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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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皇子と王子




城の城壁から降り立ち、微かに痺れた脚を摩り被っていたフードを下ろした。

フードの下から現れたダークブロンドの髪は毛先だけレディシュと極めて珍しい色合いのもの。

この髪だけで彼が何者かなど直ぐにばれてしまうだろう。

長く押し込めていた所為で絡まった髪を無造作に手で搔き上げると、直ぐ近くから舌打ちが聞こえてきた。

振り返ると同じように灰色のフードを深く被った女が「まったく、どうしょうもない」と呆れた声を出しセオフィラスの髪を整えた。


「……セオフィラス様、髪が傷みます」

「コーネリアス……お前は俺の身体より先に髪の心配か?」

「最前戦で剣を振るっている方が何を馬鹿なことを。宿に着くまではフードを被っていてください」

「あー、視界が悪くて鬱陶しくてな。エルバートは?」

「エルなら、まだ逃げた者を追っています。何か分かれば宿に戻ってくるでしょう」

「殺られなければな」

「それこそ心配無用です。あの化け物をどうにか出来るのはセオフィラス様とラバンの鬼才ぐらいですから」

「酷い言われようだな」


フードを被った二人組は城から離れ街へと足を進めていた。


「で、夜会に居ましたか?」

「あぁ、大きくなってはいたが直ぐに分かった。国境沿いで見かけたときには目を疑ったが、本当に騎士になっていた」

「怪我は?五体満足でしたか?」

「お前なぁ、そんなに心配なら自身で確かめれば良かっただろ」

「それが出来ないからセオフィラス様に聞いています。で、どうでしたか?」

「大丈夫だ、見たところ元気そうだった」

「そうですか、テディは元気でしたか」


ほっと吐息を零し柔らかな笑みを浮かべるコーネリアスに苦笑し、夜会で隊服を身につけた弟子を思い出した。

供を連れ旅をしていたときに訪れた村で、テディは一人で一生懸命に剣を振っていた。

小さな村では大人達が村を守っている。大きくなったときに役に立つかもしれないとテディに剣の指南をした。

コーネリアスは知識を、エルバートは訓練方法を。村を離れるときに騎士になりたいとは言っていたが。


テディは隊服の色からして第三騎士団だろう。隣に居たのは第一騎士団の者だったが、仲が良いのか楽し気に談笑していた。

あれからどれくらい強くなったのか、あの頃から訓練を怠っていなければ第一騎士団に入っていても可笑しくはないと思うのだが。


「どうかしましたか?」

「いや、月日が経つのは早いな」

「年寄りみたいなことをおっしゃらないでください」

「……年寄り」

「さあ、さっさと宿に戻りますよ。身体中埃くさくてかなわない」


深夜だらか、人通りは少なく誰に見られることもなく宿に着いた。

流石に疲れたな……と首を回し、取り敢えず湯浴みでもしてゆっくりするかと考えていたセオフィラスは数分後その予定が狂うことになった。


「何故、お前がいる?」

「ん?」


宿の亭主に遅くなったと詫び、軽い夕食を頼み部屋へと足を踏み入れた瞬間、コーネリアスが剣に手をかけたのを制し椅子に座りワインを飲んでいる男に声をかけた。

男の側には見慣れた顔が一人。


「ギーがお供か、グエンはどうした?」

「グエンは置いて来たよ。色々準備があるからね」

「……なんの準備だ?コーネリアス、部屋へ戻っていい。エルが戻ったら報せてくれ」

「分かりました。夕食は、ギー取りに行けますか?」

「はい」

「……持てますか?……いえ、やはり私も一緒に行きます」

「コーネリアス様、それくらい出来ます」

「重くて転ぶかもしれないでしょう?階段から落ちでもしたらどうするのですか」

「…………」

「小さいのですから、無理をしてはいけません」

「……主様ー」


コーネリアスの子供扱いに半泣きなったギーは、主人であるレイに助けを求めるがレイはにこやかに見守るだけで口を出す気はないらしい。


