同盟と責務
反応が無い王を放置し運ばれて来たお茶に口を付け待つこと数十分……やっと脳が動きだしたみたいだ。
「意味だと?どの様な言い訳をするのかと思えば、やはりラバンに捨てられた王女だな頭が悪い」
随分と頭の回転が悪いと待っていたが、回転じゃなく頭が悪いらしい。
ちょっと待ちなさい、何か聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど……。
びっくりして返答が遅れたことをどう勘違いしたのか、王は見下すような冷笑を浮かべ、ジレスは再び固まり、クライヴは痛まし気な顔をする。
何故そんな顔をされているのか分からないまま、王は愉快だという様に口を開いた。
「この同盟は帝国を牽制する為に成された大事な同盟のはずなのだがな、お前のような王女を我が国に押し付けるなど程度が知れるなラバンは」
大事な同盟?どの口が言ってるんだ、ああ、あのぷるぷるの唇か。
「……何か誤解なさっておいでですが、それは後でよろしいでしょう。では、お馬鹿さんな王の為に同盟について説明して差し上げますわね。同盟とは、二つ以上の国家が外交、軍事、政治、経済上の盟約を行うこと。または、何らかの利害、目的、思想の一致により個人同士・勢力同士が協力を約束、或いは実際に協力している状態のことですわね。
一般には、相互的武力援助を約束している場合が多いですわ。私達の場合も帝国からの支配を受け無い為に両国の王族を政略結婚させるという形で同盟を結びましたわ」
ここまでは宜しいかしら?と言い何かまた馬鹿なことを言うまえに畳み掛ける。
「ラバンとヴィアンは経済状況も武力に関しても大差ありませんわ。両国共に大国ですし近隣諸国から縁談の申し入れも同盟の申し出も数多にあります。まあ、違いがあるとすれば後継ぎがアーチボルト様お一人のヴィアンとは違い、ラバンには私の兄とまだ幼いですが弟がいますから国を傾けるような愚かな行いをする者が王になったとしても、排除して残りが王になりますわね。この違いが一番大きいのですけど」
おかわいそうなヴィアン…。
カップを持ち上げ喉を潤し、王を見るが困惑しているのがありありと感じられる。
あら、難し過ぎたのかしら?
それにしても、この人は顔に出過ぎるわね。コレで他国とやり合えるのか?
「何が言いたい?」
「コレは政略結婚です。好きでもない方と結婚しなくてはならないのはアーチボルト様だけではありません。ですが、私達は王族です、嫌だからと断われるような立場にはいませんの、どうしても受け入れられない方だとしても、蔑ろにするわけにもまいりませんし、愛情が無くとも家族だと思い大切にしなければいけませんわね」
だって、戦争になりますもの。
そう笑顔で教えてやったのに、何故三人共化け物を見るような目で私を見る?
「戦争だと……?何を馬鹿なことを」
「なりますわよ?私がヴィアンで貴方にされている事をラバンに知らせれば即開戦ですわね」
「私がお前に何をしたと……?」
言わせる気か、この愚王。
何をしただと?私に、セリーヌに何をしたかだって?
ああ、良かったこの場に凶器が無くて。王妃イベントに強制突入するとこだったわ。
「同盟の証として嫁いで来た私を蔑ろにしているではありませんか」
「蔑ろだと?ラバンにとって要らない者を我が国に引き取るだけではなく王妃に据えたというのにか?はっ、馬鹿を言うな!」
「王妃……アーチボルト様、王妃というのは王位継承者を産む責任もありますのよ」
「知っている」
「子供は天からの贈り物ではないのです。結婚してから一度も私の元に訪れない方の子をどうやって産むのですか?」
息を潜め成り行きを見守っていたジレスとクライヴの両者から一斉に視線が突き刺さる。
何、知らなかったの?クライヴは兎も角、ジレスは知らなかったじゃ済まないでしょ。
「お前との子など要らん」
なら側室も愛妾もいない状態でどうやって後継ぎをつくるんだろう。
「では、側室をおつくりになることですわ。アーチボルト様にはお慕いされている方がいますものね、その方を側室にされるとよろしいですわ」
出来るものならな。
「……ふざけるな!私はフランをそのようなものにする気は無い!もし、あの者に愛を請うなら……正妃にと」
「……アーチボルト様!!」
腹の底から絞り出すような声で言い放ったアーチボルトの言葉を遮るようにジレスは悲鳴のような声で叫び、クライヴは口元を手で覆いかおを真っ青にしている。
正妃って、それは即ち王妃よね。
はぁ〜、コレが国を背負う王かと思うと溜息しか出てこない。
愛している者と結婚し、その人との子供が欲しいという気持ちは分かる。
側室という王妃の日陰に隠れる位置にフランを置きたくないのも、まあ、分かる。
でもね、フランは平民で、しかも男。
身分がうんぬんの前に後継ぎをつくることが出来ない男なんだよ。
男三人が集まり何やらひそひそしているが、このままだと幽閉は免れても子供を産み取り上げられるコースが確実に待ち受けている。
王が愛は無くとも私を大切にしてくれていたなら、王を諌める者が少しでもいたならば私は黙って受け入れたかもしれない。
それか、記憶を思い出す前のセリーヌに自身の想いを伝え頭を下げてお願いすれば……。
もう、遅いけど……。
私は優しい王妃からグレードダウンした自分の身が一番可愛い王妃だ。
「では、王の真に愛する者を王妃に、私はラバンに帰ってもよろしいですわね?」
愚かな王の犠牲となる民はラバンが引き受けよう、属国として。