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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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王妃付き侍女



暫く一人になりたい……と言い侍女を下がらせ、座り心地の良い長椅子の肘掛けを枕に身体を横にし部屋の中を見渡した。


この部屋は前王妃が使っていた時のままだ。モスグリーンの壁には家族三人の絵画が飾られている。


王妃は部屋で大半の時間を過ごし、そこへたびたび王が訪れる。

だから、王妃が入れ替わる時に部屋の改装をするはずなのだ。愛する王妃が過ごしやすい様に、または王と王妃が好む部屋にと。


けれど、アーチボルトは何もしなかった。だから私が指示を出し改装すれば良かったのだが、彼の翡翠色の瞳を思い出させるモスグリーンに慰められていた。絵画には自分には向けてくれない笑顔が描かれているから外せない、ほぼ毎日その絵画の前に立ち今より幼い彼を見つめ続けていたのだから。


健気なのか、愚かなのか……。


苦笑しながらベルを鳴らし侍女を呼んだ。




※※※※※※※




「お部屋の改装ですか?」

「えぇ、駄目かしら?この部屋は落ち着かなくて……」


話しをしながら目の前に立つ侍女を観察する。彼女は王妃付きの侍女。伯爵家の次女で歳も私と同じだ。行儀見習いとして城の中で侍女をしている貴族の令嬢の中では一番地位が高い。

アネリ・リンド。彼女が王を待つ夜、私に王の訪れは無いと伝えた侍女だ。

大人しく部屋で本を読んで過ごした日々も、急に人が変わった様に我儘になった日々も態度を変える事無く私についてくれた。


だからこそと、彼女の一挙一動をそれとなく観察する。


「遅いぐらいですわ、どの様になさいますか?憎たらしい色の壁紙に忌まわしき絵画は要りませんわね!セリーヌ様のように可憐な感じの花柄などいかが、で…すみません」


普段口数も少なく冷静なアネリが物凄い形相で壁や絵画を睨みつけ、私を見ると両手を組み笑顔になり、不意に笑顔が消え青くなり下を向いてしまった。


正直、驚いた。こんなに取り乱すアネリを見た事が無いし、嫌われていると思っていた。


今思えば、一人で夕食を食べている時や、庭園に王の姿を見つけ部屋を飛び出した時。苛立ちをぶつける様にドレスやら宝石を買い漁った時とか、何も言わず何時も側にいてくれたのはアネリだった。


「ふふっ、顔を上げて。怒ってはいないわ、少し驚いただけよ」

「すみませんでした。先ほどの王の態度につい、セリーヌ様がやっと笑顔を見せてくださったのに……」


私は自分の事ばかりで他を見ていなかったのだろう。悲劇のヒロインぶって周りを振りまわすなんてアーチボルトと大差ないわね。


会ったことも無い人との政略結婚なのだからこうなる事だって予想出来たはずだ。

王妃にとっては愛する者はたった一人だが、王は違う側妃だって愛妾だって何人でもつくれるのだ。

政略結婚の相手より自身で選んだ女性の方を大事にし正妃が蔑ろにされる、なんてのもあるかも知れない。

まあ、そんな馬鹿な事をするのは余程の愚王ぐらいだろうが。


それなのに蝶よ花よと大事にされたお姫様は幸せな未来しか思い浮かべなかった。


いずれにしても、記憶を思い出す前の私には王の妃など無理だったのだ。己の感情を笑顔で隠し毅然と前を向く事が出来なかった恋に溺れたお姫様、最後に自身で愚かだったとそれだけでも気付けて良かった。


「心配をかけましたね。私は王妃失格ね」

「そのようなこと!たった一人で嫁いで来られたセリーヌ様にあの様な仕打ちをなさる王が悪いのですわ!セリーヌ様がお優しいからと調子に乗って、この様な待遇がラバンに知れたら同盟どころか戦争です」


流石伯爵令嬢だわ。きちんと教育を受けている。

私も不思議なのよね、ラバンとヴィアンは同じくらいの大国だ。これがラバンの方が下でヴィアンに縋る形で嫁いできたのならまだ分かるが、何をどうしたら大国の王女を蔑ろに出来るのだ?知らせる術が無いと思って?それとも、王を愛していたから?


ちらりと窓際に置いてある鳥籠と、その側にある木箱を見て顔が引きつる。

まあ、後で確かめればいいか。


「私の前以外ではその様な事を言っては駄目よ。でも、嬉かったわ、ありがとう」

「はい、気をつけます」

「それから今迄ごめんなさい。随分我儘三昧だったわね私」

「我儘だなんて、私達王妃様付き侍女は皆その様には思っていませんわ。王やその周りに対しては思うところが多大にありますが」


アネリの言葉に二人で笑い、暖かいお茶と共に久々に穏やかな時間を過ごした。



※※※※※※※



(我が事ながら、凄まじいわ)


鏡に映るのは、透明感のある肌に美人の条件である黄金比を持つ顔、その顔にはナチュラルメイクが施され、美しいアッシュブラウンの髪を結い上げ、スタイルの良い身体は淡いグリーンのドレスに包まれた、アネリと他二名の侍女達による渾身の作……私だ。


「お美しいですわ!」

「王も跪いて許しを請うはずです!」

「許しませんけどね!」


アネリと双子のエムとエマが騒いでいるが私は自分の姿に頭が痛い。

フランが可愛い系だとしたらセリーヌは妖艶な美女系。決してキツイ顔立ちでは無いがこの顔が無表情だと怖い!何をされるのかと怖くなる!

これで中身は乙女思考だなんて誰が信じるだろうか……。いや、今は中身はおっさんに近い女だけれど。

前世は平たい日本人顔、今世は妖艶な美女。

姉ならご褒美かと喜ぶかもしれないけど私にとっては何の嫌がらせだ?としか思えない。



部屋の扉がノックされ外から声がかかる。支度をする前に王に先触れを出していた、そのお迎えだろう。

私は窓の側にある木箱をアネリに持たせ強張った顔をする侍女達に微笑んだ。


「さあ、行きましょうか」


さて、王はあの先触れに対してどう応えるのだろうか、私は優しいセリーヌではなくなったのだ。


事と次第によっては大事な者だけ保護し、兄に言ってラバンに帰ろうじゃないか。





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