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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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お説教


「私は、貴方の名を使うわ」

「御存分に」

「ヴィアン国の英雄は不動だと、帝国に知らしめてきなさい」

「承知いたしました」


この遣り取りをしたのは数十分くらい前だろうか……。


クライヴとの試合を終えて直ぐに、壇上に上がりウィルスに向かって剣を突きつけたセオフィラス。二試合続けて行うのかと驚いている中、ウィルスから「よろしいでしょうか……」と許可を求められた。

此方は大丈夫でも帝国側がどうなのだろうか?とアレンを窺うと、苦笑しながら頷かれたのでそのまま試合を開始することになった。

その際、壇上付近にいる者達は危ないからという理由で下がらされ、私達の側に戻って来ている。

危ないとは……何故に?

ウィルスの代わりに背後に立つアデルを見るが、既に向かい合っているウィルスとセオフィラスに釘付けで全く視線が合わない。階下に居るテディとクライヴも真っ直ぐ壇上へと熱い視線を注いでいる。まぁ、気持ちは分からないでもないけれど……。

結局この疑問は誰にも答えて貰えないまま試合開始の合図が出された。


―――ギィィィィン!


先に行われた二試合のときとは明らかに違う金属音がコロッセウムに響き渡り、互いに容赦のない攻撃が繰り出されている。

剣筋なんて全く見えないけれど……。

瞬きせずに目を細めて見てみるが、剣を振るう速度が速いのだ。私の視力が悪いわけではない、絶対に。仕舞いには上下左右に飛んだり跳ねたりと目で追いきれず、酔ってきた。かろうじて視界に映るものは最早残像だ。どちらが優勢か劣勢か、それすら私には分からない。


―――ガッ、ギィィィィィィ!


不快な音に背筋が粟立ち、石造りの壇上の破片が舞い上がり目を見開いた。

比喩でも何でもない。壇上を、人間の力で、破壊した!

危険、離れろの意味が分かった瞬間だった。

咄嗟に顔を腕で庇ったセオフィラスにウィルスが剣を振り下ろす。間に合わなかったのか、セオフィラスは籠手でウィルスの剣を受け止め背後に飛んだ。

距離を空け、互いに首や手足を軽く動かし何か言葉を交わした後戦闘が再開され、コロッセウムの二階から歓声が上がる。護衛に就いている第一騎士団からは息を呑む音が聞こえた。

ポトッと握っていた扇子が膝に落ち、恐る恐る隣人を窺うが何でもない事のようにアレンもロメナも平然と試合を観戦している。

ぇ、コレが普通なの?アニメのように英雄級の人間は石とか海とか割っちゃうの?嘘でしょ……。

一連の流れに鳥肌が立ち、それと同時に彼等一人の力で何十という人間を葬れることを目の当たりにし恐ろしくなった。

英雄はヒーローなどではない。この世界では人を殺すことに特化した者を指す名だ。


「……アデル」


椅子の背に凭れ囁くようにアデルを呼べば、彼はそれに応えるように背を屈め、顔を近づけた。


「あの二人と互角に戦える自信はある?」

「……無理だ。ゲームではなく現実世界だと分かっちゃいるが、基本スペックがそもそもモブの俺とは違い過ぎる」

「……セオフィラスはそうでも、ウィルスは?」

「……ウィルスもシークレットとはいえメインキャラだろうが」

「ぇ!?」

「知らなかったのか?楓が二周目以降のシークレットだって言っていたのを覚えている。オープニングに仮面の男が一瞬だけ出てたしな」

「オープニング見てない」

「……マジか。おまっ、知ってて護衛に引き入れたんじゃないのかよ」

「ウィルスは最初から私の護衛に組み込まれていたのよ」

「……なんだよそれ。シナリオとかそういう問題じゃないだろ。初めから何もかも可笑しいってことだろ」

「私の所為だと思っていたのだけれど」

「お前じゃないし、俺でもない。多分、他にもいる。此処がゲームと酷似した世界だってことを知っている奴が」

「……姉さん」


転生者が他にも居る……それにハッとし、口から零れた【姉さん】という言葉に背後から呻き声が聞こえた。見なくても分かる。恐らく死んだ魚のような眼をしていることだろう。

