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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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敵か味方か、悪党か



訳も分からず攫われ、一縷の望みをかけた相手。

黒目黒髪、細身の体型は騎士に比べれば頼りないが、捲られた袖から見える腕は適度に鍛えられている。

腹部を殴られ、頬を叩かれ、あろうことか小汚い男達を嗾け『セリーヌ・フォーサイス、お前は本物のセリーヌなのか?』と意味深な言葉を残して去って行った男。あの時と違っているのは彼の片目を眼帯が隠していることだけ。

間違える筈がない。

絶対に忘れるものかとあの夜、暴漢に追われながらも誓ったのだから。


「何故かは、私が知りたいわ」

「……嘘だろ。なんだって、あんたがこんな所に」


本気で驚いている様に見えるのは演技では……ないと思う。あの夜会の日ですら始終無表情だった男が目に見えて慌てているのだから。

だとしたら、この黒髪が私達を何らかの理由で後宮内から攫わせた黒幕ではない可能性がある。

敵であるならば対話など無意味。黒髪が味方である線は限りなく薄い。

でも、どちらでもなく中間に位置しているのであれば、交渉次第では何とかなるかもしれない。


「お話がしたいのであれば、先ずはこの縄を解いてもらえないかしら?」

「……縄っ!?どこの馬鹿がこんなことを」


目を見開き私を凝視したまま動かなかった黒髪は、拘束されている事を伝えると慌てて動き出した。背後に回った黒髪を目で追い、ナイフを出したときに肩が跳ね、咄嗟に顔を背けてしまった。


「……傷はつけない」


ポソッと呟かれた言葉に反応する前に拘束は緩み、手が自由になった。かなりきつく縛られていた手首は微かに赤くなってはいるけれど支障はない。

手を摩りながら黒髪の様子を窺ってみるがさっさとナイフを懐にしまい、何かしてくる気配は無い。安心する事は出来ないが、兎に角身体が自由に動けるようにならなければ何も出来ない。

気合を入れ、黒髪の顔を見上げながら手を差し出したのだけれど。


「……」

「……」


戸惑っているのか、反応の無いまま私の手を見つめ続ける黒髪に早々に見切りをつけた。

両手を伸ばせるだけ伸ばして黒髪の腕を掴み、そのまま自身の腕に力を入れ背中を擦りながらズリズリと身体を持ち上げた。

結構な力で引っ張ったのに身体がぶれる事もなく真っ直ぐ立っている彼は、適度にどころかかなり鍛えているのかも知れない。

私は胸をぶつけたり背中が擦れたりと大ダメージを受けたというのに……この野郎。


「足も縛られているの。出してくださらない?」

「……」


また無言のまま、何かを諦めたような表情で黒髪は私を抱き上げ、そのまま足の縄もナイフで解いてくれた。

乱れた髪を後ろに払い、余裕のある態度を心掛けながら周囲に視線を走らせる。

後宮から連れ出されたあと放り込まれていた場所からは移動していないらしい。私が押し込まれていたものは人一人分が入る木箱。同じ様な物が室内には数個あり、青年の仲間と思わしき者達が開けている。

そして、床に転がっている男は先程この青年に怒鳴られていた者だろう。蹲ったまま震えている。


「もう一人、私と共に連れて来られた者がいるのだけれど」

「……は?」

「木箱の中だと思うのだけれど」

「おいっ、全員この部屋から出ろ。こいつも連れて行け」


黒髪が指示を出すと、木箱を開けていた者達は文句を言うこともなく転がっていた男を連れ皆部屋から出て行ってしまった。

仲間割れ……または黒髪の敵。怒鳴っていた内容からして第三王子の領土に勝手に侵入した敵を黒髪が捕えに来たという事だろうか?

王族の手の者なら、それなりに身分があり表に出ている者と、身分は無いけれど影として裏で動いている者との二通り。ヴィアン国の夜会に忍び込むくらいなのだから、恐らく黒髪は裏の者なのだろう。

私が思案している間に木箱の開封が進んでいたらしい。まだそれなりに残っていた木箱は最後の一つになっていて、黒髪は乱暴な手付きで蓋を外しそのまま覗き込む形で動きを止めてしまった。


「……」



多分……というか、確実にフランが入っていたのだろう。王妃だけでなく王の愛妾まで居たらそれはビックリよね。


「……こいつはお姫様か?なんでこの状況で寝ていられるんだ?」

「彼も出してあげてくれるかしら?」


結構騒いでいたのに、フランはまだ寝ているらしい……。

一応騎士であるフランは警戒対象なのか、腕の縄はそのままに床に転がされた。

すやすやと可愛らしい顔で寝ているフラン。

頭を抱え蹲り、小声でブツブツ何か言っている青年。

これは助かったのだろうか?それとも更に状況が悪化したのだろうか?

