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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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因縁


「待って、話があるの……お願い」


息を切らしながら走り寄ってきたジェナリアがジェイの前に立ちそっと手を伸ばした。

眉を下げ濡れた瞳で見上げるジェナリアは化粧を施していても少し幼く見える。

女性目線ではあざといと思うものでも、男性目線では可愛らしく庇護欲をそそるものだと私はアーチボルトとフランで学んでいる。

小手先だけれど、中々上手い手に感心しつつジェイの反応を窺った。


「……用件はなんだ」


でも、憎しみを抱く相手にそれをしたところで火に油を注ぐだけらしい。

ジェナリアの伸ばした手を払い、深く息を吸い込み吐き出したジェイに腕を取られ背後に追い遣られた。

溢れ出しそうになる殺意を、必死に押し込めているジェイの背にそっと手を当て、宥めるかのように摩る。

これ以上煽ると大変なことになるわよ……とジェイの背からジェナリアに念を送ってみたが、そもそも彼女にジェイが強く出られない理由は連帯責任でエルヴィス王子が処罰を受けることを回避する為。

それをわかっている上での暴挙なのだから、ジェナリアが止まるわけないか……。


「ごめんなさい……怒っているわよね。私が全て悪いの」

「……」

「もう元には戻せないけれど、ジェイに側にいて欲しい……離れていかないでっ……」


夢を叶える為に狂気に身を染めたお姫様と、それを側に居て止められなかった婚約者。

零れ落ちる涙を拭うこともせず、真っ直ぐジェイを見つめるジェナリアの唇から紡ぐ甘い言葉に、何か思うことはないのだろうか……。


「いい加減にしろ。下手くそな芝居は俺には通用しねぇってわかってんだろうがぁ」

「……ジェイ」

「お前も奴隷相手に無駄な芝居してるほど暇じゃねぇだろ。さっさと用件を言え」


舌打ちしながら「気味が悪い」と吐き捨てるジェイは、そうだった、疑わしきは罰せの男だったと小屋で彼が襲い掛かってきたときのことを思い出した。

それに至った経緯も理由も聞く耳など持たず、結果だけで判断する。それが、ジェイという男。


【守ってあげたい】とか【俺がいなきゃ】なんて保護本能一切ないんだろうなぁ……。


さて、ジェナリアはどう出るのか。

まだお芝居を続けるのか、それとも癇癪を起すのか。

この世界の女性は皆逞しくて先が読みづらいのよね……。


「……昔と、何も変わっていないのね。涙を流す女性にすら冷たい態度」

「お前もあの頃と何一つ変わってねぇだろうがぁ。今度は何が欲しくて俺等を差し出す気なんだ」

「ねぇ、ジェイ。知っていたかしら?私、貴方のことがずっと嫌いだったの」


乱れた髪を後ろに流し、涙の残る頬を手で拭い、庇護欲を誘っていた表情をガラリと変えたジェナリアは、怪しいほどに艶めかしい。

夜会前、ジェイに「お前は簡単に騙されそうだ」と言われた言葉を思い出し片手で目を覆った。帝国の魔女やジェナリアといい、何で一癖も二癖もあるような女性ばかりとこうも関わらないといけないのか……。


「奴隷に落ちて惨めな思いをすればいいと、そう思っていたのに。貴方がそんなに強いなんて予想外だったわ。まぁ、だからこそセドア様やエルヴィス王子が欲したんでしょうけど」

「どういう意味だ?」

「知らなかったの?戦争の切っ掛けは貴方よ」

「……」

「やだ、本当に知らないのね。騎士として名の知れていた貴方に、エルヴィス王子が目を留めたのよ。それに気づいたセドア様が貴方をエルヴィス王子より先に手に入れようとしたの」


唖然とするジェイを嘲笑うかのように、ジェナリアは口角を上げその口から毒を吐き続ける。


「オルソン国から何度も書状が届いていたわ。私をセドア様の側室、ジェイを騎士として迎え入れると。それに対してお父様は決して首を縦に振らなかった。私がどれだけ望んでも、国の為、私の為だと言って。ただ優秀な貴方を手放したくなかっただけよ」

「……小国の王女が大国でやっていけるわけがねぇだろうが。国王はお前の幸せを考えて断ったんだろ」

「戦争になったのは私の所為だと思っているでしょ?でも、違うわ。寧ろ、私は戦争が長引かないよう城門を開け、城にオルソン国の騎士を招き入れた。民の為にね」

「……それの何処が民の為だ。お前は私利私欲の為に国を売っただけだろ」

「それの何がいけないの?望まなくても手に入れられるジェイにはわからない。娘の幸せよりもたかが騎士一人を取ったお父様。祖国を差し出した私よりも奴隷を望むセドア様。自分は何も関係がないと思っているみたいだけれど、選ばれるのはいつもジェイ。私が憎い?恨めしい?でも、全ての元凶は貴方じゃない?」

