騎士の二人
参ったわ……コレ今どの辺りなのだろう。
広間に騎士達と宰相と王と私。まだ帝国とやり合ってないからその前の小さないざこざを解決して来たってところかしら?
不味い、良く思い出せ、えーと。
「大丈夫!これ18禁ゲーじゃないから!」といい笑顔で親指を立ててる姉を思い出し微かに口元が引きつる。
違う、家族共有のリビングでBLゲームをやる腐った姉など今はどうでもいい。
私はゲームを一切やった事がないのに選りに選ってコレ!?
唯一知っているゲームと言えば、姉がやっていたBLゲーム「王国の騎士」とか如何にも厨二臭い名前のもので、今の私の現実世界でもある。
リビングのソファーに寄りかかり奇声を上げる姉、ソファーの上に横たわり肘掛を枕にし小説を読む私。
偶に「見て!この美しいスチル!あぁ〜も〜ほんとヤバイ、美し過ぎる!」と私の足を叩きながらテレビの画面を見ろと言う姉を足蹴にし嫌々ながら画面を見ていた。確かに綺麗だとは思った。背景とか、衣装とか?
あ、何か色々思い出してきた。ちらっと気付かれない程度に隣を盗み見て、若干隣に座っている人から距離を取った、と言っても余り変わらないが気持ち的に離れたかったのだ。
目だけを動かし確認作業に勤しむ。
まずは、あの前に出ている騎士二人ね、右側が確かクライヴ・アルマン。近衛騎士隊の隊長だっけ?
『クライヴ様は主人公より十歳年上の二十六歳、ワイルドイケメンなのに俺様じゃなくて兎に角優しいし、伯爵家の長男で近衛騎士の隊長!美味すぎる!』
『美味いの意味がイマイチ分かんない。しがらみ多過ぎ、嫁になりたくない』
『いいの!ゲームなんだから!』
『へいへい』
『でね、任務で立ち寄った村で両親を亡くした主人公ちゃんと出会うのよ!優しくてひたむきな姿に惹かれて連れ帰るの!』
『……拉致か?誘拐か?』
『ちっがーう!色々あったの!騎士になりたかったの主人公ちゃんが!』
『権力に物言わせて騎士に入隊?やりおるな隊長』
『もう!ちゃんと入隊試験があるの!結構大変だったんだからね!』
記憶が頭の中に流れてきて若干辛い……。
確か王国の各騎士団から選抜された精鋭によって構成されているのが近衛騎士隊。将来が約束されたエリートで本人は伯爵家ときたら女なんて選び放題なのに、生涯唯一の愛する者が男とか……いや、別に良いとは思うよ。人の好みにケチつける気はないから。
ただ、私とは関係が無いのならって話しで。
ジッと見ていたのに気付いたのか、兎に角優しい隊長様と目が合った……。
逸らされるかと思いきや何故か見つめ合う状態に焦る。何コレ、どうしろと?
普段の私だったら……と考えて苦笑する。
隣の王様以外眼中に無い状態だったのだから目すら合わないわ。
「……っ」
何かに驚いたのか一瞬ビクッと身体が動いた気がするが、姿勢が辛くて身体が痙攣でも起こしたのだろう。隊長様から視線を外し隣の騎士に移る。
左側の騎士、彼がこの世界の主人公。
ふわふわの茶色の髪に二重の大きな目、ピンクの唇が白い肌に映えて……女の子じゃないわよね?え、男装女子とかあり得るんじゃ。
『主人公ちゃんの名前はねフラン!過去最強のヒロイン!』
『姉さん、もう遅い時間だから声抑えて。ほらクッションあげるから』
『むーむー!って、死ぬわ!顔面にクッション押し付けるとか鬼妹!!父さんも追加クッション渡そうとしないで!』
『家族団欒の場所でBLゲームしながら熱く語る姉さんの方が鬼でしょ』
『オープンなのよ私は!隠れてコソコソしないの。楽しい事は皆で共有するの!』
『分かったから、テーブル叩かない。ほら続き話していいから、どうどう』
『そうだった!でね、フランは平民上がりだと馬鹿にされながらも団長に追い付けるよう日々努力するのよ。その間、仲間の騎士達から意地悪されるイベントがあるんだけど』
『騎士の風上にも置けない奴等だね』
『そうなの!それを隊長が見つけて何度も助けに来てくれるの……はぁ、隊長素敵』
『……え、隊長って近衛でしょ?主人公はただの騎士でしょ?毎回どうやって助けに来るの?』
『愛の力よ!で、国境沿いで起きたいざこざで活躍したフランは褒美として王が直々に近衛にするの』
『エリート中のエリートの近衛って、益々嫌がらせされるでしょ。てか、新米騎士が近衛って無理があるし』
『なにおーっ!大変だったんだからね、三日睡眠削って挑んだんだから!』
『寝なよ姉さん』
『んで、この後は徐々に周りに認められて可愛い顔と華奢な身体のフランは近衛ならず騎士達の華になるのさ!ふははははー!最終的には帝国との戦争で勝利して国の英雄になるのよ!やれば出来る子フランちゃん』
国の英雄って、これまた凄い出世コースだなとか思ってたわねあの時は。
フランちゃん、クライヴとは鎧が違うからまだ近衛じゃないのかしら?もしかして、コレがフランが近衛になるイベントとか?
緊張しているのか強張った顔をしているのに主人公補正なのだろうか?瞳が潤んでいて可愛らしい。
そんでもって、こっちも流石騎士。
視線を感じたのか話しかけている王から私に視線を移してしまった。
やめて、それ不味いから、不敬だから。
困った顔(自分なりに)をしながらさり気なく視線を外し後列に並ぶ近衛と騎士達を眺めながら心の中で盛大に溜息をついた。
キラキラ輝く鎧にイケメン揃いの騎士様。
入隊試験には顔の美醜の項目でもあるのだろうか?
どこを見ても筋肉ムキムキなマッチョとか強面の厳ついおじさまとか見当たらないんだけど。隅に隠れてるのかしら?
「では、褒美を」
物凄い美声に思いっきり横を向きそうになり焦った!何よその声!?誰だ?
目だけを動かしお目当の人物を見つけ軽く目眩がした……。
「第三騎士団所属、フラン」
「はい!」
手に紙を持ち斜め下に優雅に立っている宰相様。
美声の持ち主は貴方なのか……。