「コーネリアス、ギーはコレでもお前より強いぞ」

「主様ーー!」


レイの膝元に蹲り幼子のように喚くギーはこう見えてもかなりの手練れだ。

グエンの方はそうでもないが、ギーもまたレイと同様にあまり敵には回したくない。


「ギー、こちらに来なさい。顔を拭いてあげますから」

「ええっ!?主様ー助けて」


普段は手厳しいコーネリアスは幼子相手にはとても甘く、相手がうんざりするほど甲斐甲斐しい。

コーネリアスはギーに擦り寄られるレイを羨ましそうに見て、ギーに視線を移すとふにゃりと笑み……手が可笑しな動きをしていた。


「コーネリアス、いい加減にしろ」

「……部屋へ戻る前に夕食を取って来ます。レイトン様はいかがいたしますか?」

「僕はもういただいたから」


レイはギーの頭を撫でていない方の手を振り応え、俺はレイの向かい側の椅子に腰を下ろした。


「それで、何故ヴィアンに居る?」

「近くまで来ていたんだよ」

「近くまで?……いや、いい、深くは聞かない方が良さそうだ」

「聞いてくれないのかい?」

「お前を動かせるのは国王か、セリーヌだけだろう?」

「セリーヌに関係していることなら僕は自らの意思で動くよ」


供は一人、グエンは近くで準備か……。


「滞在予定は?」

「街には六日」

「街には……その後は、城か」

「正解。大丈夫だよ、帝国のセオの私室を訪ねるときのように無断で行くわけではない。それに、一旦グエンの所へ戻るから……セリーヌに会うのは二週間後かな」

「国王の許可は下りているのか?」

「当たり前だよ、勝手なことをすれば王太子の座から降ろされる。三日後にはラバン国から使者が到着する予定だよ」


ラバンの国王はレイの手綱をしっかり握っているみたいだな。

だが、国賓を迎えるのに準備期間が二週間程度など短過ぎる。


それ以前に……。


「セリーヌに会ってきた」

「そう、どうだった?」

「今夜開かれた夜会、その最中に本来なら王が収める騒ぎをセリーヌが表に立ち諌めた。それだけではない、テラスへ一人向かう際つけられた護衛騎士は二名、王妃の護衛にその人数かと驚き、別に護衛が待機しているのかとも思い探ってみたが……皆無だ。そして、テラスへ出たあと何者かに連れ去られ、後を追って目にしたのは裸足で下種な暴漢共に追われ逃げていたセリーヌだ。連れ去った者には逃げられたから今エルに追わせている」

「…………」

「心配はいらない、無事助け侍女に渡した。なぁ、レイ……セリーヌ・フォーサイスはラバンの至宝だと言われている王女だ。その至宝が嫁いだ先があの王擬の元か?」

「擬ね……ふふっ、確かに」

「一体どのような条件で嫁がせたのかは知らないが、お前にしては詰めが甘い」


レイは家族を、その中でもセリーヌを大切にしている。

万全を期して嫁がせたのならまだ分かる。

が、調べてみれば侍女も護衛騎士も自国からは連れて来ず、現在王妃についている侍女と護衛騎士の人数は定かでは無いときた。

故意に情報を隠しているのかとも思ったが、夜会でのアレを見れば察するというものだ。

無能な王に使えない補佐、立場をわきまえない臣下。


大切な妹を荒波に放り込んだようなものだ。


「全て、知っていて嫁がせたな?」


帝国を牽制する為に二国が王子と王女を婚姻させ同盟を結ぶ。

レイからは、アーチボルトに熱を上げたセリーヌ本人が強く希望したこととは聞いてはいたが……アーチボルトに惚れている?アレがか?何かの間違いだろう。

とてもじゃないが、セリーヌがアーチボルトに向ける目は愛する者を見るようなものではなかった。


「参ったなぁ、流石に今夜起きたことはまだ僕の耳に入ってきていなかった。セオフィラス・アディソン、セリーヌを助けてくれて有難う」

「偶然だ……」

「それでも、とても感謝している。あの子は何も僕に言ってはくれないから……。我慢強いとは思っていたのだけど、ヴィアンに嫁いでからはそれに輪がかかっていてね……そうか、あの馬鹿は賊を城内に侵入させたのか。手引きしたのはセオみたいに内部の者だろうね」