「関係がないなんて思ったことはねぇよ。話をすり替えるな。祖国を滅ぼしたのは、俺とお前だ」

「一緒にしないでくれる?……奴隷の癖に、結婚して幸せになろうとでもしたの?無理よ。貴方にそんな日は訪れないから」


――パチン……とジェナリアが指を鳴らすと、廊下の奥から数十人のオルソン国の騎士が姿を現した。

予め待機していたのか、それとも、彼等が来るまでジェナリアが時間を稼いでいたのか……。

王宮の出口を窺うが、馬車を呼びに行ったフランはまだ戻って来ていない。


「セドア様がお呼びよ。大人しくついてきなさい」

「……まだ俺に執着してんのかぁ?もういい加減迷惑だって言っておけよ」

「選べる立場じゃないとわからないの?この人数でも、貴方一人ならどうにかなるかもしれないけれど、そこの女は無理でしょ?あぁ、それとも、見捨てる?それも見ものよね」

「悪いが、こいつだけは何があっても見捨てるわけにはいかねぇんだよ」

「……貴方が?」

「俺の命よりも大切な女だからなぁ」


眉を顰めたジェナリアを挑発するかのように、顎を上げ意地の悪い笑みを浮かべたジェイは態と紛らわしい言葉を選んだに違いない。

私に何かあればエルヴィス王子に殺されると口癖のように言っているジェイ。確かにジェイの命よりも私の方が大切なのよね、エルヴィス王子にとっては……。


「だったら、尚更従うべきだわ。セドア様は従順を示せば寛大な方よ。そこの女も、愛妾くらいにはしてもらえるわよ?」

「そんなもんで済むと思ってんのかぁ?エルヴィスが手を出せない今を狙って、ご丁寧に騎士まで寄越して、どう考えても執着してんだろうが」

「それは貴方にでしょ……その女を餌に貴方を手に入れるつもりなのよ」

「馬鹿な女だな。エルヴィスや俺、エドルまで誑した女だぞ。お前にとっては毒にしかならねぇよ」

「だったら……仕方がないわよね?ジェイを捕らえる為に、交戦中に事故でその女の顔が引き裂かれてしまったと言えば、セドア様は許してくださるわ」


ジェナリアの声のトーンが変わり、それが合図となり騎士達が飛び出して来た。


「下がれ!」


前を見据えながら剣を抜いたジェイが怒鳴り、私は咄嗟にドレスの中に隠してあったナイフを掴み廊下の隅へと走り出した。

剣がぶつかり合う音を耳にしながら、後ろを振り返る余裕もなく、なるべく距離を取ろうと出口付近へと向かう。


「振り返るなっ……走れ……!」


あの人数を相手にどのくらい持つのか……。

このまま城内の外へ出ても、外にも城を警護している騎士が必ずいる。これ以上敵を増やすわけにはいかないと、柱の陰に身を滑り込ませた。

ジェイの強さは常人の域を超えている。

小国の騎士が大国にまで名を轟かせ、奴隷に落とされたあとも競技場で勝ち続けた。黒装束達だってほぼジェイ一人で倒していたくらい。

恐らく騎士達はジェイを捕らえることを優先させる。私を追う余裕などないだろう。

だから、私を追ってくるのだとしたらジェナリアだ。


「……ジェイ」


握り締めたナイフを見ながら、私も剣を習っておけば良かったと後悔した。

呻き声や人が倒れる音を耳にし(どうか、ジェイではありませんように……)祈ることしか出来ない。

一分一秒が長く感じられ、汗が頬を滑り落ちドレスに吸い込まれていく。

何度危険な目に合ってもこれだけは一向に慣れる気がしない。

落ち着け……と自分に言い聞かせ、見つからないよう身体を小さくしたとき、柱の陰からはみ出していたドレスの裾に気づき腕を伸ばすが、その腕を誰かに掴まれていた。


「みーつけた」

「……ジェナリア!?……っ」


私の腕を掴んだジェナリアがにぃっと口元を歪めるのを見て、咄嗟に彼女から距離を取ろうとナイフを振りかざすが、横から現れた騎士に髪を引っ張られ、そのまま廊下へと身体が投げ出された。


