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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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大切なドレス


来客である第二王子や私を放置して楽しそうに行われていたエルヴィス王子とジェイの戯れは、カミラの「いい加減になさいませ!」の一言で収まった。

流石カミラ。彼等の扱いを心得ている。


「で、エドルはいつまで居座る気よ」


長椅子に座り直したエルヴィス王子の容赦のない言葉に、第二王子があんぐりと口を開けた。


「お前っ!まだ話の途中だっただろうが!」

「え、私は聞きたいことは聞けたからもう用はないわよ?それに、セドア兄様のお使いは終わったじゃない。はい、さようなら。お帰りはあちらよ」

「……おい、リ、リアだったか?」

「はい」


シッシッと手を払うエルヴィス王子に怒りで震える第二王子が、黙って様子を窺っていた私に矛先を変えた。

余程不機嫌なのか、歯を食いしばって睨みつけてくる第二王子の顔が王子ではなく盗賊のようだと思うのは私だけだろうか……。

可笑しい……彼も顔だけはそこそこのキラキラ王子だった筈なのに。


「……記念式典の夜会だが。その、ドレスや宝石が、必要だ」


それはそうでしょう……と答えるべきなのか。

彼は何が言いたいのだろうと軽く頷き話の続きを促した。


「そのドレスをだな……わ、私が用意しよう!」

「断るわ」


どうだ!と若干前のめりで言い切った第二王子に即座に却下を出したのは私ではない。

眉を下げ悲壮感を出しながら見つめられても、断ったのは貴方の弟であるエルヴィス王子だから。


「リアの物は私が全て用意するわ」

「お前が用意出来る物など高が知れているだろう?王城で開かれる夜会だぞ」

「あのね、仮にも王子なんだけど、私。今から仕立てることは無理でもそれなりに用意は出来るものなのよ」

「だが……」


今から用意出来る物は既製品くらいだろうか……。

王家主催の夜会で既製品を身に着ける令嬢は下級貴族か、困窮している家の者だろう。

私がヴィアン国の王妃として出席するのであれば既製品では笑い者になるが、この国では第三王子の護衛騎士の妻という立ち位置で出席するのだから別に困ることはないと思う。

寧ろ、それくらいが妥当だろう。下手に着飾れば目を付けられることもあるのだから。


「用意させてやれば良いだろ」

「ジェイ?」


(うん。必要ないわ)と自己完結していると、背後に立っていたジェイがサラリとまたエルヴィス王子のご機嫌を損ねるような言葉を吐いた。

案の定エルヴィス王子の低い声が咎めるかのようにジェイの名を呼ぶ。


「俺は隊服だからいいが、リアは一応エルヴィスの侍女だろ。みすぼらしい姿で出席させたらお前が周囲の笑い者になるんだぞ?あー、それも狙ってのことかぁ?あのクソ王子が」

「なんで揃って私がドレス一つすら用意出来ないと思っているのよ……。それに、笑い者なんてもう昔からのことでしょう?この恰好なのよ?今更一つ増えたくらい気にしないわ」

「くれるって言うんだから貰っておけば良いだろうがぁ……お前が用意したと知られたら不味いことになるぞ」

「私はジェイに頼まれて用意したことにするから大丈夫よ。良く考えなさい。エドルが女性のドレスや装飾品を用意したら、余計にセドア兄様の興味を引くことになるのよ。それに、まさかとは思うけど……エドル、アンティークジュエリーなんて用意していないわよね?」

「……」


黙り込んでしまった第二王子の反応に背筋が震えた。

待って、アンティークジュエリーって、王家に代々伝わる宝石や装飾具のことでしょ!?

そんなもの勝手に持ち出したら大変なことになる。

というか、侍女が身に着けていたら捕まるわよ!


「流石にそれは……第二王子殿下、折角の御厚意ですが、お断りいたします」

「待て、私の母上のならどうだろうか!?それなら構わないか?」


構わなくない……。それって王妃様のものでしょ。

胡乱な目で第二王子を見れば何故か焦って「では、私が買おう!」と言い出した。


「ジェイのパートナーとして顔を出すだけよ。他国の元騎士だったとはいえ、奴隷に落とされた者の連れなんだからそれなりに見える程度で丁度良いわ」

「……しかし」

「なによ、まだ何かあるの?」

「ジェナが、兄上と共に出席することになっている」


静まり返った玄関ホール。

第二王子が言いにくそうに口にしたジェナという人の所為だろうか?

女性であることは分かるが、それが誰なのか私は知らない。

隣に座るエルヴィス王子を窺うが、彼は何か考え込んでいるようで指で膝をトントン……と叩きながら黙ってしまっている。

真面目な話をしていても軽口を叩くジェイですら口を閉じてしまっているのだから、余程都合が悪い人間なのだろう。

さてどうしたものか……と正面に座っている第二王子に視線を投げかけると、彼は眉をググッと寄せドンッと拳を太腿に叩きつけ。


「ジェナは、ジェイの元婚約者だ!」


と言った。


「……元婚約者って」


それは、あのジェイの話に出て来た、あの王女様では?


