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『電子でノベル、コミカライズ発売中』私は悪役王妃様  作者:


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似た者同士




容姿は女神の生まれ変わりと讃えられ、唇から零れる低い美声はあらゆる者の心を捉えて離さない。

と、設定資料集にでかでかと書いてあったのに……妹からは虫けら扱いかジレス。


口元に扇子を当て引き攣りそうになる笑みを隠したのだが、黙っている私に何を思ったのか……「虫は、言い過ぎましたか?……虫は生き物ですものね。では、道端に捨てられたゴミなら如何でしょうか?」と、更に爆弾を落としてきたティア嬢。何これ意味が分からない。

ティア嬢から視線を移しミラベル嬢とモーナ嬢を伺う。

嘸かし二人も驚いていることだろうと思ったのだが予想外なことが起きた。


「またそのようなことを、素敵なお兄様ですのに」

「ティア様はお兄様がお嫌いですからね」


呆れたようにミラベル嬢が言うとモーナ嬢が笑いながらティア嬢を覗き込む。

それを肩を竦めながら受け流すティア嬢。


「美しいのに、贅沢ですわ」

「私と同じような顔を見て褒め称えていたら頭が可笑しいと思われます」

「お二人はそっくりですものね」


二人がティア嬢の発言に驚きを見せないということは、普段からそういった発言をティア嬢がしているのだろうか?

貴族は弱味を見せてはならない。ほんの些細なことでも足元を掬われ何が起こるか分からないからだ。

ミラベル嬢とモーナ嬢はベディング派でティア嬢は前々王派。この三人は特に気をつけなければならない間柄なのだけれど。

どういう事かとそっと周囲を伺うが、アネリは動きが止まったまま、護衛のアデルは怪訝な顔をし、フランは私の視線に気づき何故か笑顔で小さく手を振ってきた……。


取り敢えず、緩みかけていた気を引き締め音を立てて扇子をたたみ、愛らしい三人組の話しを中断させた。


「ティア嬢はジレスがお嫌いなの?」


聞いていないぞあの腹黒女神の野郎……と罵詈雑言は胸にしまい目を細めティア嬢の瞳を見つめ問いかけた。

最初のお茶会で学んだのは、私の今のこの表情はかなり不気味だということ。

だが、皆の顔を青ざめさせたセリーヌ必殺不気味顔にティア嬢は破顔した。


「兄はアーチボルト様の側近として幼少から城へ出入りをしていました。行く末は王となるアーチボルト様の片腕、父の後を引き継ぎ宰相へ。甘い言葉で誑かそうとする者達の中で互いに助け合い惑わされず、時期を見て動くようにと躾けられていた筈なのですが。あのゴミは年が経つに連れ、楽な方へと足を進めはじめたようです。そのような兄を好きか嫌いかと聞かれましたら大嫌いですとお答えします。ですが、公の場ではそのような態度は取っていません」