「……うっ」


頭を打ったのか一瞬意識が途切れたような感覚にゾッとし、急いで身体を起こそうとしたが、肩に激痛が走り中々起き上がれないでいた。

しかも、唯一の武器を手から離してしまい唇を噛み締めた。


「逃げるのはお終いかしら?大丈夫。ジェイを殺したりなんてしないわ。セドア様に怒られちゃうもの」

「……ん、ぐっ」


起き上がる前に再び床に引き倒され、私に馬乗りになったジェナリアに首を絞められる。


「でも、貴方は別よ。その顔、ぐちゃぐちゃにしてあげるわ」


ジェナリアが片方の手を外したことで空気が肺に流れ込み、霞む視界で眼面に迫って来る短剣を捉えながら、必死に彼女の首へと手を伸ばした。


レイトンが、もしコレを使うようなことがあれば、首元が一番効果が高いと言っていたからだ……!


「……ジェナリア、やめろっ!!」


きっとジェイは間に合わない。

寧ろ、よくあの人数を押さえていたと讃えたいくらいだ。


嵌めていた指輪の側面を親指で弾き、そのままジェナリアの首へと押し付けた。


「……痛っ!?何、今、なに、をっ……!」


実際に使ったことがなかったから不安だったけれど、どうやら成功したらしい…

ジェナリアの握っていた短剣が手から床に滑り落ち、彼女は何が起こっているのか分かっていないのか唖然としたまま固まっている。


指輪の側面を弾けば中に仕込まれている針が飛び出す。その針には麻痺薬が塗られていて刺された相手は瞬く暇もなく動けなくなると兄が言っていた。

大国の王太子であるからこそ常に周囲を警戒し、武器となる物をあらゆる場所に仕込んでいた兄の秘蔵の一つがこの指輪。


借りていて良かった……と安堵していたら、目を見開きながら思うように動かない唇に手を当てたジェナリアが、そのまま私の上に崩れ落ちてきた。


「……いっ……!このっ……」


骨に異常はなさそうだが、打撲は絶対にしていると断言出来る身体に人が倒れてくればその衝撃は凄まじいもので、痛みに小さく悲鳴を上げ、ジェナリアの下から這い出ようとしたとき頭上を風が通り過ぎた……。


「姫様!」

「……クレイ?」


上に乗っていたジェナリアが蹴り飛ばされたのを間近で目にし、それを行った者が司教の恰好をしていることに目を疑ったが、フードを下ろし隠れていた顔が露わになったことで納得した。


寧ろ、蹴られただけで済んで良かったわね……ジェナリア……。


「あぁ、頬が赤い……首も……っ……私がいながらこのような目に合わせるなんて……」

「落ち着いて、クレイ。私は無事よ。お兄様から預かっていた指輪のおかげだわ」

「麻痺薬ですか……何故即死の毒を入れておかないんだ、あの能無しがっ!」


今にも泣き出しそうなクレイに優しく抱き起こされながら、あのレイトンを能無し扱いするのはクレイだけだと苦笑した。


しかも、即死って……即効性の麻痺薬も結構凄い物だと思うのだけれど。


いつの間にか衝突音が鳴り止み、周囲が静かになっていることに気づき「ジェイは!?」とクレイに詰め寄っていた。

彼女の身体に阻まれ通路の奥が見えず、かと言って立ち上がることも出来ない。焦る私にクレイは何故か苦虫を嚙み潰したような顔をゆっくりと上に向けた。


「そいつ、お前の知り合いか?」

「……無事なのね!?」


真上から聞こえた声に驚き、それがジェイだと認識した瞬間思わず叫んでいた。


「怪我は!?」

「ねぇよ……つーか、お前も少し落ち着け」


ジェイは呆れた顔をしながら何でもないように振舞っているが、整えてあった髪は崩れ、彼が手にしている剣も、隊服も、真っ赤に血で染まっている。

どれだけ激しい戦闘が行われていたのか……。


「それで、奴等も仲間か?」


ポスッと頭にジェイの手が乗り、そのまま顔を動かされ廊下の奥へと向きを変えられ、目にした光景に口元を引き攣らせた。


「ジェナリアがお前の方へ向かう前に乱入してきたんだよ。そいつもそうだが、最近の司教は随分と荒っぽいな……」


金糸で刺繍が施されている絢爛な大司教の祭服とは異なるが、司教の祭服も染み一つない純白の物である。

普段の清廉潔白を絵に描いたような、気品すら漂わせている風貌はガラリとイメージを変え、祭服を赤く染めた司教達が倒れ伏しているオルソン国の騎士達を容赦なく甚振っている……。

