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『8/6 ノベルstory07 発売』私は悪役王妃様  作者:


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【裏側】夜会途中



第一騎士団から第三騎士団までを集めた帰還式の夜会が開かれた。

騎士団から選ばれた精鋭部隊の近衛騎士隊は

帰還式には参加せず、夜会の警護にあたっている。

本来なら王都の防衛と王族の警護を担う近衛隊、普段ならクライヴ率いる数名は夜会で王族の側に控え、他は広間に集まっている貴族を担当し城内と城外は騎士団に任せている。だが、今夜はその騎士団を労う為に開かれた夜会。全ての警護を近衛隊が行なっていた。


国境の争いに勝利し王都が祝杯ムードに湧く今夜、常とは違う警護の人数と近衛隊という不慣れな者達、城内の守備が最も甘くなっていた。



※※※※※※※



side テディ


ただ純粋に、美しいと思った。


いや、セリーヌ様はいつもお美しいのだけれど……今夜は特別というか、僕の語彙力では兎に角素晴らしいとしか言えない。

アーチボルト様の護衛騎士にセリーヌ様を預け、広間に入った。

帰還式も夜会も初めてのことでどうしていいのか分からず取り敢えず隅に立っていることにした。

広間の中央には第一騎士団のメンバーが集まって談笑し、周りを囲むかのように着飾ったご令嬢方がいる。

第二、第三騎士団も同じようなことになってはいるが、第一騎士団には敵わない。

セリーヌ様には楽しみなさいと言われたけれど、僕には夢のような世界で……色々驚いている間に夜会が終わってしまうと思う。

どうせならセリーヌ様の護衛としてお側にいたかったなぁとぼんやりしていると、中央にいた見知った相手と目が合い手を振りながらこっちへ来るアデルを見て苦笑した。


「よぉ、来れないかと思ってたわ」

「セリーヌ様が帰還式に出られなかったから夜会は出るようにって、気を使わせてしまったみたいだよ」

「……王妃様の護衛騎士になったって噂は本当だったか」

「うん、昨夜ね」

「良かったのか?出会いは奇跡云々言ってただろ」

「僕が自身で決めたことだよ。心配かけてごめん」

「はいはい、万事上手く解決したみたいで良かったよ。まあ、第三騎士団よりは王妃様専属の方が断然良いしな」

「あー、うん、そうだよね……アデルも王族の専属騎士の方が良いと思うよね?」

「…………お前か」

「…………ははは」

「ははは、だと?可笑しいと思ったんだよ!今朝隊長に呼ばれて行ってみたら、珍しく真剣な顔して何か手渡されたと思えば王妃様からの招待状だ」

「招待状?」

「招待状という名の令状だ。で、隊長の口から出たのが王妃様の専属騎士だ。テディ、何してくれてんの?これ、断れないんだぞ?」

「信頼できる騎士に心当たりがないかと聞かれて、アデルしか思い浮かばなかった。俺も付き合ってやるって言ってたし」

「……言ったな、確かに言った。違う意味でな」

「セリーヌ様にはちゃんとした護衛が必要なんだと思う。身分とか権力とか噂とかさ、そういったものでしか人を見れない騎士ではなくて……」

「お前を選ぶあたり好感はもてる。が、俺はないだろ……良く知らない王妃様に忠誠なんて誓えないぞ」

「でも、アデルなら中途半端に護衛なんてしないでしょ?」

「はぁ……まぁ、話してみてから決めるわ。嫌だったら騎士辞めれば良い話しだしな」

「ごめん」

「謝るなよ、冗談だから」

「あれかも知れないし、いちごいちえ?」

「それはお前にとってだろーが」


二人で笑い合いながら話しをしていると、広間の扉が開き王とセリーヌ様が入って来た。

並んで歩く二人はとても眩しくて、二人で踊るダンスに見惚れて、やっぱり僕には夢のような世界だと思った。


アデルには隅にいないで広い場所に行こうと言われたけれど、セリーヌ様に何かあれば直ぐに駆けつけられるよう目立たず良く見える場所が此処だったから動きたくない。

それを伝えたら苦い顔をしながら飲み物などを運んで来てくれた。

途中セリーヌ様と目が合い慌てて頭を下げたのだけど……何故か変な顔をされていた。どうされたのだろう。


途中、騎士団の先輩からいつものようにチクチク嫌味を言われたり、ご令嬢に囲まれたアデルの丁寧な口調に吹き出して睨まれたり。


僕なりに夜会を楽しんでいたとき、それは起こった。


アーチボルト様とセリーヌ様の側に貴族の方が近づき次第に険悪な空気になっていった。

アデルに「ベディング侯爵とその娘だ」と耳打ちされ成り行きを見守っていた。

セリーヌ様は見事な手腕でその場をおさめ、ウィルス様を護衛にする許可を得られ騎士達から歓声が沸き起こる。


「アデルはウィルス様がどういった方か知っている?」

「いや、噂程度にしか。ウィルス・ルガードは人の域を超えた強者だの、国の裏側で働く王家の剣だとか、その噂もどこまでが本当なんだか……しかし、とんでもねぇ奴を護衛に指名したな王妃様は」