まさに今私もその状態なのだから。

だって、もし本当に姉さんが転生していたとしても私達の存在を知らないのだから、アーチボルト派でフラン大好きな姉さんが真っ先に敵とみなすのは、私だ……。

『フランたんの為なら!』と目の下に隈を作っていた姉の鬼気迫る様子を思い出し、ぞわっとした。これは非常に不味い事態なのではないだろうか。


「……っ、綾。ウィルスを止めろ!」


あーとか、うーとか声にならず、口だけをパクパクと動かしていた私の視界が捉えたものと、アデルの焦った声が耳に入ってきたのはほぼ同時だった。

考える間もなく立ち上がり、目の前の手摺を掴みありったけの力で叫んでいた。



※※※※※※※※



セリーヌ様の護衛としての初仕事がコレか。

僅かな落胆を隠しながら右手を数度振り、握力を確認した。肩も、脚も問題は無い。

ゆっくりと呼吸を繰り返し体力的にも問題無いことを確認し、先程地面を削った剣を見て眉を寄せた。

固い地面を削りながら軌道を変えた所為で刃毀れしている。

少しでも良い所を見せようと張り切った結果、長年愛用していた剣が無残な姿になってしまった……。


「流石、ウィルス・ルガードだな」


首を回しながら、そろそろ良いだろうかと剣を握り直すと、まだまだ余裕がありそうな皇帝が声を掛けてきた。

流石と言われても……【ウィルス・ルガード】など何の価値も無いただの名だろうに。そう思いながら首を傾げると苦笑される。


「本当に、読めない男だな」

「初めて会話をしたと思うのだけれど」

「あぁ、戦場で顔を合わせたこともないな。だが、国境でのことは報告書を読んで知っている。毎回手法を変え、確実に指揮官を打ち取っているらしいな」

「特に意識して変えているわけでは……状況に応じて動くことは基本的なことかと」

「それが出来る者がどれほどいると思っている。それにしても、やはり噂は当てにならないな」

「そうですね。己の眼で見たものだけを信じるべきです」


剣を構え、うんうんと頷くと又苦笑されてしまった。私のどこにそんなに愉快な所があるのかは分からないが、同じような遣り取りをすればセリーヌ様も笑ってくださるかもしれないな。そう思えばこの準備運動にしかならない試合も価値があったというものだ。

目を合わせ、同時に地を蹴り、終演に向かって再び剣を振り出した。


「そろそろか」


躱すこともせず剣をぶつけ合うのだから自然と顔も近くなる。此処は戦場ではなく親善試合という名の茶番。互いに分かっているからこそ致命傷は避け、それなりに見えるよう戦っている。誰も、剣を振るいながら小声で話しているなどとは思わないだろう。

皇帝の終いの言葉に軽く頷き、握力を弱めた。

予めこの試合の決着方法は決まっていた。同時に剣を落として終わり。


「ヴィアン国の王が、アーチボルトで良かった」


タイミングを計っているときに囁かれた言葉に僅かに反応すると、皇帝は挑発するかのように不敵な笑みを浮かべた。


「ウィルス・ルガード相手では、セリーヌを手に入れるのに苦労しただろうからな」

「……手に入れるとは?セリーヌ様は、アーチボルト王の正妃ですよ」

「今は、だ。先のことなど誰にも分からないだろ?それに、朽ちる寸前の国にセリーヌは勿体ない」

「……」

「賢王と英雄、この二名を生み出した国の次代が必ず賢王となるわけではない。時代、周囲の環境が変われば愚王となることもある。その良い例がヴィアンだ。貴族に操られ、好き勝手に国を弄られていることを容認し、優秀な者を僻地へと飛ばす。アーチボルトと、裏で王を操っている者は継承権が無いとはいえ王族の血を引き、英雄の孫であり、優秀な騎士であるウィルス・ルガードが余程目障りなのだろうな。」

