ダメ姉が恋アプを始めた
ダメ姉が恋愛アプリにハマりだした。
課金してないのが唯一の救いだが、ゲーム内のイベントがあるからと1日の大半をスマホに向き合ってるのは止めたほうがいいと思う。
「時間は大切にしなよ」
「大事にしてるわよ! フィーバータイムでステ上げしないと、早期クリアできないんだから! 」
限定アバや限定シナを入手しなきゃいけないらしいが、それが生活の役に立つのかが大きな疑問だ。
冬季オリンピック終了後、燃え尽き症候群に陥った姉は消し炭の如く、日に日に無気力化していった。早急に新たな火種を与えないと、クズがチリと化しそうだなと心配しかけた矢先。
「戦国武将サイコー! 鏡の世界にこんにちは! 」
突如として奇妙な言葉を発し始めた姉は数日もしないうちに、画面のなかのイケメンたちに夢中になっていた。
「とりあえず、食事中にスマホ弄るの止めような」
行儀が悪いのもあるけど、視覚的に不愉快だ。箸のひとつも運んでないのも腹立たしく、せっかく作った料理を機械的に消費されるのも好きじゃない。
こんなにもクズ度がアップするなら、塵と化して風に飛ばされてくれたほうがましだった。
「テレビはいいのに、スマホはダメなんて理不尽だよ」
「料理も作らなければ、使い終わった食器も洗って片付けることもしない、そんな姉さんに拒否権があるとでも? 」
洗濯と掃除機をかける以外は、ほぼ一日中ダラダラとしてるのだから、これくらいは妥協してくれないと困る。
洗濯物だって干すまでは完璧だけど、それ以降は気分次第だ。ほぼ、取り込むことも、畳んでタンスにいれることもないけれど……
「フィーバータイムに合わせて体力フルにさせてたのに。数値も上げられないまま時間が1分1秒と過ぎていく……私の体力が! 」
半泣きで納豆をかき混ぜる姿は喜劇そのものだ。オリーブオイルを入れる忘れないあたり、うじうじしていてもまともな判断力はあるようだ。
「無駄な時間が減って良かったな。それよりも、現実の体力でもつけろよ。スタミナも免疫力も人並み以下なんだから」
少しの雨に濡れて風邪をひき、遊びにいけば翌日には筋肉痛。そんな姉の世話をするのは当然ぼくしかいない。
アプリに使う時間があるなら、軽い筋トレもいいから自分のための時間を使ってくれたらいいんだけど……
ぼくの手元にあるスマホを恨みがましく眺めながら、食卓にカビを生やしそうな姉には何を言っても通じないだろう。
この異常な執着心を欠片ほどでいいから、他のことに向けてくれないか。そうすれば姉の狭くて自由な世界も広がりそうなものだけど。
今は無理でも、いつかはと祈るしかない。