「ウィルス様本人が希望していることらしいよ」

「……まじかよ。は?なに、もしかしなくてもそんな奴と同僚になるのか俺は」


嫌そうな顔をするアデルに頷き肩を叩いておいた。

ウィルス様やアデルが僕より凄い騎士なのは仕方がない。僕はまだ新米騎士、経験値も足りなければ剣の腕も差がある。

でも、それはこれからの努力で埋めていけるはずだ……いや、必ず追いついてみせる。

だから、そんなことよりも今僕が気にしていることはクライヴ様とフランで。


やはり、夜会になど出ずセリーヌ様の護衛についていれば良かったと再度思っていた。

僕は護衛騎士なのに、離れた場所から見ているだけでなく、せめてお側に控えていられたら。

側にいるクライヴ様とフランを見て、胸が苦しくなった。


「テディ、腹減らないか?」


アデルに肩を組まれ俯いていた顔を上げた。

お腹は、空いていると思う。

軽く頷き視線をセリーヌ様に戻すと、テラスへ行かれるのか護衛を連れてアーチボルト様から離れて歩き出していたところだった。

慌てて後を追おうとしたらアデルに腕を掴まれ引き止められてしまう。


「はい、ストップ。心配なのは分かるが、テディは夜会を楽しんで来いと命令されたんだろ?それは、お前を想う王妃様の優しさだ。あの方には王の護衛がついているから大丈夫だ」

「でも……」

「だが、俺もご令嬢方の熱い視線に疲れてきた。飲み物や食べ物でも持って、此処よりは涼しそうなテラスへと出て休憩でもしようじゃないか」


片目を閉じてニッと笑ったアデルに同じように笑って返し、一歩踏み出したときだった。


「きゃあ!」

「えっ!?」


悲鳴と共に女性が僕に倒れ込んできた。咄嗟に抱え声をかけるが意識がないのか目を閉じたまま動かない。

このままにしておくわけにはいかず、「失礼します」と抱え上げた。


「何処か休める場所は?」

「テディ、こっちへ。休憩室が用意されているから」


アデルと二人で女性を運び、親族の方が来るまで待ち、その後引き止められかなり時間が経ってしまった。

二人で足早に広間まで戻り、そこで目にしたものは……。


騒然とした広間の中央で、向かい合っている相手に手にしているものを高く上げ、妖艶に微笑むセリーヌ様だった。




※※※※※※※



side アネリ


今夜の夜会は特に注意していなければとは思っていましたが……。


アメリア嬢の小芝居から始まり、侯爵の思惑通りにことが運ぶと思われていたものは全てセリーヌ様によって粉砕された。

見事です、としか言いようのない一連の流れに胸が高鳴り私は思わず見惚れてしまっていた。

これは、是非ウィルスに伝えないと。

貴方を勝ち得る為にセリーヌ様が侯爵と真っ向から戦ったのだと!きっと感激し泣き崩れるに違いないわ。

頬が緩むのを抑え、周囲に目を配り広間から出た。

目的の人物に付かず離れずの距離を保ち歩き続ける。


立ち止まったのを確認し、城内の廊下、柱のかげに身を潜め聞き耳を立てた。


「お父様!お待ちになって」

「……広間へ戻りなさい」

「でしたらお父様も、何故あのように言われて言い返しませんの!あのような、捨てられた王女なんて、どうとでも」

「アメリア!口を閉じなさい。此処は城の中だ、誰が何処で何を聞いているのかなど分からないのだぞ!」

「……私は侯爵家の娘ですわ!アーチボルト様の側室になり、いずれはこの国の跡継ぎを産みますのよ……それなのに、アーチボルト様はあの女に騙されているのだわ!」

「二度も言わせるな、広間へ戻りなさい」

「……わかりました。私にだって、考えがありますわ」

「アメリア?」

「お父様はお先にお帰りになって、私はアーチボルト様に今夜こそ絶対に見初めていただきますから」

「アメリア!?」


捨てられた王女などと何を馬鹿なことを。

セリーヌ様は「ラバンの至宝」と呼ばれている方。本来なら他国へ嫁ぐことなどないはずの方だった。

それを……王が他の者へと現を抜かし、あろうことかセリーヌ様を粗末に扱ってきた。


広間へと戻るアメリア嬢を見て失笑する。


幾ら侯爵が力を持っていても、跡取りがあれでは。でも、愚かなアーチボルト様とはお似合いなのかもしれない。

人はそれに見合ったお相手がいるといいますし。


広間では先程のことなど無かったかのように皆夜会を楽しんでいた。

アメリア嬢は数名の令嬢と貴族の子息方と談笑し時折アーチボルト様を熱い視線で見つめている。

何か動くのではないかと思っていたが、このような場で侯爵の娘という価値しかない者に何が出来るというのか。

視界の端にアメリア嬢を入れ、セリーヌ様を探すが見つからない。アーチボルト様の側には近衛隊の二人と宰相、ならばセリーヌ様は何処へ?