「……そう」


公の場ではしないと言ってはいるが、この王妃主催のお茶会もそれに相通じている。

頭が弱い子なのだろうかと首を傾げ微笑むとティア嬢の口元が弧を描いた。

美少女がやると半端ない……目が潰れそうになる。

私の問いに大嫌いだと口にしたティア嬢。

それを聞いてミラベル嬢とモーナ嬢がクスクス笑いだした。


「セリーヌ様、ティア様の猫被りは凄いのですよ」

「普段は仲の良い兄妹にしか見えませんの」

「……あら、お二人には知られているでしょう?」


この三人は一体どういった関係なのか……。

ジレスの報告書には彼女達の性格やら関係が一切書かれていなかった。

けれど、せめて妹の性格くらいは書いて欲しかった。


「似た者同士ですので。私もモーナ様も猫被りは得意でしてよ」

「政治に利用され、抑圧されて生きている者同士、ミラベル様とティア様とは考え方が似ていますの」

「猫被り、それならジレス・カルバートの婚約者候補でしたミラベル様には敵いません。あのゴミに嫌な顔をされても擦り寄り付き纏い続け影で色々してきましたものね」

「好いた方を振り向かせるには色々と策を練らなくてはいけないでしょ?それに、ジレス様はあの嫌そうなお顔が一番素敵なのよ」

「ティア様の方こそ、部屋にこもり夜会にも来ずに何をなされているのか分かりませんわ」

「モーナ様は近衛隊の騎士を追いかけ回していたのに、そこの騎士を理由にお断りされ悪い噂を流しているのですよね」

「追いかけ回すなんて人聞きの悪い。それに悪い噂ではなく、本当のことですわ」


ティア嬢の【ミラベル嬢はストーカー】発言に態とだと返すミラベル嬢。

それを笑いながら【ティア嬢は変人】と比喩したモーナ嬢はカウンターを食らうも悪気などないと返した。

ティア嬢がそこの、と指さす場所は見なくても分かる……フランがいる。

元近衛隊の面子だろうが……彼等は既にフランに落とされていたのか。


「セリーヌ様」


三人の不可思議な関係を傍観していた私にティア嬢からお呼びがかかった。

え、今この状況で私なの?


「今日、このお茶会に呼ばれた者が王の側室候補だと聞き私は無理を言ってこの場に入れてもらいました。アメリア様があのようになったからにはミラベル様とモーナ様のどちらかが側室に選ばれると思い。この場に居る三人が側室候補で間違いありませんか?」

「えぇ、三人共……側室候補よ」

「でしたら、ありのままをセリーヌ様にお見せしようと思いました」

「私には猫被りをしなくても良いと?」

「セリーヌ様には通用しないどころか、警戒されてしまいますから」

「買い被り過ぎよ。私の噂は知っているでしょ?」

「はい。ですが、その噂も夜会でのセリーヌ様を見て信憑性が全く無いということが分かりました。それに、アーチボルト様が隣国の王女様ではなくこの国の騎士との婚姻を前王へと望んだことは上級貴族の者達は皆聞き及んでおります」


頭が痛いことに、アーチボルトは公の場で前王に物申していたらしい。

ジレスから聞いたときは手に持っていた扇子を折ってしまった。


「そこの騎士はセリーヌ様の護衛ではありませんよね?」

「……そうね。今日このお茶会でだけ同行を許した者よ」

「王が婚姻を望んだ騎士ですね」


ティア嬢がフランに視線を向けたことによって、隅に立っていたフランに皆の視線が集まった。驚くフランを見てミラベル嬢は手を振り、モーナ嬢は軽く頷く。

本人には伝えていないが、フランが護衛騎士としてお茶会に同行しているのは彼が近い将来私に代わって正妃となる予定だからだ。

アーチボルトはフランへの好意を周囲に隠していなかったし、婚姻云々の噂まで流れている。

だから側室候補が集まる場にフランを連れて来て様子を見る必要があった。


「男の方を非公式に愛人にしている方は多々います。家の為に妻を娶り、子を産ませ、跡継ぎを儲けたあと愛人の側に入り浸る。結婚じたいが政略目的なためそれでも構わないと思っています」


BLゲームなだけあって男性を愛人にしている貴族は多い。形式上は愛人なのだが、実際には妻である女性と愛人である男性の扱いは逆だったりするらしいが。


「ですが、それは自身の役目を果たしていればの話しですが……婚姻間もない大国を後ろ盾に持つ王妃様、王の寵愛を受ける愛人。そこへ側室をとは、セリーヌ様は何をお望みなのですか?」


アーチボルトの寵愛を独り占めしているフラン。王妃の立場からすれば何としても跡継ぎを産み立ち位置を確保したい。そんな中で王妃に子がいないのに、子を産む可能性がある側室を王妃は選び始めた。