どちらとも言えない状況に、さて……どうしようかと木箱に寄りかかっていると、部屋の外から声が聞こえてきた。


またか……と若干身構えながら耳を澄ませて後悔した。


「……だろぉ……息の根、止めておけや!……が……ぶち殺すぞ!」


物騒な言葉を吐く危険人物が確実に近づいて来ている。

いやいや、まだ分からない。良い人かも知れないわよ……?とかそんなの全くない。もう言動が悪党そのもの。これ絶対に不味いパターンだわ。

段々と足音と男性の声が鮮明に聞こえるようになったと思ったら、室内の扉がガンガン……!と物凄い勢いで叩かれ、私だけでなく黒髪までもが慌て始めた。何故に?


「……待て!入るな!」


意気消沈していた黒髪は、扉の外に確実に居るであろう危険人物が中に入って来るのを止め、素早い動きで自身が着ていた外套を私に頭から被せてきた。

急に視界が暗くなり慌てて払おうと手を動かすが、それを邪魔するかのように頭を押さえられ「聞け」と耳元で囁かれた。


「今外に居る男に顔を晒すな。絶対に名を口にするな。もしばれても、白を切り通せ」


黒髪は変な緊張感を漂わせながら一息で喋ると、寝ているフランの上着を脱がし丸めて木箱の裏に放り投げてしまった。


その間も叩かれ続ける扉と……。


「部下を叩き出してナニしてんだぁ?」

「入ってもいいのかぁ?女を連れ込んでるらしいじゃねぇかぁ。あぁ?」

「おい、そろそろぶち破るぞぉ?」


止まることなくかけられる言葉の数々はふざけてからかっているようにも聞こえるが、掠れるような低い声に何故か妙な迫力があり焦ってしまう。


「おいっ、起きろ……おい!」


それは黒髪も一緒なのか、目を覚まさないフランに苛立ち何度も頬を叩き出した。

次第にフランの頬を叩く力が強くなり、最終的には勢い良く身体を揺さぶらり始め「んっ……」とフランが声を出した瞬間思いっきり頭を殴っていた……。

アーチボルトを筆頭にヴィアン国の上位三名(内一名は微妙だけれど)が骨抜きにされた美少年を、何の躊躇いもなく思いっきり殴れるとは。私の目から見ても寝ているフランは本気でお姫様に見えるのに。


「……痛い?」

「黙れ」


頭を摩りながらキョロキョロするフランの顎を掴み、一言で黙らせた黒髪はフランの耳元に顔を近づけ何か話している。

トロンとしていたフランの瞳が一気に開き、目線が私を捉えた。

状況を整理する時間を上げたい所だけれど、扉の外にいる人間は待ってくれそうにない。

木箱の上にかけられていた大きな布で黒髪にグルグル巻きにされているフランは、視線で何やら訴えてきたので自身の口元に指を当て黙っているよう促した。


「もういいかぁ?ちゃんと服は着てるんだろうなぁ?」


一体どういう意味よ!?と思わず声に出しそうになり咄嗟に口を噤む。身バレしたら不味い相手に態々自分から関わってはいけない。相手は精神年齢が幼稚園児くらいの子供だとでも思っておけば良い。


――でも、此方側にも幼稚園児がいたらしい。


「いい加減にしろ!そんな下世話な勘繰りをするな!」


隊服を隠す為かフランの首元で布をキュッと結んだ青年が扉に向かって吼えた。

敢えて無視していたのにどうやら色々と我慢が出来なかったらしい。

気持ちは大変良く分かるのだけれど、返事をすればどうなるかなど想像出来るでしょうに。


「……なんのことだぁ?」

「このっ……!」

「入るぞ」


やっぱりそうきた。此方側に返事をする余裕があると思ったら踏み込んでくるでしょうが!