「何がおっしゃりたいのですか」

「一度も考えたことがないのか?」

「何を……?」

「アーチボルトに代わって、王となることを」


私が……王?何を言っているのだろうかと思い冷笑する。

英雄と呼ばれた者は国の為に命を賭して戦い、王位継承権を捨てることで王に誓いを立て、最後は愛する家族の為に命を捨てた。

逃げるように国を出て、私という存在が邪魔にならないよう息を殺して生きてきた。

賢王と呼ばれた方は、それを知ってはいても何もしなかった。戦場で帝国を退け英雄となった実の弟は、王にとって邪魔な存在となったのではないだろうか。

手を下したのは、王の派閥の貴族ではなく……王本人なのではないのだろうか。

私を王都へ呼び戻したのは、監視の為だったのではないか。

醜く、汚い玉座。

そこに座る者は、それを望む者は、皆醜悪な者になる。

だから、想像しなくても分かる。

そんなもの、私が望んだ瞬間に……。


「アーチボルト王の首を落とすだろうなぁ」


継承権が無くとも、王族の血を引く者が次代の王となるしかないのだから。

アーチボルトに子はいない。この先産まれるかどうかすら不明だろう。

邪魔する者は全て斬れば良い。例えこの手が血塗れになろうと、それこそ今更だ。

出来ないわけではない。やろうと思えばどうにでも出来る。それは祖父も同じだった。

だからこそ、あの戒めの言葉を私に何度も、魂に刷り込むように言い聞かせてきたのだから。

私が口にした物騒な言葉は聞こえていなかったのだろうか。それならそれで良い。別に答えたわけではないのだから。

怪訝な顔をする皇帝に微笑み、剣を握る手に、力を入れた。


「……っ!」


ガチ……ガチ……と、合わせていた互いの剣が鳴り皇帝の身体が徐々に沈んでいく。

それを見ながら、更に力を入れた。


「このっ……!」

「……」


このまま力任せに地に沈めてやろうかと思っていたが、相手も不利な体勢でありながら力で押し返すという荒業を披露し、そのまま払われてしまった。

面倒だなぁ……と思いながら剣を回し、額、こめかみ、顎、首と順に視線を下ろし、最後に心臓を見た。


「……どうやら、何か地雷を踏んだようだなっ!」


地雷?と首を傾げながら一歩近づく。

距離を取ろうとした皇帝の懐へ一気に飛び、振り上げた剣が躱された瞬間を狙い軸足の膝裏に蹴りを入れる。

体勢を崩し、地面に片膝をついた皇帝に向かって剣を振り下ろしたときだった。


「ウィルス・ルガード!!」


静まり返っていたコロッセウムに私の名を叫ぶセリーヌ様の声が響き渡った。

速度を緩めようと腕に力を入れ嫌な音が鳴ったが、その隙を逃さなかった皇帝の剣とぶつかり、二本の剣が音を立てて地面に転がった。

……うん。どうやら上手くいったようで良かった。


「両者!引き分けとする!」


視界の隅でコーネリアスという女性騎士が走って来ていたのが見えていた。その彼女が壇上で勝敗の宣言をした。

まだ立ち上がっていない皇帝へ頭を下げ、背を向け壇上を下りる寸前で振り返る。

言い忘れていたことがあったから。


「二度目です。殺したくなるほど憎らしく思ったのは」


アーチボルトと、貴方で二人目。

今度こそ背を向け、立ち上がったまま私を見続けるセリーヌ様の元へと足を進めた。



※※※※※※※※



危なかった……絶対危なかったわ!?