何か目的があるのかとティア嬢は言っているのだろう。


「貴方達は、私が何かを画策していても、側室を希望するのかしら?」

「アーチボルト様の綺麗なお顔が歪むのを眺めていられるのでしたら是非」

「面白いことは大好きですから」

「一番近い場所で国の行く末を見物してみたいのです」


ミラベル嬢、モーナ嬢、ティア嬢の三人は素を曝けだし陰謀でも策略でもなく自身の素直な欲求を口にした。

側室候補は一癖も二癖もある令嬢。

けれど、これくらい癖がなければアーチボルトとは付き合ってはいけないだろう。


ただ純粋に好意を持ち、振り向いてくれるのを待っていては駄目だったのだから。


「側室には、アーチボルト様の子を、ヴィアンの跡継ぎを望むわ」


私の言葉に一瞬目を見開き、直ぐに笑みを浮かべた三人に私も微笑んだ。



※※※※※※※



お茶会終了後、アネリは片付け、フランは部屋まで着いて行くと駄々をこねるので部屋の外で待機していたテディに任せ、アデルと二人で自室へと戻るべく静かな廊下を進む。

私達以外誰もいないことを確認し、小声でアデルの名を呼んだ。


「なにか?」

「【王国の騎士】って恋をし、青春を謳歌し偶にドキドキ展開のシリアスが混じっているのよね……」

「…………」

「それなのに、シリアス、シリアス、またシリアス。なにこれ、金返せレベルよ」

「……セリーヌ様は、悪役ですから」

「…………」


この後は夕食中にアーチボルトに側室の話をしなければならない。

悪役って……こんなに苦労するものだっただろうか……。


夕食中。アーチボルトにお茶会でのやり取りを報告し、以上、この三名から側室をお選びくださいと告げた。


「……その、三名からか?」

「えぇ、何かご不満でも?」

「いや、不満というか……他にもっと、あれだ……まともな者はいなかったのか?」

「家柄も申し分ありませんし、彼女達ならフランとは上手く付き合っていけると思いますわ。出来ましたら双方の派閥からと思っていましたが、三名共側室に召し上げても構いません」

「…………」


さて、項垂れるアーチボルトは誰を選ぶのだろうか。

部屋へ戻ったあとアネリ達とアーチボルトの側室を予想しながら楽しく過ごした。



翌週。

ヴィアンの城下を進む馬車を、道を開け端に寄っている人々が眺めていた。

白馬に引かれる馬車にはラバン国の紋章が彫刻され、車体の屋根の上には王冠が取り付けられている。

それを囲むように黒い隊服を身につけた黒馬に乗る騎士達。

ラバンの黒服隊は戦場へと出たことがない者達でも知っている。

ラバン国王太子、レイトン・フォーサイスの飼い犬。


ギーは馬車の窓を軽く叩き中にいる人物に声をかけた。


「我が主様。間もなく城内です」

「そう。楽しみだね……ね?」


レイトンは隣に座っている黒いマントのフードを目深く被った男に嬉しそうに笑みを向けたが、男は舌打ちしたあとレイトンから窓の外へと視線を移した。

その二人の様子を見て、同じく馬車の中にいたグエンは苦笑した。


※※※※※※※


兄を出迎えるために広間ではなく外へ出ていた私は、門を潜り抜け入って来た馬車を目にし胸が温かくなった。

馬車の扉から出てきたのは私と同じ色彩をまとう人物。

彼は銀糸で刺繍が施されている黒いマントを身につけ、両脇には黒服隊の危険人物ギーと私の元護衛騎士のブレア、背後には数十名の黒服隊の面子を引き連れ長い階段を上がって来る。

あと数メートルの位置まで近づいたとき、黒服隊はその場に立ち止まりレイトン一人が私の前に立った。

伸ばされた手が私の頬に触れ、何度も優しく確かめるように撫でられる。


「久しぶりだね、セリーヌ」


返事を返す間も無く腕の中に囚われ、額に唇が押し当てられた。


「会いたかったよ」


ヤンデレ、シスコンのレイトン・フォーサイスが、ヴィアンへと訪れた。





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