殺気立ち目の色を変えたレイを止めるかのように扉がノックされ、夕食を持ったコーネリアスが入って来た。


「セオフィラス様、レイトン様、殺気が外まで漏れています」

「俺ではない」

「いえ、セオフィラス様もでしたよ。気づかれていなかったのですか?」

「俺が殺気立つ理由が無いからな……」

「夕食です。お話し中みたいですが、少しでも口に入れてください」

「あぁ」


マナーは悪いが温かいうちに食べてしまわなければ後でコーネリアスが煩い。

それに、今は公式な場ではないからな……とスープを口にし「話しの続きだ」と幾分か冷静になったレイに目で促した。


「セオの質問の答えだけれど、アーチボルトの為人も、彼の背後にいる者も、セリーヌがヴィアンでどのような扱いを受けるであろうかも、全て分かっていて嫁がせたよ」

「…………」

「セリーヌの希望でもあったのだけれど、この婚姻は国同士のもの。互いの国に王子、王女が産まれた場合、婚姻させると約束していた。結果として約束が実現出来ないということは仕方がない、ヴィアンの前王や父のように婚姻を結べる相手がいないのだからね。けれど可愛い娘が心配だからと、私用で嫁がせないなどとラバンの国王が、あの父が行うわけがない。あの人は家族を愛し大切にしてはいるが最優先は自国の民だ。ヴィアンの内部は最悪だけれど、それでも大国。ラバンとヴィアンが手を組めば帝国も迂闊には攻めてこれないだろ?だから最初から嫁がせないという選択肢は無い」

「お前が進言してもか?」

「僕は国王ではなく、すげ替えのきく王太子だよ。何かを決める決定権も無いし、軍を勝手に動かす権限も無い。必ず王の許可が必要になってくる。僕に出来ることはたかが知れている。同盟の条約にヴィアンを潰せる理由を盛り込むことが限度」

「はなから潰す気だったのか」

「奪われた者を奪い返すだけだよ。父も条約が破られれば止めはしない」

「……ヴィアンを手に入れれば守らなくてはならない民が増えるぞ。また振り出しに戻るだけだ。だったら同盟など必要ない、俺が皇帝になるのを待っていれば良かったんだ」

「待っている間に帝国に攻められたら困るんだよ。現に、何度も国境の砦に手を出しているだろう?」

「……あの人なら、やりそうだな」

「それに、戴冠式を終えてもね……僕はセオフィラス・アディソンが無暗に領土を増やそうなどと考えていないことを知っているが他国は違う。セオが王位についても現皇帝のように侵略すると思われているだろうね。それだと同盟の話しは消えない」

「…………」

「父は同盟、セリーヌはアーチボルトの妻、僕はセリーヌ。全ての望みを叶える為に、セリーヌをヴィアンに嫁がせ同盟を結び、あの子が自らの意思でラバンに戻ることを決めれば、僕はヴィアンを滅ぼしてセリーヌを取り返す」

「わけが分からない……そもそも、セリーヌが助けを求めなければお前は動けない。もし助けを求めたとしても俺が皇帝になる前では帝国との戦争は回避出来ないだろ」

「戦争を回避したいのは父で、僕は帝国と戦争になっても構わない」

「……ヴィアンと戦争中に背後からやられるぞ」

「馬鹿だねセオフィラス、僕が何の勝算もなく口にすると思う?無駄に他国をまわっていたわけじゃないよ」

「どこと手を組んだんだ」

「それは幾らセオでも秘密だよ」


微笑むレイを横目に頭の中では各国の情報を浚う。

ヴィアン、ラバンに次いで力のある国……。

あるにはあるが、あの国の王位継承者は病弱で部屋から一歩も外に出ていないと聞いている。

だが、レイが目をつけるとすればあの国で間違いないはずだ。


「それで今回のようなことが起きたのでは意味がないだろ。命がいくつあっても足りない」

「自国にいてもさして変わらない。馬鹿な臣下はどこにでもいるからね」

「ならばと賭けにでるのか……」

「もし、セリーヌがこの世からいなくなったとしたら、元凶を潰したあと僕も後を追う」

「狂ってるな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


全く褒めてなどいない……。


「詰めが甘い原因はお前の力不足か」

「はっきりと痛いところを突いてくるね。僕が国王だったら良かったのだけど……早く退位しないかなぁ」

「……当分先だろうな。で、お前がねじ込んだ同盟条約の条件は?」

「セリーヌからの手紙、身の安全、精神の安寧。今のところ破られていないのは手紙くらいだろうね……」

「セリーヌが泣きつくのを待っていたら一生潰せないだろうな。アレは普通の王女ではなさそうだ」

「失礼だね……僕の可愛い妹は努力家で我慢強いがか弱くて泣き虫で、いつだって守ってあげたくなる……とても優しい子だよ」

「傾倒しているところ悪いが、誰だそれは?努力家だの我慢強いだのは分かるが、泣き虫?か弱い?アレがか?セリーヌは王女ではなく、王子に産まれてきた方が良かったと思ったくらいだぞ」