試合が終わり、口元を緩めながらゆっくり歩いて来るウィルスはあの瞬間セオフィラスを殺る気だった……。

そう思ったのは私だけではない。アデルだって焦っていたし、隣に居たアレンも私と同様に立ち上がり手摺を掴んでいたのだから。


「ウィルス……」

「はい」


騎士の礼を取り微笑むウィルスは、褒めてくれ!と尻尾を揺らす犬のようで。思わず項垂れる私に首を傾げ「セリーヌ様?」と悲しそうに声を掛けてくる。壇上で殺気を放っていた者と同一人物とは思えない。

本当に、何が起きたのだろうか……。


「セリーヌ様……彼は、一体」


アレンもウィルスの変わりように困惑しているのだろう。何と言って良いのかと言葉を探しながら口にしている。

そんなカオスな空間へ割って入って来たのは彼だった。


「試合は無事に終えた。疲れただろう、宮殿に戻るぞ」


物凄く軽く入って来たのだ。

右手にタオルを持ち、唖然とする私達を見て「どうした?」と聞いてくる。

どうした?と聞きたいのは此方の方だ。何?アレは演技だったの?私達はまんまと騙されたの?


「先程の、あの遣り取りは予め相談なさってのことですか?」


若干怒りで声が震えているアレン様の顔色はとんでもなく悪い。

皇帝陛下であり、弟でもあるセオフィラスの命が危なかったのだから当然だわ。


「あぁ、あれは俺が悪い。挑発し過ぎた。まぁ、寸前で踏み止まったみたいだが」

「あの程度、皇帝陛下であれば難無く躱せるかと」

「……おい、流石に無傷では済まなかったぞ」


要は、打ち合わせ無しのぶっつけ本番で、命の危険があったものの笑って許せる範囲内だと、そういう事で良いのだろうか。

英雄と称される者達はきっと凡人には計り知れないものなのだろうと締め括り、アレンと共に首を横に振り帰り支度を開始した。

取り敢えず、ウィルスは後で説教だと固く決意して。



※※※※※※※※



宮殿へ戻り湯浴みをしたあと、自室で夕食を頂いた。

セオフィラスからお呼びはかからなかったので挨拶は明日の朝になるだろうと、食後のお茶を飲みながら帰国の準備をするアネリを眺めていた。

テディとアデルは扉付近に立ち、戻って来てからずっと居心地が悪そうにしている。

それはそうだろう……。私はソファーにゆったりと腰を掛け、近衛騎士隊隊長であるクライヴと専属護衛騎士筆頭のウィルスという二人組を足元に正座させ無視しているのだから。

もうかれこれ四時間は経っている。

ウィルスのお説教は決めていたが、クライヴは?と聞かれれば「お説教されたがっていたから」と答えるしかない。

だって、ウィルスに「正座しなさい」と冷たく言い放ったとき、クライヴが羨ましそうに見ていたのだもの。


「……さて、貴方達は何故そこに座らされているのか、分かっているかしら?」


私が二人に視線を向けると、アネリが何かを察し持っていたカップを受け取ってくれた。

一人で準備をしていたのにも関わらず、私の動きまで把握しているとは……アネリさん優秀だわ!と絶賛しながら、意識して声を低くし肩を落としている二人へと数時間ぶりに声を掛けたのだが。


「はい」


返事を返したのは一名。残り一名は無表情のまま私を見詰めている。

溜め息をつき、取り敢えずお前は黙っておけと返事をしたクライヴを睨みつけた。


「ウィルス」

「はい」

「貴方、試合中に皇帝陛下を殺そうとしたわね」

「……」


沈黙は肯定と受け取っても良いということだろう。


「相手の命を奪うような行為、命に係わる程の怪我を負わせた場合は処罰される。それを分かっていて、何故あのようなことをしたの……」

「……」

「相手は一介の騎士ではなく、皇帝陛下よ。もし、あの場で皇帝陛下になにかあれば、貴方だけではなく私を含め此処に居る者達全員が首を刎ねられても可笑しくはなかったのよ」


