表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/113

王と私




こうして互いに目を見ながら話すなんていつぶりだろう……結婚式の直前以来かしら。


あの時の冷たい目も衝撃的だったけれど、今は何故私がこんな男にゴミを見るような目で見られてるのかしら?美人にそんな顔されると怒り倍増なんだけど、殴っていいの?


「何か、だと?先ほどのは一体どういうつもりだ!」


どういうつもりかは私が聞きたい。此処は城の廊下、護衛騎士や侍女や侍従が隅に控えているし城の中で働く者達が何時通りかかるかも知れない場所。


王と王妃の仲が悪い事など側に仕えている者達は知っているが、他の者達は噂程度だ。

実際、護衛騎士は王が王妃に対して怒鳴った事に驚いている。

人の口に戸はたてられぬ、コレが民に広がり諸外国に広がり、私の国ラバンに知れたらどうなるのかなど考えていないのだろう。


セリーヌが必死に守ってきたものが台無しになる。


ほんと、顔が良いだけのただの男。姉さん趣味悪いわ。




『私のオススメはアーチボルト王!国、いや世界一の美丈夫!普段はクールなのにデレたときのあの表情がっ、最高!』

『美丈夫ねぇ、どれも一緒じゃない』

『違うの!ほら、攻略本の表紙見て!一番美しいわぁ〜、金の髪に翡翠色の瞳なんて、まさに白馬の王子様』

『王様の後ろにいる女の人は何?この人も攻略キャラ?』

『スルーしないでよ!んー王妃だよ。アーチボルト様のお嫁さんです』

『へー、姉さんが脇キャラ好きとか珍しい』

『んにゃ、アーチボルト様は主人公の攻略対象だよ!むしろメインヒーローだから!』

『は?だって王様結婚してんじゃん』

『結婚っていっても政略結婚だし、元々アーチボルト様は王妃とは結婚したくなかったんだよ。幼い頃に一度だけ会ったフランに恋をして、忘れられなかったんだぁ!甘い初恋だね〜』

『はぁ、じゃあ何で結婚してんの』

『だから、政略結婚だってば!国同士の同盟です。騎士になったフランをクライヴ様から紹介されて初恋が再熱!でも、同盟の為に結婚しなければいけない。あぁ、可哀想なアーチボルト様!』

『で、結婚したと。バカかこの王様』

『もぉー!この後色んな苦難を乗り越えて愛を深めるんだから!』

『それ、浮気だよ。アウト』



姉さん、やっぱり王様はバカだったし、可哀想なのは私だわ。


「……聞いているのか?答えろセリーヌ」

「先ほどの、と言われましても私には何のことやら……分かり兼ねますわ」


首を傾げながら答えると更に眉間に皺を寄せて、世界の美丈夫が台無しだわ。

あ、ちょっと笑えるかも世界の美丈夫とか。


「広間に入る前に、私はお前に何と言ったか忘れたのか?」

「覚えていますわ。ですが、それが何か?」


確か、広間に入る前に口を開くな動くなただ座っていろと言われた。

だから記憶を思い出しても悲鳴ひとつ上げずに怠い身体を叱咤し姿勢を正し座っていたではないか。


「なっ……だったら何故!」

「ですから、その通りにしましたわ」

「はっ、最後に前列にいた騎士に微笑んでいただろ。何を企んでいる?」

「企むなど、別に何も」

「お前があのように微笑んでいるところなど見たことが無い。あの騎士に何をするつもりだ……」


微笑んだね、うん確かに。貴方の大事なフランちゃんに。

てか、私は微笑むのも駄目なのか?次は呼吸をするなとか言うんじゃないのかこの人。


それに、王が私が笑ってるのを見たことが無いだと?当たり前だ。ほんと、ふざけてるわこの人。


「おい、質問に答えろ」


距離を詰められ腕を取られそうになり素早く後ろに下がる。


勝手に私に触らないでほしい。髪の毛一本たりともこの男に触らせるつもりは無いのだから。


まさか避けられるとは思わなかったのか世界の美丈夫が間抜けな顔をしているので思わず冷笑する。


「っ……」


フランと同様に目を見開く王にいっそう笑みを深くしそのまま口を開いた。


「質問の答えでしたわね、お知りになりたいのでしたら後ほど執務室へ伺いますわ。この様な場所でする話しでもありませんし」


ねぇ?と周りを見渡し問いかけると、やっと自分が見られていることに気がついたのか頷き私を睨み立ち去った。


去り際に睨むとか大人の男がすることじゃないでしょうが。全く、精神年齢が低くて困るわ。


「セリーヌ様……」

「大丈夫よ。アーチボルト様はどうなさったのかしらね、ヤキモチかしら」


青い顔をした護衛騎士にふわりと笑いながら戯けると、張り詰めていた空気が和らぎ安堵する。


「さあ、部屋へ戻りましょう」


廊下を歩きながらジクジクと痛む胸に手を当てそのまま俯きそうになる顔を無理矢理上げた。

この痛む胸は記憶を思い出す前の私の想いだろう。私の顔を見ることすら嫌な王がフランのために動き、害になりそうな私を排除しようと必死になる。


そんなに好きなのか、と心の奥で泣き叫ぶ私がいるのだ。


さっさと記憶も、この気持ちも整理しよう。

今の私には忌々しいだけだ。悪いが記憶を思い出した時点で愛だの恋だのはスッパリなくなったのだから。


「ふふっ……」

「……セリーヌ様?」

「思いだし笑いよ。人生とは、時に残酷で素晴らしいものだと言っていた人がいたの」



姉さんも偶には上手いことを言うわね。


では、素晴らしい人生を手に入れる為に頑張りましょうか。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