扉が開く瞬間、黒髪の言う通り外套で顔を隠し咄嗟に俯いた。


「へぇー、女が二人とかやるじゃねぇかぁ」

「……」


私のドレスは下半分くらい外套から出ているし、フランは顔を隠していない。

あの顔じゃ女性認定されても仕方がないと思いつつ、足元しか見えない状況でジッと息を殺し存在を消そうと試みた。

室内に入って来た人物の不興を買うのは得策ではない。だとしたらその人物を多少なりとも知っている黒髪の指示に従い大人しくしているに限る。

緩い喋り方だけれど、アデルが態と出す調子のよさとかそういったものではない。もっと緩いのにドスの効いた……血の気が引くような恐ろしい感じというか。

このまま黒髪だけに意識を向け、そのまま何処かへ去ってくれないかと前世の私であったなら絶対に信じない神という存在に祈った。ひたすら心の中では「私は空気。私は無機物!」と繰り返した。


「で?そいつらは何処から入って来たんだぁ?」


……まぁ、無理よね。分かっちゃいたけれど出来れば素通りして欲しかったわ。


「奴等、最近頻繁にチョロチョロしやがって。面倒だからなぁ……さっきの奴とそれ、纏めて処分するかぁ?」

「この二人は違う」

「あいつに害を及ぼす芽を摘むのが俺の仕事だ……さっさと寄越せよ」

「別件で潜入させていた、あの人の間者だ」

「別件ねぇ……おい、そこの顔を隠している奴。それ取って顔を見せなぁ」

「おい!」

「なんだぁ?それすら駄目ってか?」


目線の先には私の靴しか見えていなかったのに。目の前まで近づいて来ていたのか、茶色いブーツの先が見え低い声が直ぐ上から聞こえてくる。黒髪が止めていなければ外套を剥ぎ取られていたかも知れない。


「なら、俺の名前くらいなら知ってるよなぁ?お前のご主人様の側近くらい顔を見なくても分かるだろぉ」

「ジェイ!」

「お前が言ったら意味がないだろうが……なんだぁ?何を隠してんだぁ?」

「この二人はあの人のものだ。ジェイには関係がない」

「あいつの事で俺に関係無い事は何一つないだろうがぁ」

「……」

「……そんなに厳重に情報を管理しているって事は、あの女のとこのか。知ってるかぁ?あの悪女、皇帝まで誑かしたらしい。大した女だよ、帝国の魔女より質が悪いなんてなぁ」

「お前、それをあの人の前で言ってみろ……殺されるぞ」

「そりゃあ本望だな」


嘲るような口ぶりで語られた内容に息を飲み、外套を掴む手を握り締めた。

まさかとは思うが、悪女とか私の事ではないわよね……?帝国の魔女ってロメナのことだから……皇帝を誑かしたって、私?


「邪魔すんなよ」


軽くショックを受けている間に男が動いたのか、黒髪に腕を掴まれ庇うかのように背に隠されていた。


「まだ疑っているのなら直接あの人に聞け」

「疑うのも俺の仕事だろうがぁ……まぁ、いい。中は調べ終わったからそろそろ戻るかぁ」


前が見えない状態での移動とかどうしろと……。

フランも全体的に布に包まれていたけれど歩けるのだろうか?


「……俺の服を掴め。側からは絶対に離れないように」


軽く頷き黒髪のシャツの裾を掴みゆっくりと歩き出す。いつの間にかフランも青年の横に並び、私は二人の背に隠される形で移動している。


「そんな警戒しなくても手は出さねぇぞ」

「興味本位で近づかれては困るんだよ」

「そんなに大事な間者なら箱にしまって隠しとけ」

「……」


……箱の中に入っていたものね、私とフラン。

再会したときの状況でも思い出しているのだろうか。黙らないでほしい。そこの危険人物が此方に話しを振ってきたら困るのよ。


「さっきの男はどうした?」

「あぁ?アレは後で色々調べる事があるからなぁ……まぁ、今はまだ生きてるだろ」

「可笑しくはないか?」

「……これだけ狩られてんだ、そろそろ頭くらい使ってくんだろぉ」

「手口を変えただけならいいが」

「今回は持ち出された物は何もなかったなぁ……」

「前回のような事があっては困る。しつこいからな、あちら側は」

「王太子は第二王子と比べたら多少は賢いからなぁ。それでもあいつには敵わねぇが」

「おい」

「……そいつらは敵じゃねーんだろ。だったら平気だろ、なぁ?」


敵か味方かと聞かれたら……黒髪は私の敵だ。

首を横に振って拒否したい所だけれど、小さく頷いてしまった。

……前方からの危険人物から放たれている圧力に屈してしまった。


「散々命狙っといて、利用価値があると分かればあいつの領内をコソコソ探りやがって。挙句、荷物検査だぁ?俺等が居ない時を見計らって適当な理由つけて掠め取りやがって。あいつらは恥って言葉を知らねぇみたいだなぁ」