「正式にはジェナリア・リトワ・ソレス。亡国唯一の王女だ」


驚いていた私の頭にジェイの手が乗り、落ち着けと言われているかのように数度叩かれた。

祖国も、仕えていた王も、家族をも失ったジェイが最後に託された王女。

元婚約者である王女を強かで平気で裏切ると言っていたが、口ではそう言ってもジェイが憎しみを堪えオルソン国にいるのは彼女の為ではないかと思っていた。

その王女が第一王子のパートナーとして夜会に出るなんて……。


「大丈夫なの?」

「あぁ?何がだよ……」

「だって、貴方の婚約者だった人でしょ」

「あぁ、あいつ、クソ第一王子の側室なんだよ。勘違いすんなよ、あいつが望んでそうなったんだからなぁ?」


それって、国の為に自らを犠牲にしたのでは?

もしくはジェイの命を助ける為に第一王子の側室に納まったとか。


「お前、言っていなかったのか!?黙ったまま結婚したのか!」


一体どういうことなのかと困惑し、ジェイにかける言葉も見つからないまま黙っていると何を勘違いしたのか第二王子が大声で怒鳴った。


「あぁ?元婚約者のことなんざ、どうでも良いだろうがぁ」

「良くはないだろ!それでは後から知った、リ、リアに失礼ではないか!」

「失礼なのは名前すらまともに呼べないお前だろうがぁ……」

「お前だとっ!お前にお前などと、私を誰だと思っている!」

「クソ王子の手下の惰弱王子だろうが」

「惰弱だと!?」

「はいはい、エドルはそこまで。ジェイも余計なことを言わないの。兎に角、夜会には出席するとセドア兄様に伝えておきなさい。リアのことに関してエドルは手も口も出さないこと。リアに何かあってからでは遅いのよ。リアを傷つけたいとは思っていないのでしょ?」

「当たり前だ」

「だったら、このまま帰りなさい。護衛を置いて来たのだから、またセドア兄様に勘繰られてもしらないわよ?」

「……わかっている。リア……夜会で、ま、また、会おう」


言い逃げするかのように小走りで屋敷を出て行った第二王子に「名前だけでアレかよ、あいつ」とジェイが吹き出していた。

この国の人達の人間関係は複雑過ぎるわ……と溜息を吐き、フランを見上げた。

視線に気づき、私に向かってにっこり微笑むフランを見て(これ、多分貴方のイベントよね?)のほほんとしているフランの頭を叩きたくなった。



※※※※※



夜会と書いて、災難と読む。

この世界では私の為だけに存在する当て字だろう。


「さぁ、リア。服を脱ぎなさい」

「……はい?」


どうせなら最初から最後まで無難に終える素敵な夜会、というものを一度でも良いから堪能してみたかった。

かなり厚待遇な地位に生まれた筈なのに、気づけば罵詈雑言、茶番劇にワインの掛け合い。碌な思い出がないというのはどういうことだろうか?


「ごめんなさい。もう一度仰っていただけますか?」


私は目の前に立つ人物に不審者を見るような目を向けた。

聞き間違い。そう、聞き間違いだ。

だって仮にも王子が、淑女に「脱ぎなさい」とか言わない。絶対に。

……いや、一名言いそうなどこぞの王太子がいるけれど、今迄言われたことがないから、ダイジョウブ。マダ、ダイジョウブ。


「聞こえなかった?服を脱いでちょうだいってお願いしたつもりなんだけど」

「今のが、お願い?いえ、そうではなくて……誰が脱ぐのですか?」

「リアが」

「……私が?」

「えぇ。私が脱いでどうするのよ。リアが、服を、脱ぐのよ?」


二度も言いやがったー!?と唖然とする私に、微笑むエルヴィス王子。

周囲に助けを求めようと視線を彷徨わせるが部屋には私と変態(エルヴィス王子)しかいない……。

侍女であるカミラは別の部屋からこの部屋へと、荷物を何往復もしながら運んでいる最中だからだ。


「私にだってドレスくらい用意出来るわよ……本当に失礼な奴等だわ。見てなさい、目にもの見せてやるんだから……ふふ、ふふふふ」


第二王子やジェイの発言を根に持っているのか、エルヴス王子がブツブツ言いながらドレスや装飾品を手に取り鬼気迫るかのように選んでいる。

強制招待された式典後の夜会のドレス選びをしているのだが、カミラが忙しいとはいえ代わりにエルヴィス王子が選ぶ必要性がわからない。


「……どれが良いかしら」

「……」


並べられたドレスと装飾品はどこから持ってきたのか、かなりの数がある。しげしげとエルヴィス王子が広げているドレスを眺めているとフッと息を吐くような笑い声が聞こえた。