目を伏せたウィルスの頬を片手で掴み、視線を外すことは許さないと力を入れた。


「皇帝陛下に何を言われたの」

「……」

「ウィルス。私に、貴方を手放すようなことをさせないで」


幾ら信頼出来る騎士だとしても皆の命を危険に晒すような騎士は側に置いておけない。

私は皇帝陛下の命を取れなどとは命令していないのだから、ウィルスが行った行為は命令違反にもなる。


「皇帝陛下は、セリーヌ様を正妃にとおっしゃっていました」


抑揚のない声でとんでもないことを言ったウィルスに皆の視線が一斉に集中した。

皇帝陛下の正妃……私が?冗談だとしても質が悪すぎる。


「それと、王になりたくはないのかと、そう尋ねられました」

「馬鹿なことを……」

「えぇ。ですから、それを望むのであればとうにアーチボルト王の首を落としている、と口にいたしました」

「……ウィルス」

「ご安心ください。そのようなこと望んだこともありません」


ウィルスの生い立ちは聞いている。

エイハブ王が存命時、その派閥の貴族達が裏で手を回し国民に英雄視されていたダリウス様を追い落とそうとした。その結果、諍いを回避する為にダリウス様は王位継承権を捨て、近衛隊の隊長職からも辞した。

けれど、それだけでは済まなかった。全ての芽を摘む為、無慈悲な仕打ちをし、一生消えない傷を残した。そして、隠れて生きてきた彼を呼び戻し、国に仕えるよう強制したという。

本人は私の護衛に就く為だと言ってはいたが、初めから拒否など許されていなかったのではないだろうか……。

アーチボルトとウィルスの境遇は天と地ほどに違う。

妬ましくないわけがない。恨んでいても可笑しくはない。彼の掌から零れていったものは計り知れないのだから。

ウィルスの頬から手を離し、ソファーから下りた。正座しているウィルスの前へ膝をつくとウィルスは目を見開き、その隣に座るクライヴは声にならない悲鳴を上げていた。

表情が抜け落ちたようなウィルスを労わるように、仮面で隠れていない方の頬を何度も撫でる。


「恨んではいません。それが私の運命なのだとそう納得していますし、これから先も私のことでしたら耐えてみせます」

「……」

「ですが、セリーヌ様のことだけは別です。貴方が無残に手折られることだけは容認出来ません。貴方を奪われるくらいなら、全て、消します」


頬から私の手を外し、そっと後ろへ身体を下げたウィルスの瞳は仄暗い色を帯びていて、やんわりと拒絶されたことに気づいた。


「命を取る気はありませんでした。ただ、少し恐怖を植え付けようとしただけです。二度と愚かなことを考えないようにと。それが最善の方法だと私は身をもって教わりましたので」


幼少期のトラウマ……。

少し天然で、大人の男性なのにどこか可愛らしいウィルス。彼は普段あまりにも平然としているから気づいてあげられなかった。

それがどんなに辛くて悲しいことなのか、私も、幼い彼に出会ったセリーヌも知っていたのに。


「私がセリーヌ様を窮地に立たせたことには変わりありません。あのとき、止められていなければ、皇帝陛下は二度と立てなくなっていたかもしれませんから」


どんな顔をして言っているのか、彼は分かっていない。

そんな感情の抜け落ちた顔で、何でもないことのように……。


「申し訳ありませんでした。以後、気をつけます。次は、仲間、側近、家族と順を追って」

「ウィルス」

「……はい」

「必要ないわ。私は私だけのものだし、誰にも好き勝手にさせるつもりなどないの」

「……」

「それはね、私が大切にしている者達にも当てはまることなのよ。貴方もその一人。誰にも手は出させない。貴方が私を守ってくれるように、私も貴方を守るわ。此処に居る者達は皆最後まで運命を共にする者達なのだから。だから、私から離れるようなことは、決して許さないわ」


ウィルスの手に手を重ね、ゆっくりと言い聞かせるように話した。

徐々に目線を下げ、最後にはにかむように笑ったウィルスは、幼い子供のようだった。





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