お話し合い
王の執務室。
ここには初めて訪れる……のだが。
扉まで後数メートルかで立ち止まった私にアネリが不安そうな顔で「セリーヌ様」と囁くが、違うのよ、別に王に会うのが不安だわ〜とか緊張するわ〜とがじゃなくてね、ただ単にあの真っ白な扉を見てこう嫌な記憶がね。
『じゃーん!見てよこの凝った造りの白い扉ー細部まで描かれてるのはこのゲームのいいところなの、ほら、中はね正面に机でしょ。左側には本棚が二つ、右側の広い場所に暖炉とテーブルに真っ赤ソファーが二つ!一人掛けの真っ白な椅子もねすっごい可愛いの!』
『無駄に凝ってるね……中身の薄っぺらさを補うためか?』
『薄っ!?やってから言ってよ!』
『やらない、で、何してんの今、コレ』
『今はねーお茶会。王と隊長と宰相の好感度が高いと、三人とらぶらぶお茶会ができるのだ!』
『執務室でお茶会?何、このゲーム最終的に滅亡した国を再建するシュミレーションゲームになるの?』
『ならないよー!もう、ほんと恐ろしい子だわこの子!今から王妃が来るんだけど、上手く攻略出来てればドレスに隠した果物ナイフでフランちゃんを襲うの』
『ナイフで襲うとか笑顔で言う姉さんの方が恐ろしいけど。てか、何でフラン?やるなら王様でしょ。姉さんコントローラー貸して、私が王妃動かして王様やるから』
『違うから、そういうゲームじゃないの!動かせるのは主人公だけ!やめてー返してー』
『じゃあ主人公でやるわ。大丈夫、姉さんがやってたステルスゲームなら私得意な気がする』
『やったことないでしょ!ちょっ!何でその選択肢にしたの!?』
『お茶会つまらないか?って言うから当たり前だろって、愚か者がって斬りつける選択肢がないんだけど』
『あ〜〜!!王妃イベントがあぁぁ……』
中に入ったらお茶会でした。とかだったら回れ右するわよ。
アネリから箱を受け取り下がらせ、
「セリーヌですわ、入っても宜しいかしら」
と、扉の中に居るであろう王に声をかけた。
※※※※※※※
部屋に入って机の前にいる王を見てホッとしたのも束の間、右側から視線を感じまさかと思ったら、居たよ隊長と宰相が……。
素早くある人物を確認したが、大丈夫フランは居なかった。お茶会イベントではないらしい。
いや、私も凶器になる物は持ってきてないけどね、ある意味恐怖する物は持ってきたが。
王に視線を戻すと、私のドレスを嫌そうな顔で凝視していた。あー、うん。言いたいことは分かるけど私だって不愉快だから。
淡いグリーンのドレスはアーチボルトの瞳の色に似せて作らせたもの。私も嫌だったがこれ系の色しか無かったのよ。
セリーヌの愛が重たい……血筋だな、うん。
さて、事と次第によるとは思ったが。
「コレはどういう事でしょうか?」
「……何がだ?」
右側に居る人物達をチラ見して問いかけたが王は首を傾げるだけ。
呆れて物も言えないとはこの状況を言うんだと思う。訝しげな顔をする三人の男共の綺麗な顔を気の済むまでグーで殴りたい。
アーチボルトは机から移動し、私が来たことによって立ち上がり様子を見ていた二人に手で座れと合図し、偉そうにソファーに座り足を組んだ……。
「どうした?さっさと座れ」
この人、本気で言ってるの?どうしただと?えー、もう宇宙人にしか見えないんだけど。
コレと話し合うとか無理でしょ。
「私、二人だけでお話しをしたいと伝えたはずなのですが」
可笑しいですわね?と首を傾げると空気を読めないのか、敢えて読まないのか、優しい隊長が口を挟んだ。
「私達がこの場に居ては何か都合が悪いのでしょうか?王が貴方に問い質したいことがあるから呼んだと聞いて、私も同席を」
おい、優しい隊長さん。貴方の頭の中は何が入っているの?その素晴らしい筋肉が詰まっているのか……この脳筋。
「クライヴ・アルマン。貴方はいつから私より立場が偉くなったのかしら?言葉をかけて良いと許可しましたか?」
「……すみませんでした」
躾がなってないわね。
「正確には王が人の目がある城の廊下で訳のわからぬ事を言って騒いだので、見苦しいから後ほど執務室へ伺いますとその場を収めましたわ」
何をどう改ざんしたら王が私を呼び出した事になるのだ。
「あれ以上の醜態を晒さずに済んだと褒めて欲しいぐらいだわ」
「醜態だと?」
あら、口から出ていたらしい。態とではないのよ?ほら、顔しか取り柄がないのだから眉間に皺を寄せると跡がつくからやめとけ。
「少々宜しいでしょうか?」
にこやかに尋ねてきたジレスに「どうぞ」と促せば「アーチボルト様」とジレスの美声で室温が下がった気がする。
「私達が聞いていた話しと違うみたいなのですが、どういう事ですか?」
「……確かに、人の目がある場所で尋問したが、緊急時だった」
「緊急時、ですか?」
「ああ、普段から何を企んでいるのか分からない女がフランに笑いかけるなど、何かする気に決まっている。それを問い詰めようとしただけだ」
「……は?」
この人何を言ってるんだ?と口を開けたまま困惑顔で私を見るジレスを一瞥し王を見据える。
私だってこの人何を言ってるんだと呆れているんだから私に縋るな。
「正直に言え、お前はあの騎士に何をする気だ」
「女、お前と……王は私を何だとお思いで?微笑みかけただけで企むなどと言われても、それに、たかが一騎士に私が何をすると?」
「一騎士だと?お前は私がフランを愛しているから害そうとしているのだろ」
王様の頭の中は花畑なのかね?要はアレか、王を愛している私が王に愛されている者がいると知った、嫉妬した私がフランに微笑んだのを「お前、覚悟しておきな?」と見えて慌てたと?そんな感じだろうか。
なるべくオブラートに包んで聞いてみれば、何を今更、と頷く王。
どうしょう、訳が分からないこの人。
聞きたい事も言いたい事も有り過ぎて疲れるわ。
取り敢えず、王と向かい合う形で真っ赤なふかふかのソファーに浅く腰掛け手に持っていた木箱をテーブルに置く。
一斉に木箱に視線が集まるが、コレ最終兵器だから、リーサルウェポンだから。
開けるのは貴方達次第ですよ。
「お聞きしても宜しいかしら」
木箱から私に意識を戻させついでににっこりと笑ってやった。見た事が無いと言っていたから見せてやったのだ。
固まったまま動かない王に、手の中のカップを落とす宰相、何度も瞬きする隊長。
三人共面白いくらいに反応してくれる。
「アーチボルト様、同盟の意味をご存知ですか?」