「結構良い物でしょ?日数がないから既製品か……母が持っていたドレスしかないのよ。装飾品もアンティークとはいかなくても、そこそこ価値がある物だから安心しなさい」

「此処にある物はエルヴィス王子のお母様の物ですか?」

「そうよ。ドレスのデザインは少し古臭く感じるかもしれないけど、シンプルな物が多いから大丈夫。それに、ジェイのパートナーだから、これくらいの方が望ましいわね」


ベージュのドレスを手渡され、その素材の柔らかさに驚いた。


「国王が、母に贈ったものなのよ」


一国の王が寵愛していた女性に贈ったものだ。良い物でないわけがない。

ドレスの生地全体に立体的な薔薇の花が刺繍され、深く波打つドレープのスカート部分はその立体感をより引き立てている。

大切に保管されていたのか、ドレスに痛みや型崩れといったこともなくとても綺麗な状態だ。


「……素敵なドレスですね」

「母はこの色が好きだったのよ……気に入った?」

「はい」

「これに合わせるのなら、装飾品はゴールドやシルバーかしら?くすみ感のある濃い色を合わせれば年代もののドレスでも逆にお洒落な感じに見えるしね」


アンティーク感がでるということだろうか?

男性なのにそういったことに詳しいのは自身が女装をしているからか、それとも亡くなったお母様に教えてもらった知識なのか。


「リアは、家族とは仲良くしているの?」

「はい」

「そう。繊維産業大国なら、これよりももっと素敵なドレスが沢山ありそうよね」

「そうですね……でも、どんなに素敵なドレスでも、お母様から譲っていただいた物には敵わないと思います。私の場合は、お母様の物は全てお父様が自ら手をかけて作った物なので頂けないと思いますが」


それに、もし譲るようなことがあっても嫁いでしまった娘より王太子である兄のお嫁さんに渡すと思う。未来のラバン国王妃だし。


「お兄様は?もう十数年も彼の顔を見ていないけれど、手紙にはリアが可愛くて仕方がないと書いてあるわよ」

「……そうですね。お兄様はとてもお優しいです」


ヤンデレだけど……と声には出さずに苦笑すると、エルヴィス王子が嬉しそうに微笑んだ。


「リアを保護出来て良かったわ。貴方は覚えていないけれど、数日だけとはいえ一緒に過ごしたことのある顔見知りが途方に暮れるようなことが起きていたら気分が良くないもの」

「運が良かったのでしょうね」

「そうね。本当は、運になんて頼るものじゃないのだけれど……リア、その指輪は?」

「これですか?」


私の指には兄から借りている百合の紋章の入った指輪が嵌っている。もう一つあった王妃の指輪はある意味身分証のようなものだから船の上で外して仕舞ってある。


「お兄様からお借りしている指輪です」

「へぇ……あの、レイトンの物なのだから、なにかありそうね」


私の手を取り、上から下へ、左右に顔を動かしじっくりと指輪を眺めているが、触らない限りなにが仕掛けられているのか分からないと思う。


「既婚者が指輪を付けていても可笑しくはないわね。良く見なければ高価な物だとは分からないだろうし」

「そうですね」

「お守りも持っているようだし、あとは夜会でジェイから離れないようにしていなさい。私の側にって言ってあげたいところだけど、ちょっとそれだとセドア兄様が何をするかわからないから……」


そっとドレスを撫でながら、苦虫を嚙み潰したような顔をするエルヴィス王子に首を傾げていると、丁度カミラが部屋へ戻って来た。


「エルヴィス様」

「これで全部?」

「はい」

「リア、ドレスはこれで大丈夫かしら?他にもあるけれど、もっと良く見てみる?」

「いえ、それをお借りします」

「そう、じゃあ、あとはよろしくカミラ。終わったら報告にきなさい」

「はい」


一応他のドレスもまだ置いておくと言いながら踵を返したエルヴィス王子に首を傾げた。

あれ……?と拍子抜けしていると、くるりと振り返ったエルヴィス王子が意地の悪そうな笑みを浮かべ。


「服を脱ぎなさいと言ったのは、カミラがサイズを直すからよ」

「揶揄ったのですか……」

「あら、直ぐに脱ぎなさいとは言っていないわよ?それに、私も手伝えるし。ねぇ、カミラ」

「そうですが、リア様には必要ないかと」

「もう、皆して私を虐めるのだから……」


目元を押さえクスンと鼻を鳴らすエルヴィス王子の背をカミラが扉の外へと押し出した。


「では、サイズを直します」


慣れているのか、扉の外で「酷いわー!」と叫ぶエルヴィス王子の声をスパッと遮断し、カミラはテキパキと採寸作業に取り掛かる。

カミラ、やっぱり流石だわ……と再び感心してしまった。




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