誰か広間を離れるときには残りが必ず護衛についている手筈になっている。


「アネリ」

「……お父様?」


エムとエマの姿を探していると背後から声をかけられた。アーチボルト様が王となってから夜会にも出席されていなかったお父様がこの場にいることに驚いた。


「久しぶりだな」

「いらしていたのですね」

「今夜はセリーヌ様が出席なさると聞いたからな」

「城内に手の者を入れているのですか?」

「いや、親切な者からの情報提供だ」

「ご冗談を……で、何をなさっていたのですか?」

「セリーヌ様にご挨拶をしてきたところだ」

「何処にいらしたのですか!?」

「テラスにいたが……居場所を把握していないのか?」

「少し広間を離れていましたから、セリーヌ様にはエムとエマがついているはずです」

「そうか、お前も戻りなさい。何かあってからでは遅いのだから」

「分かっていますわ。先程ベディング侯爵はお帰りになりました」

「分かった」


お父様と離れ広間を歩いていると横から腕を捕まれ、そのまま引きずられるようにして走りながら私の腕を掴むエマに声を潜めながら問いかけた。


「エマ?何があったの」

「セリーヌ様がテラスからいなくなられたわ、今エムが探している」


急ぎテラスへと行けば、その場には誰も居らず。エマと分かれ庭園に向かった。


セリーヌ様を見つけたとき、あまりの光景に堪らず叫んでしまっていた。


「セリーヌ様!!ドレスが、髪が、何故そのようなお姿に!?」



※※※※※※※



side エム


その者を見つけたのは偶然でした。

夜会の最中始まった騒ぎの中、広間の人気の無い場所に装飾が施されているフードがついた長いマントを身につけ一人佇みセリーヌ様をジッと見つめていたから。


フードを被り、顔を隠しているが誰も気に留めていない。態と気配を消しているのか……私も注視しなければ気づけなかったと思う。

時折他の場所に視線を向け、隠れていない口元が笑っている。

その者の視線を辿るが広間の隅を見ているらしい……そこには騎士しか居らず、首を傾げた。


アネリが広間を出て行くのを確認し、エマと目を合わせセリーヌ様の周囲を警戒する。

このまま何事も無く夜会が終われば良いのですが。

セリーヌ様が護衛を連れテラスの方へと向かっていたとき、広間の隅で悲鳴が上がりエマが確認の為向かった。

私はさり気なくテラスへ近づきセリーヌ様がぼんやりと庭園を眺めているのを見ていた。


暫くするとリンド伯爵が来られ、セリーヌ様と並び何かお話しをされていた。

伯爵なら大丈夫。フードを被っている者は初めに目にした場所からは動いてはいない。

エマはどうしたのでしょうか?

まだ戻って来ていないエマに胸が騒いだ。


「ご苦労」


伯爵がテラスから戻り護衛の騎士に声をかけ去って行かれると、広間側にいた騎士がセリーヌ様に飲み物をと声をかけその場を離れてしまった。

残りの護衛はテラスに一人……。

この場を離れるわけにはいかないが、誰が用意をしたのか分からないものなどセリーヌ様に飲ませるわけにはいかない。

広間にアネリを見つけ、代わってもらおうとしたときだった。

フードを被った者が、私の横を駆け抜けていった。

向かっていった場所はテラス!

急いで後を追いテラスに出ると、暗闇に倒れている者を見つけ側に走り寄るがセリーヌ様ではなく護衛についていた騎士だった。


「何があったのですか、セリーヌ様はどこに!」

「……っ、後ろから」


背後から襲われたのでしょう。呻き声を上げる騎士を揺さぶり問い詰めるが役に立たないと放り投げた。


「エム?」

「エマ!何をしていたの、セリーヌ様がどこにもいらっしゃらないの!」

「アメリア嬢の取り巻きの令嬢がテディに近づいていたの。……何があったの?」

「分からないわ、けど、セリーヌ様に今護衛が誰もついていないのよ!」

「アネリに知らせてくる」

「私は探しに行くわ」

「分かった!」


エマはアネリの元へ、私は庭園に向かって走り出した。


セリーヌ様、セリーヌ様!

どうしょう……あのマントの者から目を離さなければ良かった。


やっと見つけたとき、激しい怒りが湧き上がった。


「無礼者がっ、その手を離しなさい!」


叫んだ私とは対照的に、目の前にいる二人は私を見て当惑し目を見開いていたことに気づくまであと少し。



アネリが駆けつけ叫び声を上げたのが数分後。


テディが目にしたセリーヌの報復まで数十分後のことだった。






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