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『11/4コミカライズstory6発売』私は悪役王妃様  作者: 雪


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28/113

謀



あの晩アーチボルトの口から語られた前王の側近のこと、ジレスから聞いた侯爵の話。


二つのことからキーファ・ベディングは重要な人物だと知ったのだけれど……ゲーム『王国の騎士』で、彼は誰のルートでも出てきた覚えがない。勿論、娘のアメリア嬢も。

姉は、アーチボルト、ジレス、クライヴの三人それぞれを攻略し終えていた。

でも、残りのシークレットキャラなる者達は攻略途中だった。

なら、ベディング侯爵は残りの彼等のときに絡んできたのだろうか。


「ご挨拶が遅れましたこと、大変失礼いたしました」


たとえ侯爵といえども、王族相手に話しかけるには許可が必要となる。

あのアメリア嬢の親だからそんなこと無視して「ごきげんよう」とかいきなり口を開くと思っていたのだが。

ベディング侯爵は一番身分の高いアーチボルトに伺いを立て、それに対して多分お馬鹿王は頷いたのだろう。

自身の名を名乗り、お手本のような礼を披露したあと、私が口を開くのを彼の背後に立っている者と黙って待っている。


「セリーヌ、ベディングは前王を長きに渡り支え続け、今は私を支えてくれている。頼りになる方だ、だから今夜セリーヌに会わせたかった」


嬉しそうに語るアーチボルトはベディング侯爵を余程信頼しているのだろう。

殊勝な態度で目線を下げて返事を待っている侯爵は、何も知らなければ私も騙されていたかもしれない。


「ごきげんよう、ベディング侯爵。お忙しいのでしょう?会えて嬉しいわ」


嫌味にならないよう声音と表情に気をつけながら返すと、嬉しそうに破顔した侯爵。

この人は本当にアメリア嬢の父親なのだろうか。アーチボルトと話しをする侯爵をそっと観察する。

前王とアーチボルトに『口を開くな、動くな座っていろ、何もせずに言われたことのみを行え』と刷り込みをしたのはベディング侯爵で間違い無い。

ジレスから聞いた侯爵の話しからも彼が良い人ではないと分かる。


侯爵の見目がいかにもな感じのでっぷり太った、性格の悪そうな顔付きで、嫌味たらしく会話をする人なら良かったのだが……。


侯爵はアーチボルトには劣るがかなりの美形っぷり。彼が破顔した瞬間周囲にいた婦人や令嬢方がざわついたぐらいだ。

少年や青年の年頃の男では出せない、大人の色気を醸し出す侯爵の緩い笑顔は破壊力抜群だったらしい。

腹黒ジレスが古狸だと例え苦々しい顔をしていたのは恐らく同族嫌悪ね。

目は口ほどに物を言うが、アーチボルトと会話をする侯爵の笑顔は完璧。心から笑っているようにしか見えない。

この人の場合、性格が顔には出ていないから話をしてみなければ分からないだろう。


面倒ね、頭空っぽの人間だったら良かったのに……。


「セリーヌ様」


アーチボルトと話しを終えたのか、侯爵は私に向き直り深刻な顔つきで口を開いた。


「何かしら」

「先程、セリーヌ様が私の娘であるアメリア・ベディングと、宰相の執務室前で顔を合わせたと報告を受けました」

「そうね、アメリア嬢が貴方の娘なら、会ったわ」

「その際に娘が無礼を働いたと、謹んでお詫び申し上げます」


へぇ、知っていたのね……。


これまた綺麗に頭を下げた侯爵。

タイミングを計ったかのように音楽が止み、同時に人の動きも止まり私達は注目の的となっている。


彼に報告をしたのは一体誰だろう、彼女だろうか?

初めから彼の背後に立っていた人物、アメリア嬢は頭を下げたままずっと大人しくしていた。

父親が側にいるからか、それとも皆が集まっている場所だからなのか。朝とは大分印象が違う。


「ベディング侯爵、頭を上げなさい。誰に何を聞いたのかは知らないけれど、貴方が謝ることではないわ」

「セリーヌ様のお心遣いに感謝申し上げます。アメリア来なさい」

「はい、お父様」


アメリア嬢はゆっくりと動きだし、侯爵の横に並び礼をとり顔を上げた。

朝はキツめの顔立ちだと思っていたが、化粧と淡い色のドレスのせいだろう……どこからどう見ても儚げなご令嬢だった。

女は化粧や髪型、洋服ひとつで大分印象が変わるとはいうけれど、これは変わり過ぎではないのかしら?


