ギルドからの依頼Ⅲ
「…さんっ!しっかりしてください!」
「う…あぁ?」
「付与は終わりましたが…だいじょうぶですかね!?」
どうやら俺は瞬間的に気を失っていたようだ。
リュカが心配そうに手を小さく振りながら顔を覗き込む。
体に異変はない。むしろ軽いくらいだ。
「ああ、これならやれそうだ」
目線を手元に落とすと、剣が青と赤のオーラらしきもので包まれていた。
これが付与魔法という物か?
「それが炎と氷のあわせ技、言うならばフローズンブレイズです!」
ふっふーんとしたり顔でリュカは言ってのける。
俺はそれをとりあえず無視してみた。
「フローズンブレイズ!」「フローズンブレイズ!!」
「はいはい、フローズンブレイズな。
とてもよく分かったよ」
巨躯のリザードがこの遣り取りに割って入る。
「グオォオオオオオオオオオッ!!」
「待たせたな、これまでのようには行かないぞ」
俺は即座に向き直り、剣を構え直す。
ガキンカキンカキンガキンッ
剣での激しい打ち合い。やはり剣捌きは互角のようだ。
さてどのタイミングで仕掛けるか。
「がんばってくださーい!ふぁいとふぁいと」
視界の外でリュカが飛び跳ねている。
手出しが出来ない以上、する事がないのか。
まったく暢気なものだな。
ぴょんぴょんと…
まてよ…飛び跳ねか。
「こっちだ!」
「グアアアォオオオ!」
俺は一転して攻撃の手を休めて回避に切り替えた。
サイドステップとバックステップ、スウェーを駆使しギリギリの所でかわす。
少しでも掠れば命に関わる、危険な賭けでもある。
だが攻撃を確実に当てるにはこれしかない。
こうして冷静に見てみると、リザードの動きが大体読めてきた。
踏み込んだ左足が決まって外に開く。
奴が大振りしてくる時のクセだ。
「グアアアアアアアアッ!」
「ここだ!」
今このタイミングしかない。
俺はリザードの縦大振りを見逃さず、右方向へとサイドステップでいなす。
続けて足払いの構えから一刀。これはフェイント攻撃となる。
リザードはこの攻撃に反応して剣で弾こうとするも、若干こちらの方が速い。
即座に左側面へと飛び込み、魔法を纏った刃はガラ空きの身体へ。
その硬い鱗はいとも簡単に断ち斬られた。
「や、やりましたぁ!やったー!」
当然、これが突破口となったのは言うまでもない。
その後も戦闘は続いたものの、鱗ごと両断され深手を負ったリザードには
もはやこちらに迫る程のスピードもパワーもなかった。
こうなれば勝負は決まったようなものだ。
…雑魚が立ちはだからなければ良かったものを。
「あ、あの!もう…」
「ん、ん…?」
「死んでいます…これ以上はやめましょう」
小さな両手が俺の腕をぐいぐい掴む。
気づくと何度何度もリザードだったものに刃をつき立てていた。
何だ…?これは俺がやったのか?
「と、とりあえず…、報告に戻ったほうが…」
きっと疲れているんです!そう、少し休みましょう!」
「あぁ…」
彼女に促され、俺達はアレクシアンへの帰途に就くのであった……。