「……あの人が何も言わないからな」

「何を企んでるのか知らねぇけど、相手が悪いっていつ気付くんだか」

「一生気付かないだろ」

「幸せな奴等だな……病弱な王子があの笑顔の裏でどぎつい事考えてるって知らねぇんだからなぁ」


第三王子で病弱って、最近どこかで聞いたような……。

木の床を見つめながら会話を盗み聞いて分かった事は、彼等の主人が【あの人】であり、命を狙われ続け、今は利用されている。

摂取する側は王太子と第二王子で、搾取される側は【あの人】で恐らく第三王子。

そして、この二人の上に立っている第三王子は性格がよろしくないらしい。危険人物に言われる程のどぎつい事ってなんだろう。物凄く知りたくないわ。


「そこ段差だ……足元気を付けろ」

「へぇ~、随分とお優しいことで」


下を向いている私を誘導しながら前を歩いている黒髪が度々足を止め注意を促してくる。

が、その度に危険人物からも茶々が入る。

なに、この悪循環は……。


「手間取っちまったな。夜が明ける前には戻るつもりだったんだけどなぁ」


外に出たのだろう。潮の匂いが濃くなり、周囲が明るくなった。

襲われてからどれくらいの時間が経ったのか……。

前を歩く黒髪と危険人物は足を止めることもなく会話を続けている。フランも無言のまま彼等に付いて行っている。


「……」


そっと外套を上げ、目の前の景色に顔を顰めた。

一度目に目を覚ました時は港だったのだろう。二度目の時に感じた揺れは、陸地ではなく海の上を移動していたらしい。

人気のない静かな港街は私の記憶には無く、全く見知らぬ場所だった。

海がある街。黒髪、黒目の異国の者。それに加え、第三王子の領地。

……駄目だわ、分からない。

第三までの王位継承者を持つ国など沢山ある。国によっては王子、王女が二桁いる場合もあると聞いた。

それに、もし此処が海を挟んだ大陸にある国だとしたら辛うじて名を知っている国はあるけれど、内部を把握しているわけではない。王の名すら怪しい。

他に何か無いかと混乱しながらも脳をフル回転し、【第三王子は病弱】という言葉が脳裏をかすめたときだった。


「チッ、来やがった」

「……ジェイ」

「わーってるよ。何人かは残すさぁ」


不穏な言葉が耳に入り街から視線を前に戻すと、ギリギリの範囲まで持ち上げた外套の下から見えたのは、体格の良い褐色の肌の男の背中。

黒髪とフランの隙間から見える男がジェイと呼ばれている危険人物なのだろう。

パキ、ポキッ……とその男は指を鳴らし、腰に下げてあった剣を抜き一人で歩き出した。


――瞬間、船内の甲板にいた私達を囲むかのように黒装束が何人も現れた。


「お下がりください」

「絶対に離れるな」


黒装束と、たった一人でそれらと対峙しているジェイから距離を取る為ゆっくりと後ろへ下がって行く。

上から下まで黒一色。動きやすく音がしない上に、剣を容易に通さないよう各部に仕掛けが施されている。王家の影の者、暗殺者達が好んで纏うその衣装はゲームの中でバッドエンドの度に現れるギーも黒ではなく紺だったけれど良く着ていた。

普段は闇に紛れる為のその衣装は明るい場所では異様で、余計に気味が悪い。

後宮に侵入して来た者達と同じものを纏っているこの黒装束達の目的は……恐らく私とフラン。


「……本当に暇人だなぁ。俺は今、機嫌が悪いんだよ」


それなのに、ジェイは黒装束達を見知っているかのように話している。

ジェイが重そうな剣を片手で無造作に振り下ろした瞬間、風を切る音が聞こえ。


「……ぐっ」

「おせぇよ」


いつの間に間合いを詰めていたのか、黒装束の一人がジェイの剣を受け船から叩き落とされた。


「さーてぇ、お掃除といこうじゃねぇかぁ」


ジェイの楽しそうな声と共に、血に塗れた饗宴が始まった。




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