがあるんだな」

「そうですよ。ただ、リュカちゃんみたいに万能なタイプは珍しいんです」


思い返してみると、そうだ。

いわゆる攻撃魔法。それから罠を見つけたり、周りの魔力を感知するもの。

それから付与(エンチャント)と呼んでいた、武器自体に働きかけるもの。

これだけでも多岐に渡る。

もしかすると、まだ見ていない系統のものも扱う事ができるのではないだろうか?


「そういえば、回復魔法は出来ないのか?」

「それができたら、自分の怪我くらい治していますよ」

「…確かに、それもそうだな」


レミアによると、回復魔法を行使できる術師は少ないのだという。

そもそもの素質の問題で、類い稀なる才能の持ち主にしか扱う事はできないそうだ。

その為専門の術師は引く手数多であり、フリーランスの回復術師というものにはそうお目に掛かれない。


「しかし強化の術とはすごいな。いざと言う時は頼む」

「はい、お任せあれですよ!」


彼女はこれまでになく大きく頷いてみせた。


「…そういうところが、ちょっとだけ卑怯だと思いました」

「何がだ?」

「いいえ、何でもありませーん」


そう言い終えると足早に先を行くレミア。

彼女は時々何を考えているのか分からない。


***


森がざあざあと泣いている。

あの黒い雲を恨んでいるのだろうか。

次第にその涙は地面に水溜りを作っていった。


「結構降ってきましたねぇ」

「ああ。でもレミアの魔法のおかげで濡れずに済みそうだ」

「まさか雨避けを使う事になるとは。

 ただ、効果範囲は狭いので離れすぎるとびしょ濡れになりますよ」


彼女と出来るだけ離れないようにして歩く。

魔法というのは目立つものだけではないのだ。

生活と共にあるとでも言うべきなのだろうか、術師にとって身近なものであることは間違いない。

魔法を使う、とはどんな感覚なのだろうかと普段から考えている。

もしも剣士でなかったら。勇者にならなかったら。

魔王討伐などに出なかったら。平凡な村人として暮らしていたら――


「…また考え事ですか?」


隣からの不意の声に、我に返る。

先程よりも勢いを増した雨音のみが響き渡っている。


「ああ、すまない」

「それよりも一つ、いいでしょうか」


俺はすぐにレミアの違和感に気づいた。

こちらを一切見ずに話をしている。


「あまり大きな声をあげないでください」

「…前方から何かが近付いて来ている?」

「そのとおりです」


お気楽な冒険者が来ていい場所ではない。

こんな森の中をうろついているのは恐らく…。


「敵だと見ても良いかもしれませんね」

「よし、レミアは背後にいてくれ。あまり俺から離れすぎないように」


相手の出方をまずは見てみるか?

剣を構え、この場で立ち止まる。

すると体に力が、そして熱いものが全身を駆け巡る。

これはレミアからの強化魔法か。

――ザッ、ザッ、ザッ

足音がこちらに近付いてきた。俺は剣を握る両手に力が入る。

さあ来い。

――ザッザッザッザッ

…だが、その足音はここで唐突に途絶えた。

どういうことだ?


「様子を見てみましょう。十分に気をつけて」


背後からの声を合図に、俺は素早く足音がしていた方向へと躍り出る。

――誰も居ない。

いや、上空に短刀らしきものを携えた何かが見えた。

そしてその狙いは俺ではない。


「させるか!」


音速の刃(ソニックブレイド)をならず者へと差し向ける。

奴はそれを避けようとするも空中でバランスを崩したようだ。

敢え無く地面へと着地せざるを得ない形となった。

その隙を見て俺はレミアを引き離す。


「何者だ?」

「お前らこそ、何者だ!」


ナイフを両手に構えた――盗賊と思しき者。

冒険者狩りの存在はもちろん知っている。やはりならず者の類いだろうか。

だが、こいつはどうみても…女だ。

俺はレミアに目配せをした。そのまま武器を下ろし、相手へと告げる。


「こちらにはやり合う意思はない。

 邪魔をしないのなら、このまま見逃す事を約束しよう」

「女の子一人でここにいては危ないですよ。

 安全なところまで行きましょう?」


すると盗賊の動きが止まる。

わずかに空いた間に、走る緊迫感。

それを引き裂くかのように女は大声で叫びだした。


「お、お、俺は、女じゃねえ!」


激しく降っていた雨はすっかりあがり、叫換のみがこの森を木霊した。

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