意識が無い者は執拗に徹底的に嬲られ、まだ辛うじて意識が有る者は何やらドス黒いオーラを放っている司教二人組に見下ろされ泣き叫んでいる。


そんな地獄絵図を作っている司教達を止めることなく静かに一瞥し、此方へと優雅に歩を進めて来るのはルーティア大司教だった。


「……私の心臓を止める気か、この、大馬鹿者が」

「ルーティア大司教……」

「少しも目が離せない……全く、手のかかる小娘だ」

「私も不本意なのよ?」

「箱庭から出るからだ……おい、アレは止めないのか?」


アレとルーティア大司教が指しているのはまだ暴れている司教達で。

私の管轄ではないと首を振るが、何故か可哀想な者を見るような目でルーティア大司教とクレイに首を振り返された。


騎士と剣で互角以上に渡り合える司教など聞いたこともない。

だとしたら……アレって……。


「やっと気づいたか」

「……教えてくれたら良かったのに」

「そんな暇などなかった…………」

「ルーティア大司教?」


穏やかな笑みを浮かべていたルーティア大司教の顔が、ある一点をジッと凝視したまま無表情へと変わっていく。

何事かと彼の視線を辿れば、そこにはジェイの手が置かれているだけ。

首を傾げながら視線を戻すと、無表情どころか、肩を震わせ顔を赤くしているルーティア大司教がいた……。


「そこの、いつまで小娘に触れている。手を離せ!」

「あぁ?ってか、なんで大司教が……大司教だよな?」

「私のような人間は世界に一人しかいない!それよりも、その手を退けろ!それは、私の親友だ!」

「あぁ?」

「離せ、この!」

「おい、腕を叩くな……コレが本当に四十手前のおっさんか?ガキにしか見えねぇんだけど」

「ガキ……!?ガキだと……私が……」


手をどけたジェイは怒りで震えているルーティア大司教に「やっぱ、ガキだな」と口にして止めを刺した。

次代の教会最高権力者と呼ばれるルーティア大司教は今迄誰にも「ガキ」などと言われたことがないだろう……。

薄々感づいてはいただろうけれど、教会関係者も兄も、悪戯をするルーティア大司教とセリーヌをずっと眺めていたクレイですら口にしなかった言葉なのに。


「おい、小娘……なんだ、この男は!」


……なんだと言われましても、恐らくその子供っぽい仕草がいけないんだと思いますなんて口には出来ません。


「聞いているのか!?」

「聞いているわ。でも、その前にやらなくてはならないことがあるでしょ?」


クレイに手を借りて立ち上がり、司教達を回収するべく動き出した。

倒れている騎士を足で退かし道を作るクレイに苦笑しつつ、まだフードを目深に被って顔を隠している司教達に声をかけた。


「迎えに来てくれて、ありがとう」


――バッ……と音がするほど勢いよく振り返った司教達が一斉にフードを下ろし、床に膝をついた。


「ご無事でなによりです……」

「……良かった。本当に、良かった」

「護ることが出来ず、申し訳ありませんでした……」


ウィルス、テディ、アデル、私の専属護衛騎士達が迎えに来てくれた。

彼等の目には一様に後悔や自責の念が見え、そのことに胸は痛むが、ここで時間を取られるわけにはいかない。


「ゆっくり話すのはあとよ。でも、これだけは言わせて。あのときも、今も、護ってくれてありがとう。生きていてくれて……良かったわ」


生存確認すら出来ずにいたから、あのあと彼等はどうなったのかと不安で堪らなかった。


「再会を喜んでいる暇はないわね……」


私とフランが攫われた理由もわからず、絶対に関わらないと誓っていたセドア王子からは目を付けられてしまった。

一刻も早くこの国を出てヴィアンに戻らなくては。


「フランは?あの子がまだ……」

「アレでしたら此方に来る前に馬車を門の前に止めるよう指示しました」

「無事なのね?」

「はい。流石に城の外で騒ぎを起こすわけにはいかなかったのでしょう」

「クレイがウィルス達と共にいるということは、お兄様が動いたの?」

「姫様が攫われたあと、直ぐに侍女から報せが届きましたので」

「私を保護してくださったのはエルヴィス王子よ」

「わかっております。日を置いてエルヴィス王子から報せが届きましたから。それと、港が封鎖されていることはご存知ですか?」

「えぇ。船は使えないの?」

「いえ、教会の船だけはその対象になっておりません。ですから、このまま船へと移動します」

「それでルーティア大司教も来たのね」

「……当然だ」


胸を張っているが、大司教様が式典や公の場が大っ嫌いだなんて、それで良いのだろうか……?