「……誰、それ。え、セオは本当にセリーヌに会ったのかい?」

「お前達兄妹そっくりだろうが。顔だけじゃなく中身もな……」

「え、だから、誰の話しをしているのかな?見目は似ているけれど中身は別物だよ」

「あー、あれだな。身内贔屓というやつか。分かった、もう良い」


シッシッと手を振り中断していた食事をとる。

泣き虫でか弱い王女は侯爵相手に立ち回らないし、あれは間違い無く気が強い上に頭が回る。警戒心も強かったしな……。


『改めてお礼を申し上げます。私を、助けてくれてありがとう』


微笑んだ顔は可愛いというより……。


「セオ?なんだいその顔は、悪人のような顔をして食事をしないでくれるかい」

「お前な……俺の顔を好む女は多いんだぞ」

「中身は兎も角、外見ならアーチボルトに敵う者はいないんじゃないかな」

「……あれに負けているのか?最悪だな」

「勝ち負けはどうでも良いよ」

「セリーヌはアーチボルトの外見が好きなんだろ?なら、レイも負けてるな」

「…………あの顔、ズタズタにしてやろうか」

「主様、いってきます!」


レイの血を吐くような呻き声に反応してかギーが短剣を手に持ち窓に近づいていく。


「待て、レイ、ギーを止めろ!」

「ギー、確実に仕留めてきなさい」

「了解しました」

「あー、ったく!コーネリアス!おいっ、手伝え!」


ギーの首元を掴み部屋を出て、隣の部屋の扉を叩き中から出て来たコーネリアスにギーを放り渡し扉を閉めた。

部屋の中からはギーの叫び声が聞こえてくるが……聞かなかったことにしよう。


「セオフィラス様?そのようなところで何をしているんですか?フードも被らず……コーネリアスに怒られますよ」

「エルか、丁度良い。部屋で報告を聞く」

「……あの叫び声は?」

「気にするな」


何度もコーネリアスの部屋を振り返るエルを促し自室に戻り、部屋の中にレイがいることに僅かに驚きを見せたエルは即座に状況を判断し報告にはいった。


「セリーヌ様を狙った男ですが、街に入った辺りで逃げられました。城内もそうですが、街の中も詳しいことからこの国の者で間違いないと思われます」

「エルから逃げたのか……俺も奴を一度見失ったからな」

「君達二人から逃げ切るなんて、何者だろうね」

「また狙われるぞ、どうするつもりだ」

「ギーの配下をセリーヌにつけるよ」

「最初からつけておけば良かっただろ」

「セリーヌはヴィアンの王妃になるのだからと父が許可を出さなかった」

「まぁ、正論だな。だが、それは嫁ぎ先がまともな国だったらの話しだ……護衛騎士があれでは、影などついていないだろうな」

「今のヴィアンに影はいない、必要ないと勝手に判断した臣下がいるからね。前々王にはいたみたいだけれど」

「暗殺してくださいと言っているようなものだろう……」

「アーチボルトに暗殺の心配はなかったんじゃないかな。臣下の言いなりだし、王位継承者はアーチボルト一人なのだから」

「ある意味、幸せな奴だな」

「なるべくしてなった王だよ。で、逃げた者の特徴は?」

「顔は見えませんでしたが黒髪の青年です。後程書面にしてお渡しします」

「黒髪?何処の国の者かな」

「俺も知らないな……黒髪は俺の髪以上に目立つから直ぐに見つかるだろう」

「……隠してなければね。じゃあ、そろそろお暇するよ。ゆっくり休んで」

「……お前、何処に泊まっているんだ?」


立ち上がり部屋を出ようとするレイを呼び止めた。

「ん」と指を横に向け、コーネリアスとは反対側の部屋を指差す。


「これから六日間、よろしくね」


にこやかに手を振り出て行ったレイに唖然とし、同じく立ち尽くすエルと目を合わせた。


「……セオフィラス様、あの方護衛は」

「ギーだけだ。大方、俺達は護衛兼遊び相手だな」

「……それに、黒髪の青年の捜索ですね」

「あぁ、帝国の者を顎で使えるのはレイだけだな……」


この後六日間、興味本位でヴィアンになど来なければ良かったと俺は後悔することになった。






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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読ませて頂いています。3度目の転生を先に読んで、面白かったので逆行して別の作品を読んでます( ^ω^ ) こちらの作品は少し更新が止まってるようなので、また続きを書いて頂けると嬉しいです。…
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