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北風と太陽

 暖かな日曜日の空に雨が降り始めた。


 天気予報を知っていたらやっと降ったか、などと余裕を見せつけることもできたのだろうが今日の彼女には急に冷え込んだ風に驚くことしか許されていなかった。特に外出する予定のなかったことだけが救いと言っても良いかもしれない。


 彼女は何もない休日に何もしていなかった。普段よりも少し遅く起きたが、ただそれだけ。ゆっくりと朝食をとって、猫のように寝転がって。時たま目を閉じてはもう一度開けて。


 そこに突然、心臓を力の限り掴み、意識を世界に戻させるような雨音が聞こえ始めたのだ。ぽつり。小さな雨粒が勢い余って固い地面にぶつかる音は次第に大きくなり他の色を許さなかった白き雲もついには灰色に染まった。彼女が感じたのは、優柔不断な気温の気持ち悪さ。扇風機を回すと寒い。何もしないとじんわりシャツの奥から汗が滲む。


 彼女はひらめいた。窓を開けてしまえ。冷えた空気を部屋に通してしまえ。その寒さの中で身体を布団に潜らせれば、私の望む心地よさを得られるだろう。


 そうして、今日唯一の仕事をした彼女を、己の快楽のみを追求した彼女のことを柔らかく包んだ布団はさらに優しい言葉をかける。


 「もっと力を抜いて目を閉じてごらん。そうすると寝てしまうって?大丈夫、空には厚い雲がかかっているから。もう太陽はこちらを見ていないよ。君はいま自由の海を泳いでいる。何をするにも、君がしたいことを現実にしたら良いだけなのさ」


 どれくらい眠っていたのだろう。とても深い眠りから彼女は目を覚ました。雨など全くもって関係ないとでも言うように、それは風そよぐ草原に身を委ねているようだった。


 雨の音は大きくなって空は先に開ける世界が見えないくらいの黒さになっていた。ふと目線を下げると、開けていた窓の下には外から跳ねてきたのであろう雨によって濡れている床。彼女は雑巾で濡れている場所を丁寧に拭いた。そして雑巾は先程までの温かい落ち着きさえをもぬぐった。


 彼女は思った。


 こうして世界は回るのだ。


 彼女は思った。


 この逆もまたあるのだ。


 「明日」よ、覚悟したまえ。私がすぐに降り立ってやろう。

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