「姫様、そろそろ移動を」

「エルヴィス王子には……」


誰か伝えてくれるのだろうかと周囲を窺い、黙ったまま立ち尽くしているジェイと目が合った。


「……お前」


警戒するような眼差しをジェイに向けられるのは、あの小屋以来かもしれない。

彼から視線を外さず互いに見つめたまま、先に目を伏せたのはジェイだった。


「……いや」


言いかけた言葉を飲み込んだジェイが何を思っているのか私にはわからない。

でも、彼がもし追及してきたとしても、私は答えなかっただろう。

このまま知らずに別れるのが彼にとって一番良いと思うから。


「ほら、急いでんだろ?港までは付き合ってやるから早くしろ」

「必要ない」

「セドアはしつこいぞ?」

「だが、必要ない!」


勝手に同行を決めたジェイにルーティア大司教が噛み付いている間、クレイが私に予備の祭服を頭から被せフードで顔を覆い抱き上げる。

数分にも満たないこのクレイの動きを注視していたウィルス達に「真似しなくて良いわ」と一応釘をさしておいた。

ブレアもそうだが、何故かクレイの真似をしようとする人がラバンでは続出したのだ。

その筆頭が兄であるレイトンだけど……。


「このまま、少しお眠りになっても構いませんよ。もう大丈夫です」


クレイの腕の中で身体の強張りを解き、そっと目を閉じた。




※※※※




「……あの人達は手加減という言葉を知らないのかしら?」

「知っていても加減する気がないだけでは……」


死んではいないわよね?と倒れている騎士を爪先で小突き、廊下の端で蹲っている女の元へと態と靴音を鳴らし近づいて行く。

自身の身体を庇うかのように丸くなっている女の前にしゃがみ、そろりと顔を上げ怯えた表情を浮かべているジェナリアに微笑みかけた。


「……エル……ヴィ……」

「麻痺薬ね……指輪を使わなければならない状態だったのかしら?あとでジェイに報告させなきゃ」

「たす……て」

「どうして私が?」


期待を裏切られたかのような顔をするジェナリアに笑いが込み上げてきた。


「私の大切な子を傷つけた奴を助けるわけがないでしょ?」

「な……んで、だ……って、あな……たは」

「ん?私はジェナリア王女に懸想していたから?」


セドア兄様がジェナリアに教えたのだろう。

でも、それは、少し違う。


「ジェナリア王女に懸想し、その婚約者であるジェイを大層気に入っている。そうセドア兄様に伝わるよう噂を流したのは私よ?」

「……ぇ」

「ジェイが欲しかったの。国落としするなら、英雄と互角以上に戦える者が必要でしょ?だから、私のものを何でも欲しがるセドア兄様なら、絶対に手に入れようとすると思って」


思っていたよりも上手くいき、期待以上の戦力が手に入った。


「……わた、しは……」

「要らないわ。でも、良い実験台にはなったわね。セドア兄様が女性に興味を持てるのか私にもわからなかったし。それなりに興味は示してくれるみたいだから、次に進めるわ」

「つぎ……」

「その麻痺薬、あと数時間もすれば切れるわ。それまでそこで座っていなさい」

「いや……ま……て」

「あの子に母のドレスを着せ、夜会で私とジェイの執着しているさまを見せた。セドア兄様はそれだけであの子の価値を上げたわ。だから貴方を使ってあの子を手に入れようとした。大丈夫よ。貴方に興味を無くしていたとしても、側室として此処に居られるわ。大国の王太子に庇護されて生きていきたかったのでしょ?」

「ちが……まっ、て」

「あぁ、でもね、貴方が王妃になることはないの。だって、事が終われば、セドア兄様も必要なくなるから」


騎士を廊下の端へ移動させているカルの元へ戻ると、「地獄に落ちますよ?」と嫌味を言われた。そのときはカルも一緒だと教えてあげれば、今更気づいたのか何かの呪いのように不満を口にしながら作業を続けている。


「地獄ねぇ……」


一度地獄よりも恐ろしいものを味わった。アレ以上など何もない。


「馬は?」

「用意してあります」

「じゃあ、私達もお見送りに行きましょうか」


馬を飛ばせば出港する前に港に到着できるだろう。




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― 新着の感想 ―
[一言] 悪どーい!!まさかのジェイの国を滅ぼしたのは〇〇だったなんて…。目的のためには非道になれてしまうのがカッコよくも恐ろしいところですね。 ▶︎一度地獄よりも恐ろしいものを味わった。アレ以上など…
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