「先程は大変失礼いたしました。私が宰相様の執務室前で騒ぎを起こしたことで、セリーヌ様の気分を害してしまいました」


か細い声で謝るアメリア嬢の声は、静かな広間では割と聞き取れるのかもしれない。又もや周囲がざわついた。

というか、アメリア嬢の言っていることか微妙に可笑しい。

私が口を開こうとした瞬間、何故かアーチボルトが私の前に立ち遮られてしまう。

ちょっと待ちなさい、頭空っぽ代表が何をする気なのよ!?

無理よ、アーチボルトじゃその親子には勝てないから!

が、脳内花畑王は一度此方へ振り返り、良い笑顔で頷き口を開いた……。


「それについては私も先程ジレスから報告を受け、ベディングからも今聞いた。ジレスの執務室前で、アメリア嬢と近衛隊の者とが騒ぎを起こしていたときにセリーヌが居合わせたのだろう?」

「はい、お恥ずかしながら……護衛を連れずに女性だけでいたところ、近衛隊の者だという方に言いがかりをつけられてしまい困っていたときに、セリーヌ様がお見えになりました。私はセリーヌ様との面識がなく、騎士団の者と侍女一人だけをお連れになっていたので、王妃様だと気がつかずに無礼な物言いをしてしまって……」

「近衛隊だという者は、この者で間違いないか?」

「はい、アーチボルト様」


アーチボルトが顔だけをいつの間にか側に来ていたフランに向け、アメリア嬢もフランを確認し頷いた。


「言いがかりをと言っていたが、この者からは逆にアメリア嬢からされたと聞いている。それを見たセリーヌが助けに入ったとも」

「そんな……私、そのようなことしていませんわ……」


口元を手で隠し、目を潤ませ、今にも泣き出しそうな顔でアーチボルトを見上げるアメリア嬢は周囲で聞き耳を立てている者達からすれば可哀想なご令嬢で……。

微妙どころか完全に事実が違っていることをさもそれが真実かの如く語り、庇護欲を掻き立てられるアメリア嬢はまさに女優だわ。

そして、そんな守ってあげたい系な女子に弱いのが……。


「すまない、アメリア嬢を傷つけるつもりは無かった」

「良いのですアーチボルト様、私が悪かったのです」

「泣かないでくれ、何かお互い行き違いがあったのだろう」

「アーチボルト様……」


何この空気、ちょろ過ぎるでしょアーチボルト。

コレはマズイわねと、フランの様子を伺い後悔した。

流石にフランもこの場では会話に乱入し騒いだりしていない代わりに、顔が大変なことになっていからだ。

拳を握り締め、額に青筋を立て、笑顔がひきつっている。左の腰に下げている剣の辺りを腕がふらふらしている……抜くな、絶対にやめなさい!


「セリーヌ、フラン。アメリア嬢を許してやってくれ。双方誤解があったようだ」


ハラハラしながらフランを伺う私などお構いなしに、素っ頓狂な回答を出したアーチボルト。

え、どの口が「私を頼れ」と言っていた?何かあればって、今でしょ!

喜劇だわ、やっぱりアーチボルトが介入してくるとこうなるのね。知っていたわ、分かっていたわよ……これっぽっちも信じてなどいなかったわ!


「私は、初めから謝罪は必要無いと言っていましたでしょ?ねぇ、ベディング侯爵」


此処で、ベディング侯爵の派閥が半数以上いる場で本当のことなど言っても悪く言われるだけ。


「はい、セリーヌ様」


全て侯爵の指示だわ、彼にしてやられた。


「フランも、良いか?」

「はい」

「これで、全て解決だな」

「ありがとうございます、アーチボルト様」

「もう平気かアメリア嬢」


優しく微笑みかけるアーチボルトに、顔を赤くし嬉しそうに笑みを向けるアメリア嬢を周囲は微笑ましげに見ている。


側室を頑なに拒んでいたアーチボルトに娘を、と言ったところで断られることは分かりきっている。

長年アーチボルトを見てきたベディング侯爵なら、アーチボルトがどのような女性を好むのかなど知り尽くしている。

ならば、あとは舞台を整え投入するだけ。

その舞台は大きければ大きいほど良かったのだろう。

タイミングを見計らっていた侯爵は娘が起こした騒ぎを使い、アーチボルトが好意を寄せるフランではなく、王妃である私でもなく、アメリア嬢を擁護する様を周囲に見せつけた。

アーチボルトがどういうつもりでそれを行なったかなど関係ない。

人の噂など脚色され勝手に物語が作られるのだから。


侯爵は、そんなに自身の娘を側室にしたいのか。


平民のフランやお飾りの王妃など、何も出来ない取るに足らぬものとでも思っているのでしょう。

でもね、ベディング侯爵。

我が家の家訓は、やられたら倍返しなのよ。







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